『宝島』ネタバレ!真藤順丈の原作小説のあらすじ~結末を相関図付きで解説
『宝島』は、戦後から本土復帰までの沖縄を舞台に、幼なじみ3人が激動の時代に抗いながら消えた英雄を探す物語です。今回は、妻夫木聡さん、広瀬すずさん、窪田正孝さん出演で映画化も決定した『宝島』のあらすじから結末を簡単にご紹介いたします。
『宝島』あらすじ
舞台は、第二次世界大戦が終わり、アメリカに統治されることになった沖縄。
米軍基地から食料、日用品、衣料品を盗み出し困っている人に配る「戦果アギヤー」のオンちゃんは、島の英雄だった。
あるとき、オンちゃんは親友のグスク、弟のレイら仲間と共に嘉手納基地に潜入するが、米兵に見つかって銃撃を受け仲間と離れたまま消息を絶ってしまう。
恋人のヤマコは、病院や警察を尋ねまわったが、オンちゃんはどこにもいなかった。
英雄の帰還をまちわびるなか、グスクは警察、ヤマコは教師、レイはヤクザとなり、固い絆で結ばれた3人は故郷を取り戻すために立ち上がる。
若者たちは、沖縄返還までの激動の20年をどう生きたのか。
最後にオンちゃんが残した「予定になかった戦果」とはーー。
『宝島』登場人物&相関図
◆登場人物
◆オンちゃん・・・「戦果アギヤー」と呼ばれる、米軍物資の略奪者のリーダーー的存在。奪った物資を身内だけでなく地元に配る島の英雄。嘉手納空軍基地に乗り込んだ日に行方不明になる。
◆グスク・・・オンちゃんの親友。警察官になりオンちゃんの行方を追う。
◆レイ・・・オンちゃんの弟。姿を消した兄・オンちゃんの影を追い求め、ヤクザになる。
◆ヤマコ・・・オンちゃんの恋人。背が高く美人。小学校の教師となり、恋人オンちゃんの帰りを信じて待ち続ける。
◆タイラ・・・反米闘争に明け暮れる港湾労働者。刑務所でレイと出会う。
◆国吉・・・レイの先輩の受刑者。レイに島の歴史などを教えなど教師的な存在。
◆チバナ・・・特飲街Aサインの女給。ジョーの情婦。
◆アーヴィン・マーシャル ・・・米民政府官僚。グスクに諜報員になるように誘う。
◆小松・・・マーシャルの通訳。
◆煙男(キプサー)・・・かつては特高警察に属していたダニー岸という人物で、戦後GHQの傘下に入り、弾圧や思想統制に明け暮れる男。
◆又吉世喜・・・沖縄の二大ヤクザ「那覇派」の首領。
◆辺土名・・・戦果アギヤーを源流とする「ゴザ派」の首領。
◆謝花ジョー・・・オンちゃんが関わっていたと思われる密貿易団クブラのリーダー。戦果アギヤーを手先にして利用していた。
◆ウタ・・・父親がアメリカ人らしい日米ハーフの孤児。
◆キヨ・・・ウタが連れてきた幼女。
◆瀬長亀次郎・・・沖縄の革命家。
◆相関図
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『宝島』結末までをネタバレ
◆英雄を探し続ける3人
オンちゃんはいなくなったあの日、グスクとレイは基地のなかにある祖霊神が祀られる聖域ウタキに迷い込みました。
その後、グスクはなんとか逃走に成功しますが、レイは捕まり刑務所に収監されてしまいました。
レイは刑務所で、国吉やタイラから沖縄の歴史や処世術を学ぶ一方で、オンちゃんがゴザで暗躍していた密貿易団クブラに脅迫され、嘉手納襲撃に加わったことを知ります。
刑務所を脱走したレイは、アギヤーたちを監視するクブラの一味・謝花ジョーを探すため、彼の情婦だったチバナに接触しますが、ジョーはなんと刑務所にいることが発覚します。
レイは再び収監され、ヤマコもジョーを探しに刑務所に潜入しようとしますが、グスクがそれを抑え自らが刑務所に入りました。
そんななか、瀬長亀次郎らの扇動により刑務所で暴動が起き、その混乱のなかでグスクはジョーを見つけます。
ジョーは感染症を患っており、「あの日、予定にない戦果があった」と告げたのを最期に 亡くなってしまいました。
◆グスク
出所したグスクは警察官となり、米兵の婦女暴行殺人事件を担当することになりました。
当時の沖縄では、女性や幼い子どもがアメリカ兵の犠牲になる事件が多発していましたが、犯人は基地に逃げ込み、ほとんど処罰されることがありませんでした。
グスクは、捜査の末に被害者の女性を送り迎えし、その見返りに肉体関係を迫っていたアメリカ兵を逮捕します。
現場検証を行うなか、グスクの前に米民政府官僚・アーヴィン・マーシャルと通訳の小松が現れます。
マーシャルはグスクに諜報員として働かないかと誘い、オンちゃんの行方を探す手がかりになればと、グスクは承諾しました。
◆レイ
刑務所を出たレイはチバナと親しくなり、沖縄の二大ヤクザ「ゴザ派」のヤクザとして特飲街Aサインを取り仕切っていました。
ある日、レイは密貿易で稼いでいたのがバレてしまい親分に激しく殴られますが、アメリカ人を襲うことを禁止を言い渡され、制裁だけで事なきを得ました。
そんなレイの前に日米ハーフの浮浪児・ウタが現れ、その後もウタは事あるごとにレイに接触してきました。
レイは、タイラに誘われウタと共にヤクザ組織「那覇派」の首領・又吉世喜に会いにいきました。
それからしばらくして、ウタがコザ派の連中がタイラと又吉を拉致しようとしているという情報を得て、レイに知らせにきました。
レイは、タイラと又吉を救出しますが、コザ派と那覇派は全面戦争に突入します。
◆ヤマコ
教師になったヤマコは、オンちゃんのことを忘れることはありませんでしたが、毎日忙しく生活していました。
ある日、ヤマコはコザの孤児たちに本の読み聞かせをしていましたが、そのなかに日米混血の子どもがいることに気づきます。
そんななか、ヤマコは勤務する小学校にアメリカ軍の戦闘機が墜落し、教え子が亡くなってしまいます。
傷心のヤマコは一時は教師を辞めることも考えましたが、ハーフの孤児・ ウタの言葉で教師を続けることにしました。
そして、以前の沖縄を取り戻そうと土復帰運動を進める復帰協会に参加するなど、左翼活動家として精力的に行動していきました。
◆オンちゃんのお守り
レイは密貿易団クブラの手引きだった男を問い詰め、トカラの悪石島にオンちゃんの失踪の秘密が隠されていることを知ります。
コザ派と那覇派の抗争で悪石島に避難したレイは、島の老人の男性に助けられます。
痴呆症と思われる老人は、レイに向かって「娘を返せ!お前はあのときここにいた」と叫びました。
レイそっくりの人物、つまり兄のオンちゃんは、嘉手納襲撃後に数年島の山の小屋に監禁され、老人の娘が世話をしていたというのです。
あるとき、島でクブラと米軍が銃撃戦を行い、その騒動のなか娘と共に船で逃げ出したオンちゃんは、海に沈んでいったようなのです。
老人は、娘を探すため海に潜った際に、オンちゃんのお守りであった魚の歯のネックレスを発見したのでした。
ついにオンちゃんの形見を見つけたレイは、グスクとヤマコに報告しようと島を出ました。
◆壊れる絆
レイが、ヤマコをゴザに呼び出すと、国吉も一緒についてきていました。
国吉がふと漏らした「ヤマコが誰かと一緒になる」という言葉に激しく嫉妬したレイでしたが、直後に何者かに刺されそうになってしまいます。
レイを襲ったのは、港からずっと付けてきていたコザ派の一味でした。
それから、揉み合ううちに男は国吉を刺されてしまい、レイはヤマコを連れて逃走します。
刺客を連れてきたことを責めるヤマコ、もうこの世にはいない兄、誰かと一緒になろうとする愛する人…混乱したレイは、その場でヤマコを無理矢理暴行してしまいます。
◆煙男
グスクはオンちゃんを探し続けていましたが、通訳の小松から情報を嗅ぎまわるのは危険だからやめたほうがいいと忠告をうけます。
あるとき、ハーバービュークラブのパーティーに招かれたグスクは、煙草の煙を吐いている怪しい男に拘束され拷問を受けます。
思想犯を取り締まっていると言う煙男は、高等弁務官を暗殺する計画に、又吉、タイラ、レイ、オンちゃんが関わっていると明かし、所在を聞き出そうとしてきました。
グスクは隙をついてなんとか逃げ出し、ヤマコの元を訪ねますが、ヤマコは居留守を使って出てこようとしません。
チバナから、レイがオンちゃんの形見を見つけたことを知らされたグスクは、オンちゃんが亡くなっていることを知ります。
そんななか小松は、煙男の正体は、かつての特高刑事で戦後GHQの傘下に入ったダニー岸という人物だと明かしました。
疲れ切ったグスクは諜報員から手を引こうとしますが、マーシャルは島で麻薬捜査を行っていた古くからの諜報員二人が変死した事件を解決してから辞めて欲しいとお願いされます。
二人に代わって麻薬の元締めがタイラだと突き止めたグスクは、抵抗し、後悔を口にする彼を撃ち殺してしまいます。
亡くなる間際、タイラは「ゴザ派」の首領だった辺土名が別組織を作り、薬物を扱っていると話しました。
◆再びの戦果
グスクに取り押さえられた辺士名は、嘉手納襲撃の日にクブラに雇われ戦果を横取りされないように見張り役をしていたと言います。
そして、木箱一つを抱えて逃げて来たオンちゃんを拉致して謝花ジョーに引き渡し、その後は諜報員2名を始末して違法薬物の売買に関わったと明かしました。
そんななか、ウタとキヨが暮らす児童養護施設にアメリカ製のおもちゃ、衣類、文具が届きました。
それはまさに、かつて戦果アギヤーが配っていたものと同じものでした。
またヤマコには宛名無しの手紙が届き、そこには“ただいま、これは生還の前祝いさ”と書かれてありました。
オンちゃんは生きているのでしょうか?
◆ウタの悲劇
ある日、嘉手納の弾薬庫でガス漏れが発生しますが、米は公表しませんでした。
グスクは公表するように説得しますが、マーシャルは米軍の最高機密を嗅ぎまわるグスクに怒りをあらわにしました。
グスクは逃走して警察をクビになり、恩納村の国吉に匿ってもらうことになりました。
その後、米軍は毒ガスのガス漏れについて公表しますが、日本政府も毒ガスの事実を知っていながら隠蔽していたことが発覚し、沖縄の人々は憤慨します。
そんななか、養護施設にいたキヨを引き取った母親が無理心中し、キヨは母親と共に亡くなってしまいます。
薬物中毒だった母は、交際している米兵に幼い娘を差し出すことで結婚して、生活をしていました。
その衝撃の事実を知ったウタは慟哭し、荒んでいきました。
◆沖縄返還
沖縄は返還され、グスクは私立の探偵事務所を始め、差出人不明の戦果について捜査していました。
探偵社は繁盛してグスクが忙しく働くなか、ダニー岸がグスクの妻子を拉致して、レイとオンちゃんを呼び出せと脅迫してきました。
何も語らないグスクに、ダニー岸は妻の首を絞めはじますが、そこに国吉が現れダニー岸の腹に銃弾を撃ち込みました。
国吉は、煙男ことダニー岸の正体は「小松」だと指摘しました。
一方、ヤマコはウタを連れてキャンプカデナの最大規模のデモに参加した際に基地に勤めていた島袋という老婆と知り合います。
島袋は、嘉手納襲撃の日、基地内にある祖霊神が祀られる聖域ウタキで、17歳の女性がハーフの赤ん坊を出産して亡くなったと話しました。
赤ん坊はウタなのでしょうか。
◆コザ暴動
その日の夜、コザでは酔った米兵の島民をひき逃げするという事件が起こり、怒り狂った島民は米兵に怒りの目を向けます。
小松は、グスクたちをの米軍専用車で拉致しようとしていましたが、島民に襲われ、その隙にグスクたちが逃げ出すことができました。
コザ暴動が起こるなか、嘉手納基地にはガスマスクを着けた武装集団が現れ、基地に潜入します。
その先頭に立っていたのは、レイでした。
そして、勝手に暴動に参加していたウタはレイを助けた後、マーシャルに発砲したことで銃弾を浴びて亡くなってしまいます。
◆結末
あの嘉手納襲撃の日、オンちゃんは17歳の少女がウタキで出産した赤ん坊(ウタ)を抱えて基地を逃げ出すも、辺士名につかまっていました。
ウタを人身売買から守るために、悪石島でクブラの密貿易を手伝うことになったオンちゃんは、島のろうあ者の娘の世話をうけ、数年を過ごします。
ある日、米軍がクブラを襲撃し、その混乱に混じってオンちゃんとろうあ者の娘は離岸しましたが、そこにロケット弾を撃ち込まれました。
しかし、ろうあ者の娘がかばってくれたおかげで、オンちゃんは生き延び、森の洞窟(がま)に流れついたものの、負傷のため動けなくなったのです。
三歳になっていたウタは、言葉も話せず助けを呼ぶこともできず、食料を運んでくるので精一杯でした。
そうこうするうちに、オンちゃんは衰弱して静かに洞窟で永眠しました。
それからウタは、オンちゃんから聞いたグスク、レイ、ヤマコと知り合い、3人を再び結び付けました。
オンちゃんが「予定にない戦果」と言っていたのは、赤ん坊だったウタだったのです。
3人は、オンちゃんが人生と引き換えにしたウタの命を守りきれなかったことを悔やむと同時に、英雄が島に還ってきていた事実を静かに受け止めました。
オンちゃんからウタ、そしてレイに繋がれた命。
ヤマコはレイが自分に行った行為を許し、グスクはオンちゃんを弔うために踊り始めたのでした。ーおわりー
『宝島』感想
直木賞満場一致の小説『宝島』は、歴史小説、ミステリー、青春小説、冒険小説…様々な側面を持つ作品です。
陸上戦で地形が変わるほど攻撃され「ありったけの地獄をあつめた」と言われた沖縄。
私は本土(ヤマト)の人間ですが、戦争中の悲惨な話は、幾度となく聞く機会はありましたが、戦後の沖縄については詳しくは知りませんでした。
アメリカの占領のもと、特飲街には米兵相手の女給が身を粉にして働き、路上では親を亡くした孤児が溢れ、空には轟音を響かせながら戦闘機が飛んでいた沖縄。
そんななかで、先祖の土地を基地に奪われ、弱い立場の女性や子どもへの米兵の暴行され、小学校には戦闘機が墜落する悲劇が次々と起こります。
どんな酷い仕打ちを行っても、米軍や兵士は制裁を受けることはありません。
沖縄の歴史は、中国、日本、アメリカと、常に支配下に置かれ理不尽な生活を強いられてきた歴史でもあります。
前向きなイメージがあった「なんくるないさー」が、心が壊れてしまう自分を鼓舞する言葉だったというのも胸に刺さります。
そんななかで、希望ともいえるのが基地の倉庫に忍び込んで食料を中心とする物資を盗み出す「戦果アギヤー(戦果を挙げる者)」の英雄オンちゃん。
日本に返還されても基地負担が減ることがない沖縄の人々の怒り、失意、無常感が散りばめられた物語でしたが、暗い側面ばかりではなく、美しい景色、美味しそうな郷土料理、楽しい宴会など沖縄の熱いカルチャーを肌で感じることができる作品でした。
また、オンちゃんを行方を探す謎解き要素や、ヤマコを巡るグスクとレイの恋愛模様は、難しくなりがちな歴史ものを飽きさせることなく読ませてくれます。
ウチナンチュのルビをふられた語り口や合いの手に慣れず、骨が折れましたが、まずは学ばなければ何も始まりません。
『宝島』は沖縄戦史を知るうえでの第一歩となる作品ですので、映画で興味を持った方もぜひ原作も読んでみて下さいね。
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