『むこう岸』ネタバレ!あらすじから結末を相関図つきで

小説『むこう岸』は、過干渉の親に支配される優等生の少年と、貧困にあえぐヤングケアラーの少女。出会うはずがなかった2人が目の前の問題に対峙し、前を向いて進んでいこうとする過程を描いた作品です。今回はドラマ化も決定した『むこう岸』のあらすじから結末を簡単にご紹介します。
『むこう岸』あらすじ
山之内和真は、難関中学に合格したもののついて行けず、中学三年生になって家から遠く離れた公立中学に転校してきた。
わざわざ地元の公立中学に戻ってこなかったのは、「落ちこぼれて転校」したことを誰にも知られたくなかったからだ。
公立中に通い始めたものの人付き合いの苦手な和真は、クラスに馴染むことが出来ず、家では父と祖母から「高校受験で巻き返せ」とプレッシャーを与えられ“居場所”がなかった。
一方、和真のクラスメイトの女子・佐野樹希は、父を交通事故で亡くし、病弱な母と幼い妹の世話をしながら生活保護を受けて暮らしていた。
そんななか、ひょんなことから和真がエリート中学から転校したことを知った樹希は、友人のアベルの勉強を教えるように半ば脅迫して依頼する。
そこから「カフェ・居場所」に集まるようになった二人は、お互いの家庭環境を知る。
最初は苦手意識や反発をしていた二人だったが、「貧しさゆえに機会を奪われる」不条理に疑問を持ち、立ちはだかる問題に対し出来ることを模索していく。
果たして二人は、それぞれに居場所を見つけ橋を架けることができるのかー。
『むこう岸』登場人物&相関図
◆主な登場人物
◆佐野樹希・・・中学三年生。母と妹の三人暮らし。父が亡くなってから生活保護を受給して生活している。
◆山之内和真・・・難関私立中に進学した中学三年生だが勉強についていけずに公立中学に転校する。人付き合いが苦手。
◆渡辺アベル・・・中学一年生。ナイジェリア人とのハーフ。日本人の母と二人暮らし。樹希とは収入が少ない家の子どものための無料塾で知り合った。精神的なことから言葉を発することができない。
◆マスター・・・カフェ「居場所」のマスター。かつて樹希が所属していた少年野球のコーチをしていた。
◆城田エマ・・・樹希とは幼なじみで仲良かったが、家庭環境の違いから次第にギクシャクした関係に。大学で助教授をする叔父がいる。
◆相関図
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『むこう岸』結末までをネタバレ
◆カフェ「居場所」
樹希からエリート中学をクビになったことをバラさない代わりに、友人の アベルに勉強を教えてと依頼された和真は、週2日カフェ「居場所」に通いはじめました。
和真は、樹希に「苦労しらずのお坊ちゃま」だと言われ腹は立ちましたが、一生懸命に話を聞いてくれるアベルや「居場所」のマスターの優しさに心が温まりました。
そんなある日、アベルの甘さにイライラしたは和真はつい態度に出してしまい、アベルは「居場所」から逃げ出してしまいます。
スーパーで酔っ払い男性に絡まれ襟元を掴まれたアベルは、怯えるように男性を突き飛ばしてしまいます。
「警察を呼ぶ」と息巻く男性に、何も出来ずに佇んでいた和真でしたが、たまたま買い物にきていた樹希をいじめていた同級生の母親が助けてくれました。
和真は、アベルを迎えにきた母親から、アベルの父はナイジェリア人で日本に馴染めないストレスから、暴力を振るっていたことを聞かされました。
夫からの暴力で怪我をした母は、頼る親戚もおらず、一時 アベルを施設に預けましたが、迎えにいったときには口がきけなくなっていました。
母親は、最近アベルが嬉しそうに出かけていること、「きみはバカではありません」といってくれた和真のことを「先生」と呼んで慕っていると話しました。
◆生活保護
「貧しいのは自分の責任」という父に反発する気持ちから、図書館で生活保護の本を借りた和真でしたが、内容が専門的すぎてなかなか知りたい答えにたどりつけません。
図書館からの帰り道、偶然、樹希の幼なじみでクラスメイトの城田エマにバッタリ会いました。
エマと一緒にいた叔父は、昔ケースワーカーをしていたことが有り、生活保護の制度についてかみ砕いて説明してくれました。
それによると、高校生が自分の将来のためにアルバイトをしてお金を貯めることは例外的に認められており、世帯分離すれば卒業後に就職しなくても大学に進学できるらしいのです。
つまり樹希は、「看護師」になる夢をあきらめなくて良いことが分かったのです。
それからというもの、樹希は希望をもって勉強に取り組むことができるようになりました。
アベルも相変わらず覚えは悪いものの、和真に根気よく教えてもらって少しづつ理解するようになっていきました。
◆事件
ある日和真は、「居場所」からの帰り道にアベルにスーパーで絡んできた男に遭遇します。
カフェ「居場所」をバカにする男に、和真は「自分がどんなに惨めに見えるか分かっていますか?僕はあなたみたいな大人になりたくない軽蔑する」と反論してその場を逃げるように去りました。
それから間もなく、「居場所」が放火されたことを知らされます。
全焼は免れたものの、しばらく営業できなくなった「居場所」は休業することになりました。
犯人はやはり和真と口論になった男でした。
和真は、警察に事情を聞かれることになりましたが、父親や祖母に「居場所」に入り浸っていたことがバレてしまい責められました。
自分のせいでマスターに迷惑をかけ、安らぎの場所を失った和真は、家に引きこもるようになってしまいました。
一方、樹希も勉強する場所を失い、母はますます精神を病んでしまったため進学への道が険しくなっていきました。
◆結末
樹希はエマの叔父に相談し、母の面倒をみてくれるホームヘルパーの存在を知り、申し込むことにしました。
和真は相変わらず、部屋のなかで引きこもっていましたが、あるとき家の電話が鳴りました。
家族が留守のため、和真が受話器をとると「フゥン」というアベルの鼻息が聞こえてきました。
アベルは自分で和真の家を調べて、樹希と一緒に家の前まで来ていました。
樹希は「居場所」の修理が始まり、リニューアルオープンすることを伝えました。
そして自分も「こども食堂」に通い、そこで知り合った看護師のボランティアの人にお金をかけずに勉強する方法を教えてもらっていると話しました。
アベルは、和真から花丸をもらった勉強ノートを高々と掲げました。
そのとき和真は、涙を流し「自分は昔から勉強が大好きだった」という気持ちを思い出しました。
そして、「知りたいー」という感情と共に、玄関から外に出たのでした。-おわりー
『むこう岸』感想
児童書にしては重いテーマの作品ですが、悲惨すぎず、希望のあるラストは心があったかくなりました。
そして貧困には、金銭面や物資の援助も必要だけれど、そこから抜け出すための「知ること」の大切さ、「学ぶ環境」の大切さを痛感させられた作品でした。
ちなみに、本作は2020年の灘中学の入試問題で使われたそうです。
物語のなかで印象に残ったのは、エマの叔父が樹希に言った
「きみは施しを受けているんじゃない。社会から、投資をされているんだよ。」
という言葉です。
かわいそうと憐れんでもらって援助されるだけじゃ、自尊心を傷つけられるけれど、自分が社会に出て働いて恩返しすればギブ&テイク。
樹希はこの言葉のおかげで、卑屈になることもなく堂々と助けを求めることができました。
最近の子どもたちは、習い事で1週間を埋め尽くされていて、和真のように心休まる時間が少ないように思います。
和真は親に内緒でカフェ「居場所」に通うようになり、今まで出会うことがなかった人と交流し、やすらぎや「知りたい」という自由な心を手に入れました。
そして、樹希の前に立ちはだかる川を対岸のこととと考えずに、自分なりに模索して行動に移し、とうとう橋をかけることに成功しました。
「ぼーっ」とする時間は無駄なようでも、「純粋に子どもでいられる時間」というのは視野を広げ、探求心、想像力を育むうえで大切なことなんだとハッとさせられた作品でもありました。
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