『月夜行路』原作の結末をネタバレありで解説ママの正体は…
『月夜行路』は夫の浮気を疑う専業主婦が、魅惑的なバーのママとかつての恋人を探すため、文学スポットを巡りながら大阪を旅するロードミステリーです。今回は麻生久美子さん&波留さんW主演でドラマ化も決定した『月夜行路』の結末をネタバレ有りでご紹介いたします。
『月夜行路』あらすじ
専業主婦の涼子は、自分の誕生日の夜に夫の浮気疑惑と反抗期の子どもたち疲れ果て家を飛び出し、銀座の雑居ビルにあるBAR「マーキームーン」に入店する。
そこでママである野宮ルナに出会い、大学時代に本気で愛した恋人・カズトを探しに行くため共に大阪へ向かうことになる。
文学オタクのママはカズトを探しながら文学スポット巡るが、行く先々で様々な事件に巻き込まれて、ママは鋭い洞察力で次々と解決していく。
果たして涼子は、かつて自分を裏切ったカズトに会えるのか、そして美しく魅惑的なママの正体は…。
『月夜行路』登場人物
◆沢辻涼子・・・バレーの元実業団の選手だが仕事を辞め専業主婦をしている。45歳の誕生日に夫の裏切りに我慢できず家出する。
◆沢辻菊雄・・・涼子の夫。清水出版文芸部の編集者。
◆ママ(野宮ルナ)・・・銀座の雑居ビル1階にあるバー「マーキームーン」のママ。トランスジェンダー。洞察力が非常に鋭く、相手の悩みや素性を言い当てる推理力を持ち合わせる。文学オタク。
◆カズト・・・涼子が大学時代に交際していた恋人。突然 別の女性と結婚すると言い涼子と別れた。
◆重原壮助・・・菊雄が担当している大御所作家。
『月夜行路』結末をネタバレ
※以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
突然元カレ探しの旅に出ることになった涼子と付き添いを兼ねて文学スポット巡りを楽しむママは、大阪で近松門左衛門「曾根崎心中」の露天神社、江戸川乱歩「黒蜥蜴」の通天閣などの聖地を訪れます。
しかし行く先々で事件に巻き込まれ、その度にママは類まれなる推理力で警察に協力して解決していきます。(ここも伏線)
そしてようやくカズトの居場所を突き止めますが…。
◆カズトの現在は
涼子とカズトは大学2年生のときに出会い交際をスタートするが、大学4年生になった頃カズトが実家のある大阪で教育実習を終え、一人の女性を連れて帰ってきました。
その女性はカズトは親が経営する会社の取引先の娘さんで、結婚がきまったと言います。
涼子は、その女性がふんわりしたワンピースを着ていたことから妊娠していると察知し、それ以上何も言うことができず別れました。
そして今回の大阪の旅でカズトの実家が分かりますが、カズトは涼子と別れたあとに末期癌で亡くなっていました。
実家で涼子とママを迎えてくれたのは、別れたときにカズトに隣にいたあの女性。
しかし女性は妻ではなくカズトのお姉さんだったのです。
カズトは自分が余命いくばくもないと知り、涼子の将来の夢を邪魔してはいけないと、姉の芝居を頼んで別れ話をしたのでした。
真剣に交際し結婚まで考えたカズトにとって、この決断は身を裂かれるような思いだったに違いありません。
望んだ再会ではなかったけれどカズトに会えた涼子が、翌日ママと宿泊先のホテルを出るとそこには夫・菊雄と子供がいました。
◆ママの正体
ママの正体は、涼子の編集者の夫・沢辻菊雄が担当している大御所作家・重原壮助でした。
ママの実家は、小説家なんて卑しい仕事だと言うほど厳格な家庭です。
ママが賞を獲ってようやく小説家として認めてくれたものの、女性の姿になっていることは両親が生きているうちは絶対に見せられません。
そのため編集者の菊雄は、このトップシークレットを守るためママの頼みごとを聞いてきました。
涼子が菊雄からホステス・明奈へのプレゼントだと思っていたジュエリーもメッセージカードの代筆も、ママが自分の店に上客を紹介してくれた明奈へのお礼として菊雄に頼んだものだったのです。
つまり菊雄は、浮気をしていませんでした。
今回ママから涼子と取材旅行に行くことを報告された菊雄は、原稿のためならと快諾して人探しのヒントをママにメールで伝えていました。
とはいえ菊雄は涼子の誕生日を忘れてしまったり、涼子もまた菊雄と素直に話し合うことを避けていたことも事実。
二人は今回のことをきっかけに夫婦の関係を見直したのでした。
◆ママがダーリンと呼ぶ人物は?
もう勘の良い方はお分かりだと思いますが、ママがダーリンと呼ぶ人物は、涼子の夫・菊雄でした。
ダーリンが旅費や宿泊費を出してくれるといっていたのも、菊雄が勤める出版社の経費で落とせるという意味だったんです。
旅のなかでママは、女性の体で産まれ、好きな男性と結ばれ可愛い子ども二人も授かった涼子を羨ましいと言っていました。
夜中に呼び出してワガママを言えば菊雄はすぐに会いにきてくれるけれど、彼のなかに恋愛感情はなく仕事だと思っていることをママは分かっていました。
涼子が手にした幸せ。それはママがどんなに努力して頑張っても手に入れられないものだったのです。
だから最初ママは、涼子が元恋人に未練があると聞いたときなんて贅沢な悩み!と思ったかもしれません。
ママの優しい嘘に気づいた涼子は、菊雄に気づかれないように新幹線のなかで涙を流すのでした。
『月夜行路』感想
作者の秋吉理香子さんといえば、人間の醜い本性や救いのない結末を描いたいわゆる「イヤミス」の名手ですが、『月夜行路』は大人の恋と旅行記、そしてミステリーが融合した爽快感のあるエンタメ作品でした。
冒頭の家出して迷い込んだバーのママと元カレ探しの旅に行くまでの早すぎる展開と文学に聖地で次々に起こる事件の軽さはツッコミどころ満載でしたが、後半の伏線回収の鮮やかさにすべてが吹っ飛びました。
イヤミスから離れた秋吉さんも好き。
登場人物においても蓋をあけてみれば悪人が一人も出てこず、思いやりのある素敵なキャラクターばかり。
涼子が浮気疑惑と元カレへの未練が起爆剤となり、自分が本当に愛され必要とされていたこと、カズトとママがついた優しい嘘によって目の前の幸せに気付かせてもらえた涼子。
ママが言った
生きることは、その人自身の物語を紡ぐこと 人生は物語で誰もが主人公なの
という言葉に本作のすべてが集約されているように思います。
目立たない脇役でもその人だけのドラマがあり葛藤があり幸せがある。
時には辛く苦しい時代もあるかもしれませんが、振り返れば歩んできた人生の「伏線」だったのかと思える時がきっとくるはずです。
暗い路を歩んでいたとしても、見上げればスポットライトのように自分を照らしてくれている月があり、その路がどこに続いていくのかは自分の歩み次第で変わってくると思わせてくれる作品でした。
またタイトル『月夜行路』は、志賀直哉の自分の出生の秘密や妻の不貞に悩みながらも、精神的な救いを求めていく『暗夜行路』のオマージュになっているとこも洒落ています。
そして本作で忘れてはいけないのが、大阪という地に多くの文学スポットがあること。「黒蜥蜴」なんてずっと東京が舞台だと思っていたので驚きました。
小説には大阪ロードマップが付録で付いてくるので、それをみながら聖地巡礼するのも新しい大阪が発見できてそうです。
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