桐野夏生『デンジャラス』あらすじと感想を相関図つきで解説(ネタバレ有り)
桐野夏生さんによる『デンジャラス』は、文豪・谷崎潤一郎を取り巻く女性たちの醜い嫉妬や感情の機微を鮮やかに描いた小説です。今回はNHKでドラマ化も決定した『デンジャラス』のあらすじをネタバレありでご紹介いたします。
『デンジャラス』あらすじ
近代日本文学を代表する小説家の一人である谷崎潤一郎は、血の繋がらないお気に入りの女性達を身の回りに置き「谷崎王国」ともいえる家族を築いていた。
3番目の妻・松子の妹であり、名作『細雪』の雪子のモデルとなった重子は、谷崎のミューズとして寵愛され、必要とされることに生きがいを感じていた。
しかし、義理の息子の嫁・千萬子が現れてから谷崎の関心は若く刺激的な千萬子に移り、雪子は姉の松子と共に千萬子への嫉妬や対抗心を燃やしていく。
谷崎は、そんな女性たちの生存をかけた立ち回りを敏感に感じ取って観察し、貪欲に作品への糧としていった。
一つ屋根の下で繰り広げられる女たちの熾烈なマウンティングと作家の「業」。
これまで感情を表に出さず耐えてきた重子は、ついに谷崎と真正面から対峙し、ある衝撃的な“鉄槌”を下す。
『デンジャラス』登場人物&相関図
◆登場人物
◆谷崎潤一郎・・・日本を代表する文豪。血縁関係なく身内をお気に入りの女性で固め、男性を排除する傾向がある。家族となったものには優しく惜しみない援助をする。
◆松子・・・谷崎潤一郎の三番目の妻。谷崎作品のミューズと称される。谷崎が千萬子に夢中になるにつれて不安感を募らせるが、周囲に悟らせないように振る舞う。
◆重子・・・松子の妹。姉の松子を尊敬し谷崎家の実務を担う。千萬子の谷崎の代表作の1つ『細雪』の雪子のモデル。
◆千萬子・・・清一の妻。日本画家の権威の孫で大病院の娘。器量が良く、はっきりした物言いと豊かな観察眼をもつ。谷崎は千萬子との文通で刺激をうけ、老人の性を描いた傑作『瘋癲老人日記』を生み出す。
◆清一・・・松子と清之介との間に生まれた息子。
◆美恵子・・・松子と清之介との間に生まれた娘。控え目な性格。役者になることを夢見ている。
◆小津清之介・・・松子の元夫。美恵子と清一の父。道楽者で父から受け継いだ事業に失敗し、松子と離婚し子供も手放したと小樽で事業を始めるが
◆田邊 弘・・・重子の夫。徳川家斉の曽孫。
◆のゆり・・・清一と千萬子の娘。谷崎が孫のように溺愛する。
◆相関図
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『デンジャラス』結末(ネタバレ有り)と感想
◆狂気的な「老年の性」と作家の業
華やかな姉の松子の影で静かに谷崎に仕えてきた重子は、「細雪」のモデルになったことを心の拠り所にしてきましたが、義理の息子の嫁・千萬子の存在によって自分の居場所が脅かされることになります。
重子は、谷崎から言われた「好きです」という言葉を支えに、自分こそが谷崎の芸術的インスピレーションの源泉だと思ってきました。
そのた谷崎の仕事のためならと、谷崎家の実務を献身的にこなしてきました。
それなのに谷崎は息子の嫁である千萬子に熱烈な恋心を抱き、自分たち姉妹を「バアサン」呼ばわりする始末。
重子は松子と共闘し、何としてでも谷崎の心をつなぎ留め、資産を千萬子に持っていかれないように牽制していきますが、谷崎はそんな女たちの様子を冷静に観察し作品に昇華していきました。
このとき谷崎は70歳過ぎた老人ですが、枯れることない新作への挑戦と情熱は狂気的です。
松子をないがしろにし、千萬子に贅沢をさせ家を建ててやり、毎日のように手紙を書く谷崎に不満をつのらせていく重子。
実際には、千萬子は谷崎のことを男性とは見ておらず一線を越えることはなかったようで、谷崎が発表した『瘋癲老人日記』であらぬ噂をたてられ迷惑だったのかもしれません。
谷崎は事実ではないことを事実らしくつくり上げ、本のなかでの自分を演じることで、周囲が反応し変化していく姿に興味があったようです。
◆重子が下した“鉄槌”と足フェチの美学
谷崎のエスカレートする身勝手な言動に我慢の限界を迎えた重子は、ついに谷崎に千萬子との関係を問い詰めます。
そこで描かれるのが、あまりにも象徴的なクライマックスで、なんと土下座した谷崎の肩に右足を置き、千萬子と手を切ることを約束させたのです。
この演出は、谷崎潤一郎が終生抱えていた足フェチ(足へのフェティシズム)という性癖を逆手にとった見事な表現です。
これまで静かに耐え、虐げられてきた重子が、谷崎がもっともひれ伏す形で優位に立つ——その女の凄みと執念には圧倒されます。
◆現代の視点から見る「搾取」と「自我の暴走」
一方、谷崎から与えられる庇護と引き換えに作品作りのピースとして切り売りされる女性たちの構造は、今の時代ででいえば搾取にも見えます。
しかし、本作に登場する女性たちは決して哀れな被害者ではありません。むしろ、それぞれのプライドを賭けて、激しく自我を暴走させながら生き抜こうとします。
その泥臭くも強烈なエネルギーこそが、本作を最高にスリリングで魅力的な人間ドラマに仕立て上げているのです。
文豪の華やかな私生活の裏で女性を翻弄し続けた谷崎潤一郎の晩年を描いた『デンジャラス』。ドラマで気になった方はぜひ小説も手にとってみて下さいね。
NHKドラマ『平成細雪』結末までのあらすじと相関図は⇒こちら


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