『存在のすべてを』の結末ネタバレを相関図付きで簡単に解説
小説『存在のすべてを』は、30年前に発生した誘拐事件を当時取材していた新聞記者が、天才画家となった被害男児の姿を知り再び事件の真相を追いかける物語です。今回は映画化も決定した『存在のすべてを』の結末までのあらすじを相関図付きでご紹介いたします。
『存在のすべてを』あらすじ
平成3年 前代未聞の「二児同時誘拐事件」が発生し、一人は無事保護されるがもう一人の男児 内藤 亮は3年間行方不明となり、犯人も特定されないまま捜査は迷宮入りした。
事件から30年後 新聞記者の門田次郎は旧知の刑事が亡くなったことをきっかけに事件の被害者について取材すると、被害男児の亮が写実画家・ 如月脩として活躍していることを知る。
亮が過ごした「空白の3年間」に隠された真実とは。
『存在のすべてを』登場人物&相関図
◆登場人物
◆門田次郎・・・新聞記者。新米記者のとき1991年に発生した「二児同時誘拐事件」を取材していた。30年後に旧知の刑事・中澤が亡くなったことで未解決事件の真相を追うことを決意する。
◆土屋里穂・・・画商の娘。誘拐の被害者だった少年・内藤亮の同級生。亮の才能に惚れ恋心を抱く。
◆内藤亮・・・画家。実母から虐待を受けていた4歳頃に誘拐され、その3年後の7歳の頃に無事祖父母の元に帰される。圧倒的な絵の才能を持ち、人気写実画家・如月脩として活躍している。
◆内藤瞳・・・亮の母。シングルマザーで育児に関心がなく育児放棄していた。現在は北九州でスナックを営んでいる。
◆木島茂・塔子・・・瞳の両親で亮にとっては祖父母にあたる。茂は健康食品会社社長。3年間行方不明だった亮が戻ってきて育てる。
◆岸朔之介・・・銀座の一等地で画廊「六花(りっか)」を構える。野本貴彦の絵に見せられ、世に出そうと後押しする。野本夫妻を支援した。
◆岸優作・・・朔之介の息子。
◆野本雅彦・・・亮を誘拐した実行犯。弟の貴彦とその妻・優美に騙す形で亮を預けた。少年時代から素行が悪い。
◆野本貴彦・・・報道で雅彦から預けられた亮が誘拐事件の被害者だと知るが、雅彦に返せば亮の命が危ないと考え、妻の優美とともに3年間亮を育てた。才能ある画家だったが美術界から圧力をかけられ存在を消した。幼い亮に写実画の技術と本質を教える。
◆野本優美・・・貴彦の妻。夫の貴彦とは幼なじみ。貴彦と共に愛情を持って3年間亮を育てた。英語が堪能で橋本孝子という偽名で英語塾を経営していた。
◆酒井龍男・・・北海道「北星物流」会長。岸朔之介の紹介で野本貴彦に魅了され肖像画を依頼し、野本夫婦に住む家を提供する。
◆中澤洋一・・・かつて県警本部の特殊班にいた所轄刑事。
◆立花敦之・・・「二児同時誘拐事件」のもう一人の被害者。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
『存在のすべてを』結末をネタバレ
◆空白の3年間と犯人
亮を誘拐した犯人は野本雅彦という男だった。
この雅彦という男は写実画家の貴彦の兄で、昔から素行が悪く家族に迷惑をかけてきた。
雅彦は誘拐した亮を知り合いの子どもだと嘘をつき、弟の野本貴彦とその妻優美に預けた。
3日だけという約束で亮の面倒を見始めた貴彦だったが、わずか4歳の亮が描いた絵をみて彼に類まれなる才能があることに気づく。
そんななかテレビの報道で亮が誘拐された子どもだと知るが、すでに身代金受け渡しが失敗に終わっていることから、亮を雅彦に戻せば用済みとして殺される可能性があった。
また実母の元に返したとしても、再び虐待されることが分かっていたため、貴彦と優美は亮をしばらく手元に置いておくことにした。
それから関西地方を経て、画商岸朔之介の手助けにより貴彦と優美は亮を連れて北海道に渡った。
自身も写実画家の貴彦は亮の才能に可能性を感じて写実画の技術と本質を教え、妻の優美の本当の母のように愛情深く亮の成長を見守った。
亮もまた劣悪な環境から救われ、野本夫妻を本当の両親だと思うようになっていった。
この3年間の生活によって亮は普通の子どもとして躾もなされ、絵の技術を磨いていったのだった。
◆家族のおわり
亮は4歳から7歳となり翌年の4月には小学生になるが、そうなると近所の目も厳しくなり野本夫妻の子どもとして生活することが難しくなることが予想された。
これを機に朔之介は野本夫妻に、亮を祖父母である木島茂・塔子の元に返そうと提案した。
幸い祖父の茂は会社を経営しており裕福で、亮が帰ってくることを心待ちにしていた。
一方で 警察に不信感を抱いていた茂は、亮を預かっていた野本夫妻について決して他言せず大切に育ててくれると約束した。
別れの日、貴彦、優美、亮は家族写真を撮り、亮は朔之介に連れられて木島夫妻のいる神奈川県に返された。
◆二年後
亮を手放した野本夫婦の心にはぽっかりと穴があき、警察の影におびえながら、無気力に暮らしていた。
そんな二人の前に兄の野本雅彦が現れ、亮を匿っていたことの口止め料をせびりにきた。
それから間もなく貴彦は失踪し、優美も姿を消した。
貴彦と雅彦がその後どうなったのかの記述はなく、読者の想像に委ねられる形になっています。貴彦が雅彦を道連れに命を絶ったのか、貴彦が雅彦を葬りどこかで暮らしているのか分かりませんが、ここでも亮を守ろうとする献身的な愛が感じられます。
◆再会
岸朔之介に連れられた門田次郎と岸優作に連れられた土屋里穂は、北海道にある亮のアトリエにやってきた。
亮は貴彦と里穂との思い出の曲ジョージ・ウィンストンの「Longing/Love」を弾きながら彼らを待っていた。
そして野本夫妻との別れの日に撮影された家族写真を元にした写実画を門田と里穂に見せた。
これは貴彦が描いた絵で、亮が引き継ぎ、手を加え完成させようとしている絵だった。
そして門田は亮の傍らに寄り添う女性に目を向けた。
その女性は亮の“母” 優美だった。
『存在のすべてを』感想
『存在のすべてを』は誘拐事件、虐待などヒリつくような警察小説かと思いきや、写実画家の凄み、家族の愛など静謐さを感じさせる温かい作品でした。
被害少年の「空白の3年間」の謎を解くため、関係者の人生を辿る新聞記者は、誘拐事件の裏に隠された血の繋がらない家族の愛を知ることになります。
7歳の被害男児が3年後に祖父の元に戻されたという情報だけみると、母から虐待されていたうえに、監禁されるなんてかわいそうだと思う人も多いでしょう。
しかし亮にとってこの3年間は、人間らしさを取り戻し、愛されることを知り、自らの才能を開花させることができた素晴らしい日々でした。
それだけに貴彦、優美、亮という血の繋がらない3人が紡いだ暮らしの詳細にが分かれば分かるほど、「別れ」のシーンは嗚咽してしまうほど辛いものがあります…
優美が亮を見送ったあと、「みんなといっしょで ずっとくらしたい」という亮が書いた短冊をポケットから取り出すシーンは号泣必須です。
そして「布団乾燥機」も家族を繋ぐキーアイテムとして良い仕事をしています。
荒んだ生活をしていた亮が優美が布団乾燥機で温めた布団に入り、その温もりに涙するシーンは印象的で、この布団乾燥機はラストにも登場し、門田が優美の存在に気づくきっかけになっています。
そして亮が父の貴彦から引き継いだ絵も忘れてはいけません。
この絵は、写真以上にあの瞬間の家族を写し取った「存在」そのもので、彼らが共に過ごした証でもあります。
貴彦がいなくなった今、亮は父であり才能ある写実画家の生き方考え方、そして彼の「存在」を証明しようとしていました。
一方、ラストでは優美と亮が再会できたことが分かりますが、貴彦の姿はみえません。
もし貴彦が生きているならば、門田がいずれ書くであろう記事で優美と亮が一緒にいることを知ればいいなと思いました。
ここでは『存在のすべてを』の内容と結末を簡単にまとめましたが、亮と里穂の切なくピュアな恋愛も描かれていますので、気になった方はぜひ小説を手にとってみてくださいね。


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