『名探偵のままでいて』認知症の祖父が挑むミステリーのあらすじ・ネタバレ感想
「第21回 『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞した傑作ミステリー『名探偵のままでいて』は、認知症を患い、幻視に悩まされる祖父が、孫娘の持ち込む日常の謎を鮮やかに解き明かしていく小説です。今回は、衰えゆく祖父との切なくも温かい絆、そして終盤に向けて加速する、20年前の悲劇へとつながる衝撃の結末をネタバレ有りで解説します。
『名探偵のままでいて』あらすじ
小学校教師・楓の祖父は聡明で頭脳明晰だったが、レビー小体型認知症を患ったことで実際にはないものが見える幻視に悩まされていた。
しかし、祖父の症状には波があり、ミステリーマニアの楓が謎を持ち込んだときだけ鋭い知性が発揮され事件を解決へと導くのだった。
そんななか楓は、数ヶ月前から毎日のように不審な無言電話を受け、ストーカーの気配を感じるようになる。
祖父は孫娘を守るため犯人にある罠を仕掛けるが、実はストーカーの歪んだ目的には、20年以上前に起きた楓の出生にまつわる重大な過去の事件が関わっていた。
『名探偵のままでいて』登場人物
◆登場人物
◆楓・・・小学校の教師。ミステリーマニア。
◆祖父(碑文谷)・・・楓の祖父。元小学校の校長。71歳。レビー小体型認知症を患っている。
◆岩田・・・楓の同僚男性教師。明るく真っ直ぐな性格だが、児童養護施設出身で複雑な家庭環境で育つ。
◆季節・・・岩田の後輩。熱狂的なミステリーマニアで、アルバイトをしながら小さな劇団の座長を務める。楓に淡い恋心を抱く。
◆早苗・・・楓の母。楓を出産してすぐ不慮の事故で亡くなったとされる。
◆親バカさん・・・祖父のリハビリを担当する初老の言語聴覚士。娘を溺愛することから“親バカ”さんと呼ばれる。
◆おかっぱさん・・・訪問介護ヘルパーのなかのリーダー格。
◆ソフトクリー屋さん・・・祖父を担当する理学療法士。実家のソフトクリーム屋を手伝っている。屈強な身体をしている。
『名探偵のままでいて』結末ネタバレ
◆楓の出生の秘密
祖父から母・早苗は、不慮の事故で亡くなっていたと聞かされていましたが、実は母はストーカーによって殺害されていました。
楓を身ごもり結婚式を迎えた早苗は、父(楓の祖父)とバージンロードを歩いているときに乱入してきたストーカーに刺されて命を落としました。
お腹の中にいた楓は奇跡的に無事取り出されましたが、犯人は犯行後に姿を消し、事件は迷宮入りに。
その後、早苗の夫(楓の父)もガンで亡くなり、祖父は両親の代わりに楓を深い愛情で育ててきたのでした。
◆恋の三角関係
物語では岩田と季節という男性二人と楓を巡る三角関係も描かれます。
岩田は楓と同じ小学校で働く同僚教師で、ミステリーには全く興味がない屈託のない青年で、楓にとってどこかほっとするような存在です。
一方、岩田の後輩である季節は、アルバイトをしながら小さな劇団の座長を務める若者で、熱狂的なミステリーマニアのためよく楓と推理合戦を行います。
二人はクスッと笑えるようなアピール合戦を繰り広げながらも、終盤では危険にさらされた楓を命がけで救うナイトとして活躍します。
ラストで楓は祖父に「初めて好きな人ができた」と明かし、今度相談に乗ってほしいと告げます。
しかし、どちらを選んだのかは明言されず、作中にも登場する古典名作「女か虎か(The Lady, or the Tiger?)」のように、結末は読者の想像に委ねられる美しい余韻を残して幕を閉じます。
◆ストーカーは誰?
祖父がレビー小体型認知症を患っているのは確かですが、実は孫の楓を狙うストーカーをあぶり出すため、ボケていた風を装っていただけでした。
祖父はこの憎き犯人を破滅させるため、鋭い頭脳を総動員して巧妙な罠を仕掛けていき、20年前の楓の母の事件も解決するのです。
ネタバレはここまでとなりますが、詳しい真相を知りたいかたはぜひご自身の目で確かめて下さいね!
『名探偵のままでいて』見どころ・感想
◆「煙草を一本くれないか?」謎解きのスイッチが入る瞬間
レビー小体型認知症は実際にはないものがみえる(幻視)という特徴的な症状がある疾患です。
このレビー小体型認知症を患う祖父の脳は、見えない部分を補おうとフル稼働し、思わぬ視点から事件の核心にせまっていきます。
祖父が「煙草を一本くれないか?」という決め台詞を吐いた瞬間、物語の空気が一変。
かつての鋭い知性が覚醒し、バラバラだったパズルのピースが一気に組み合わさる瞬間は鳥肌ものです。
◆タイトルに込められた、切なくも温かい孫娘の願い
本作のタイトル『名探偵のままでいて』には、病気によって失われていく聡明な祖父との優しい時間が1分1秒でも長く続いて欲しいという孫の楓の願いが込められています。
楓にとって祖父は、亡くなった両親に代わって愛情深く育ててくれたかけがえのない存在です。
楓の目的は事件を解決することですが、それ以上に鋭い慧眼を持つ祖父との触れいあいを求めています。
謎解きを繰り返すたびに、衰えていく祖父の姿は確実に近づいてくれる別れの時を暗示しており、それを受け入れることは楓にとって魂が砕け散るような痛みを伴います。
◆ちりばめられた名作ミステリーへのオマージュ
真犯人が判明する終盤では、祖父の認知症は楓や犯人が思っているほど進行しておらず、祖父はボケ老人のフリをすることで犯を油断させ尻尾を掴みました。
可哀そうな認知症の老人という立場を利用し、ミステリーに精通した祖父らしいトリックで、狡猾な犯人が罠にハマる姿が爽快でした。
また本作は「タンポポ娘」や「安楽椅子探偵」など過去の名作ミステリーへの愛とオマージュがふんだんに散りばめれており、誰かと語りたくなるような物語になっています。
ぜひ本作だけではなく、文中にでてきた興味のあるミステリーを読んでみるのもおすすめです。
ミステリー『十角館の殺人』あらすじ~結末・相関図付は⇒こちら



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