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『正欲』ネタバレ!あらすじ~結末と感想「多様性」はおめでたい?

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朝井リョウさんの小説『正欲』を読みました。結論から言うと、自分のこれまでの価値観が見事なまでに壊され、今流行りの「多様性」という言葉が虚しく感じるような作品でした。そこで今回は『正欲』のあらすじから結末を簡単にご紹介いたします。

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『正欲』登場人物と相関図

登場人物

寺井啓喜・・・登校拒否児童を子に持つ検事。
桐生夏月・・・地元のモールにある寝具店で働く。
神戸八重子・・・学園祭の実行委員を務める大学生。
佐々木佳道・・・夏月と何らかの秘密を共有している男性。
諸橋大也・・・八重子が思いを寄せる、ダンスサークル所属の美しい大学生。

『正欲』相関図

※無断転載ご遠慮ください。

『正欲』あらすじ

物語は3つの登場人物の視点からそれぞれ進行していきます。

①検事の寺井啓喜は、不登校の息子が教育のあり方に疑問を抱く動画に触発され、自身も動画チャンネルを開設して動画投稿し始めたことが受け入れられないでいる。「普通」であることが当たり前だという考えを持つ。

②「睡眠欲は私を裏切らないから」という理由で寝具店の販売員として働く桐生夏月。「幸せ」の概念を押し付けてくる人を冷めた目で見ている。同じ異常性癖を持つ同級生の佐々木佳道とふとしたきっかけで再会する。

③学園祭の実行委員を務める大学生で、容姿にコンプレックスを持つ神戸八重子。「性的」な目で他人を見ることに嫌悪感を持つ。男性に見られることに恐怖心を抱いていた八重子だったが、ミスコン出場者の諸橋大也からだけはそんな気持ちを感じないと気づく。

最初は接点のなかった3人ですが、寺井の息子・泰希がYouTubeで「元号が変わるまであと〇日チャンネル」を開設したことをキッカケに、関わるようになり、それが冒頭の児童ポルノ事件に繋がっていきます。

以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『正欲』ネタバレと結末

欲望丸出しのコメント

寺井啓喜の息子・泰希は、地元で同じ不登校の小学生の友人と組んで、2人でYouTuberデビューすることになりました。

妻の由美は、生き生きする息子に喜びますが、啓喜は普通の人が歩むルートに戻って欲しいと思っていました。

そんななか、チャンネルのコメント欄に一見すると他愛のないリクエストが寄せられるようになります。

しかし、それは見る人がみれば欲望丸出しのコメントでした。

「罰ゲームで電気あんまして下さい=小児性愛」「水中息止め対決が見たい=窒息フェチ」「水をホースで飛ばして飛距離を争ってください=水フェチ」「ラップでぐるぐる巻きにして下さい=拘束・緊縛フェチ」…

そんなことは露知らない泰希たちは、チャンネル登録数を増やすため、必死にリクエストに応えようとします。

そんな彼らの姿を、こっそり見ていた桐生夏月もまた、水に性的興奮を感じる性癖を持っていたのです。

ちなみに、堅物そうに見える寺井も、夜の夫婦生活で妻が涙を流す姿に興奮する性癖を持っています。

夏月の秘密

桐生夏月は、蛇口から勢いよく飛び出す水や、水風船が割れて弾けるに興奮する性癖を持っていました。

泰希のチャンネルをこっそり見ていた夏月は、「水をホースで飛ばして飛距離を争ってください。」とコメントしている人物が、同級生で同じ性癖を持つ佐々木佳道ではないかと思うようになります。

同級生の結婚式で久しぶりに再会した二人は、同じ性癖であることを理解しあっているので、世間体のために偽装結婚することに。

泰希のチャンネルのコメント欄が、グーグルにより閉鎖されたため、2人は公園で水遊びする動画に収めることで欲望を満たすことに成功します。

それを機に、この世の中には自分たちと同じ性癖を持った人がいるかもしれないと思った佳道は、ネット上で呼びかけ、同じ性癖を持つ3人で公園で落ちあい動画を撮影することを計画するのでした。

「多様性」という言葉の矛盾

学園祭の実行委員を務める大学生・神戸八重子は、容姿にコンプレックスを持っています。

さらに、引きこもりの兄の影響もあり、男性の視線が苦手でしたが、ダンスサークルに所属する諸橋大也には不快感を抱かないことに気づき、惹かれていきます。

しかし、大也もまた「水」に興奮を覚える異常性癖の持ち主。

YouTubeにコメントで水に関するリクエストも送っていたのも、大也でした。

八重子は大也がゲイだと勘違いし、理解しようと彼の家まで押しかけますが、

私は理解者ですみたいな顔で近づいてくる奴が一番むかつくんだよ。自分に正直に生きたいとかこっちは思ってないから、そもそも。お前らが大好きな〝多様性〟って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ。

と一蹴されてしまいます。

そして大也は、佳道が提案した「パーティー(水遊び)」に参加するため公園に向かうのでした。

結末

佳道・大也・ネットで知り合った矢田部陽平の3人は、自分たちの欲望を満たすため、水鉄砲や風船を持ち寄り、水遊びの動画を撮影していました。

この公園での出来事が、冒頭の事件に繋がります。

しかし、そのなかの矢田部が、未成年の買春をしていたことが警察の捜査で明らかとなり、佳道と大也も疑われ、逮捕されてしまいました。

そして、この事件を担当する事になった検事は、皮肉にも寺井啓喜でした。

寺井は、佳道の妻である夏月にも取り調べを行いますが、世間的に嫌悪される犯罪を犯した夫に対して「“いなくならないから”と伝えて欲しい」と話す彼女を理解することができません。

そして、佳道も大也も理解できるはずのない寺井に「目的は子供じゃなくて水だった」とは言えず、全てを諦めてしまのでした。-END-

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『正欲』感想

「多様性」というのは、全体をまとめて包み込むようなとても耳障りの良い言葉ですよね。

かの言う私も、「みんな違ってみんないい」という教育を受け、マイノリティや社会的弱者を受け入れ、肯定したいと思ってきました。

しかし、本作で

「多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると感じています。」

「想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。そんな人たちが使う言葉です。」

という文章を読んだとき、自分の中の「多様性」がとても自分勝手で、醜い言葉だったことに気づきました。

帯に書いてあった「読む前の自分には戻れない」とは、このことでしたwww。恐ろしい。

途中までは、多様性を理解できない人、多様性の枠の外にいる人、多様性のなかで身を揉まれる人など、様々な人たちのありふれた「多様性」の描写だったのですが、最後にかけては文章に殴られるような衝撃を受けました。

個性や多様性という風潮が好きでなくせに、本能的に嫌悪するものは糾弾するか見て見ぬふりをするという、多くの読者(=マジョリティ)の矛盾を的確にエグってくるのです。

そもそも特殊性癖について大抵の人は無知であり、自分の想像力がいかに限定的だったかを思い知らされます。

特に、大也が人に理解されない苦悩を八重子にブチまけ、社会の本音を浮き彫りにするシーンは、自分が追い込まれる感じがして、苦しかったです。

「多様性を認め合おう」という本はたくさんありますが、「多数派が思う少数派からは思いもよらない、もっともっと少数派の人がいる」という一歩先のテーマを扱った作品として、とても新鮮に感じました。

しかし、この物語では結局のところ問題提起しただけで、解決策は書かれていません。

あえていうなら、この小説にも多く出てくる「対話」というものが大切なのでしょうか。

この『正欲』で疑問を投げかけられた読者が、その疑問に対して「対話」していくことで「多様性」という言葉の本質的な部分が見えてくるのかもしれません。

朝井リョウさんによる『正欲』は、今までにない価値観を提案しただけでなく、「多様性」という言葉が持つ違和感を言語化してくれたという点でも、とても意味のある小説だと感じました。

映画『正欲』のキャスト相関図は⇒こちら


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