『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』ネタバレ!あらすじ~切ない結末まで

元警察官が自身の生い立ちを活かした手話を通じて、過去の事件やろう者と対峙する姿を描いた小説『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』。今回は、草彅剛さん主演でドラマ化もされる社会派ミステリー『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』のあらすじから結末をネタバレ有りでご紹介いたします。
『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』登場人物&相関図
◆登場人物
◆荒井尚人・・・聴覚障がい者の両親、兄を持つ。43歳。元警察官。生活のために手話通訳士となる。
◆門奈哲郎・・・17年前ろう児施設の理事長を刺し逮捕され、警察官だった荒井が取り調べの通訳をしたろう者の男。
◆手塚瑠美・・・NPO法人フェロウシップの代表。手塚ホールディングスの令嬢。尚人に法廷手話通訳を依頼する。
◆新藤・・・NPO法人フェロウシップの職員。
◆片貝・・・ろう者。フェロウシップの顧問弁護士。
◆安斉みゆき・・・荒井が交際している女性。バツイチで娘が一人いる。交通課の警察官。
◆米原智之・・・みゆきの元夫。埼玉県警の警察官。尚人の以前の同僚。
◆千恵美・・・尚人の元妻。現在は再婚して子どもが誕生している。
◆冴島素子・・・手話通訳学科の教官。荒井の両親と交流があり、幼少期からの荒井を知る人物。
◆半谷雅人・・・瑠美の婚約者。新進の政治家。
◆何森 稔・・・荒井の狭山署時代の同僚。能美和彦の事件の真相を追う。
◆能美孝明・・・ろう児施設の元理事長。17年前に門奈に刺され亡くなる。
◆能美和彦・・・孝明の息子。34歳。ろう児施設の理事長。何者かに刺され亡くなる。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』あらすじ
この物語のタイトルにもある「デフ(Deaf)」という言葉は、耳がきこえない「ろう者」を指します。
主人公・ 荒井尚人は、ろう者の家族のなかで唯一 聞こえる子ども「コーダ」として育ちました。
幼少期より家族と周囲の通訳をしてきた尚人でしたが、自分一人が聞こえる存在のため「家族」「ろう者」コミュニティに入れず、疎外感と孤独感を抱き続けてきました。
4年前 尚人は、ある出来事をきっかけに警察官を辞め、結婚にも失敗してからはアルバイトをしながら、現在の恋人にも心を閉ざして生活しています。
そんななか生活のため手話通訳士の資格をとった尚人は、ボランティア女性・手塚瑠美と知り合い法廷手話通訳の仕事を依頼されます。
尚人は早速 釈放された被告人の男性の専属通訳を任されるなか、17年前「ろう者」が巻き込まれた事件を思い起こさせる殺人が発生します。
そして、現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。
尚人は2つの事件の真相を知るため少しづつ情報を集めていきますが、そこには おぞましくも切ない結末が待ち受けていました。
『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』結末ネタバレ
◆17年前の事件とは?
最近、公園で何者かに刺され亡くなった ろう児施設「海馬の家」理事長・能美和彦。
実は17年前 和彦の父・ 隆明も、当時理事長を務めていた 「海馬の家」の一室で、背中を刺され亡くなりました。
過去の事件で隆明の命を奪ったのは、「海馬の家」利用していた娘の父親・門奈哲郎という男。
門奈は凶器のナイフを持参して自首してきましたが、彼が「ろう者」であったため、当時警察官だった尚人が通訳を務めることになりました。
ぞのとき尚人は一つも訂正がなされていない供述調書を目にして、ろう者の門奈がきちんと取り調べを受けたのか疑問を抱きましたが、一介の職員である自分にはどうすることもできませんでした。
かろうじて力になれたのは、門奈と家族の面会の許可を取ってあげたこと。
尚人はその面会にも立ち会いましたが、門奈のふたりの娘のうちの次女が、射るような視線を向けながら
おじさんは、私たちの味方?それとも敵?
と手を使って伝えてきました。
自分は「きこえる側」なのか「きこえない側」なのか?尚人はそのときの問いが今でも心に残り続けています。
◆尚人が警察官を辞めた理由
4年前、尚人が全国警察組織30万人を敵にまわして警察官を辞めた理由。
当時 経理課の担当だった尚人は、警察が組織ぐるみで公費から少しづつ金を抜き「裏金」を作っていいることを告発しました。
その告発は一大センセーションを巻き起こし、幹部数人が辞職し、裏金をつくることが一切禁止されました。
世間的には正しいことをした尚人ですが、警察組織のなかでは「裏切者」のレッテルを張られ、仕事も与えられず職場では口をきいてくれる人もいなくなりました。
それから尚人は辞表を提出し、妻とも離婚したのでした。
◆消えた少女
ろう児施設「海馬の家」理事長・能美和彦が何者かに刺され亡くなった事件で、刑事の何森は元同僚である尚人に門奈哲郎の行方について尋ねてきました。
警察が重要参考人として門奈哲郎をマークしていることを知った尚人は、自分なりに門奈について調べることにしました。
そんなある夜、尚人は釈放されたろう者の男性に、電球を取り換えてくれと連絡を受けます。
アパートに向かった尚人は、踏み台を借りようと二つ隣の家を訪ねました。
出てきたのはろう者の女性でしたが、尚人が部屋の奥に目を向けると、見間違えようものない門奈の姿がありました。
そして門奈をこのアパートに匿っていたのは、NPO法人フェロウシップの代表・手塚瑠美であることが判明します。
そして瑠美の承諾を得て、尚人は門奈に手話で能美和彦の事件への関与を問いますが、彼は否定します。
最後に尚人は、17年前自分に「おじさんは、私たちの味方?それとも敵?」と言った姉妹の妹について門奈に尋ねますが、彼には「幸子」という娘一人しかいないと言われてしまいます。
NPO職員も門奈の戸籍謄本には、妻の清美と娘・幸子の名前しかなかったと話しました。
17年前に、門奈の家族としてそこにいた姉妹の妹はどこに消えてしまったのでしょうか。
◆交錯する二つの事件
門奈は消えた妹を探すため、かつて県庁の人事課に勤めていた元妻・千恵美に連絡をとります。
千恵美は、本籍地を他の市区町村にうつせば、新しい戸籍には養子縁組で除籍した人の名前は残らないと教えてくれました。
門奈夫妻は、意図的に妹の存在を消しているー?!
次に尚人は、能美が理事長を務めていたろう児施設「海馬の家」を訪ねました。
すると、「海馬の家」では理事長と子ども1対1の訓練の際に、性的虐待が行われていたという噂を耳にします。
そこで尚人は刑事に何森を呼び出し、17年前に最初に遺体を発見した警備員に話を聞かせてもらうかわりに、門奈哲郎の居場所を教えると交渉を持ち掛けました。
何森は交渉に応じ、門奈の身柄確保の際には尚人が手話通訳を行うことも約束してくれました。
しかし 尚人の異変にいち早く気づいた瑠美は、門奈を別の場所に移動させていました。
瑠美は尚人に「あなたには失望しました。門奈さんは私たちの大事なファミリーですから」と射るような視線を向けました。
そのとき、以前 彼女にどこかで会ったことがある。確かに この眼に見つめられたことがある と、尚人は、はっきり感じました。
◆少女の正体
手塚瑠美の正体は、門奈の下の娘でした。
つまり尚人が面会に立ち会ったときに「おじさんは、私たちの味方?それとも敵?」といった姉妹の妹だったのです。
瑠美は尚人と同じろう者の親の元に生まれた聞こえる子(コーダ)でした。
それから尚人は、何森に教えてもらった17年前に最初に遺体を発見した警備員に会いに行きました。
警備員は事件当日、能美隆明を発見したとき人の気配を感じたため「誰だ!」と咄嗟に叫びましたが、警備員の声に反応して犯人は逃げていったと証言しました。
つまり、犯人は耳が聞こえる人物だったということ。
逮捕された門奈はろう者のため、警備員の声に反応できるわけがありません。
◆繋がる2つの事件と真相
門奈が身代わりになろうとした耳が聞こえる人物といえば、彼の下の娘 つまり手塚瑠美しか考えられません。
事件の真相は以下の通りでした。
17年前 理事長の能美隆明は、当時13歳だった門奈の長女・幸子に対して性的虐待を働いていました。
ろう者の幸子は、そのことを誰にも伝えられず苦しんでいましたが、あるとき妹が姉の性的虐待の事実を知ってしまいます。
妹はすぐに施設の職員に告発しますが、嘘つき呼ばわりして隠蔽されてしまいます。
その後も幸子への虐待は止むことがなく、どうにかしようと思った妹は、あるとき自分の手で解決しようと考えました。
そして、能美隆明を呼び出した妹は、家から持ってきた果物ナイフで彼を刺したのでした。
それを知った父・門奈哲郎は下の娘をかばって自ら出頭し、その過去を消すため 妹を手塚家に養子に出して戸籍から消しました。
その後、下の娘は手塚瑠美として輝かしい人生を歩んでいましたが、あるとき彼女の前に能美隆明の息子・和彦が現れます。
実は和彦は、父が亡くなったあとも幸子に関係を迫り、手塚瑠美が幸子の妹だと知ると、今度は瑠美を脅してきたのです。
瑠美の危機を知った姉の幸子は、今度は自分が助ける番だと和彦を公園に呼び出してナイフで刺したのでした。
◆結末
尚人は、瑠美と政治家の半谷の結婚披露宴に出席していました。
そして新婦・瑠美は、手話で両親への挨拶を始めました。
<17年前 私は 一人の男を殺しました (中略) 私は少しも後悔していません ただ一つ今でも悔やんでいるのは、その罪を自分で償わなかったことです そして今、私の大切な人が、私と同じ罪を犯しました(中略)私は自分の家族を 何よりも大切なその人たちを 命をかけて守ります>
そして瑠美はそこで始めて声を出し、「お父さん、お母さん、今まで本当にありがとう。」と伝えました。
それは、養父母の手塚夫妻、そして門奈夫妻にあてた感謝の言葉でした。
実は尚人は、事前に瑠美に この式場に警察を呼んでいること、幸子が逮捕され取り調べのときには、自分が手話通訳をすると伝えていました。
披露宴のあと幸子は何森により連行され、事情聴取は尚人通訳のもと問題なく行われました。
そして、手塚瑠美=門奈輝子は、事件から17年経っていること、当時10歳だったことが考慮され罪に問われることはありませんでした。
いずれこの事実はマスコミが知ることによりスキャンダルに発展することが予想されましたが、瑠美の夫・半谷は「彼女を守っていく」と尚人に伝えたのでした。
尚人はその言葉に安堵し、幸子の法廷通訳を務めることで、彼女の沈黙の声を皆に届けようと誓うのでした。
『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』感想
『デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士』は、「ろう者」の理解を深める啓蒙的な要素をミステリーにうまく落とし込んだ良作でした。
手話にも種類があり、ろう者の中でも立場が違って対立がおきていたり、「コーダ」と呼ばれる聞こえるろう者の存在も始めて知ることができました。
主人公はその「コーダ」と呼ばれる立場に置かれており、家族のなかで一人聴こえる存在であるがゆえに孤独や葛藤を抱えている人物です。
「幼い頃、転んで大声で泣いても母には気づいてもらえない。それから泣かなくなった。」というエピソードなど、「コーダ」の苦悩が分かりやすくも切なく描かれています。
過去のトラウマからデフコミュニティとの関係を避け、仕事や妻も失い、現在の恋人にも心を閉ざしている主人公が、事件を通して過去を乗り越え、次第に一人の人間として成長していく姿には心をうたれます。
またミステリーとしても一級品で、戸籍から消えた少女、美貌の慈善家・手塚瑠美の正体や警察組織の暗部にも触れられ、ページをめくる手が止まりませんでした。
障がい者の弱みにつけ込む卑劣な人がいる一方で、彼らを温かく支援する人もいる。
救いのあるラストは、読後の余韻も素晴らしい。
マジョリティに属する健常者は、マイノリティである障がい者を「弱者」と捉えがちですが、ろう者は手話のように独自の言語と文化を持つ「バイリンガル・バイカルチュアル」という存在なんだ という一節がとても印象に残りました。
なお本書は10年以上前の作品ですが、2023年冬に草彅剛さん主演でNHKでドラマ化され、韓国で映画化も決定されているロングセラーです。
シリーズ化もされていますので、この機会にぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
この記事へのコメントはありません。