『盤上の向日葵』ネタバレ!悲劇の結末までのあらすじを相関図付きで

『盤上の向日葵』は、息詰まる「将棋」の世界を舞台に、将棋界の異端児・上条桂介の壮絶な過去を辿って描かれる鮮烈なミステリーです。今回は坂口健太郎さん主演で映画化もされる『盤上の向日葵』の結末までのあらすじをネタバレでお届けします。
『盤上の向日葵』あらすじ
埼玉県の山林で男性の遺体が発見された。
男が身に着けていたシャツには腹部に刃物の刺し傷のような裂け目があり、遺体の上には将棋の駒が置かれていた。
この将棋の駒は、初代菊水月のもので最低でも600万はする名品だった。
犯人はなぜそのような貴重な駒を遺体に抱かせて埋葬したのかー。
遺体が発見される4か月前ー
将棋界の異端児・上条桂介は、将棋界最高峰のタイトル戦「竜昇戦」に挑み、将棋ファンのみならず広く世間から注目を集めていた。
一方、元「奨励会」会員で現在は警察官となった佐野直也は、ベテラン刑事・石破剛志と共に白骨遺体の謎追うため、初代菊水月の持ち主を追うが…。
『盤上の向日葵』登場人物&相関図
◆登場人物
◆上条桂介・・・長野から上京して東大に入学。その後ITベンチャーを企業し年商30億を達成。その後実業界を引退し、将棋の奨励会を経ずプロになった異端の棋士。
◆佐野直也・・・埼玉県警の新米刑事。「奨励会」に入会したものの26歳という年齢の壁を越えらず、警察官となった。
◆石破剛志・・・やり手のベテラン刑事。
◆唐沢光一郎・・・元教師。桂介の恩人で、桂介を息子のように想い見守っていた。
◆唐沢美子・・・光一郎の妻。
◆上条庸一・・・桂介の父。味噌蔵の職人。妻が亡くなってから酒とギャンブルに溺れ、桂介にも暴力を振るっていた。
◆上条春子・・・桂介の母。桂介が小学校2年生のときに他界。
◆東明重慶・・・真剣師。元アマ名人。「鬼殺しのジュウケイ」と呼ばれる。
◆相関図
『盤上の向日葵』結末までのあらすじ
◆超難関プロ棋士の道
プロ棋士になることは東大に入るよりも遥に難しいと言われている。
まず初めに、プロ棋士の養成所である「奨励会」に入会し、厳しい試験をクリアしなければならない。(合格率は約2割)
入会にも条件がある。
●16歳までであること
●アマチュアとしての実力が3・4段である
●プロの将棋棋士から推薦があること
晴れて入会したとしても、
●月に2回の試合で結果を出して級上げしていくこと
●23歳までにプロの段位で初段であること
●26歳の誕生日までに4段以上を獲得すること
という更に厳しい条件を満たさなければならない。
「奨励会」に入会できるのが2割で、そのなかからプロ棋士になれるのは1~2割。
佐野直也は「奨励会」に入会して10年以上精進してきたにもかかわらず、26歳という年齢制限の壁を越えることができなかった。
人生の大半を費やしてきた夢が一瞬にして絶たれてしまった佐野は、将棋とは一生関わらないで生きて行こうと決め警察官となった。
しかし皮肉なことに元奨励会会員ということで、名品である初代菊水月の持ち主を追うことになった佐野は、今や時の人となった上条桂介六段と関わることに…。
◆上条桂介の壮絶な過去
教師を引退した唐沢光一郎は、長野県で妻と共に穏やかに暮らしていたが、ある日 自分が古紙回収に出した将棋雑誌が抜き取られていることを知る。
唐沢が調べてみると、将棋雑誌を持ち帰っていたのは小学校3年生の上条桂介という少年で、家計を助けるために新聞配達をしていた。
桂介の両親は、父・庸一と母・春子というが、春子は一年前に心の病で自ら命を絶ち、それ以降 酒乱だった庸一はさらに荒れていった。
庸一は桂介に激しく折檻し、新聞配達で稼いだお金をすべて取り上げて酒やギャンブルに使うようなどうしようもない男だった。
桂介の家庭の様子を知った唐沢は、桂介を家に招いて食事を食べさせたり将棋を教えるようになっていった。
唐沢は、桂介を一度を引き取ることも考えたが、いまの法律では難しく、毎週日曜日に桂介と将棋をする際に、健全に育っているか確認するだけが精一杯だった。
それから桂介は将棋の腕をめきめきとあげ、唐沢は彼ならプロ棋士になれると見込み、金を出して奨励会に行かそうと考えたが、それを庸一は許さなかった。
庸一は桂介の面倒はみないくせに、自分の元から離れることを異常に嫌がったため、桂介も奨励会に入会することは断念した。
それから7年の月日が経ち、優秀な桂介は東大に合格した。
桂介は東大を出て良い会社に就職すれば、たくさん稼げると庸一を説得して、ようやく親元を離れることになった。
そして桂介は、東京に旅立つ前に唐沢に東大合格の報告とお別れを言いにやってきた。
唐沢はなんとか桂介に選別を渡したいと考えたが、現金は受け取ってもらえないと考えて、自分の退職祝いに購入した初代菊水月の駒を贈ったのだった。
◆東明重慶との出会い
大学に入学した桂介は、賭け将棋で生計を立てていた東明重慶と知り合い、ひょんなことから家に泊めることになった。
めざとい重慶は、押し入れの奥から唐沢にもらった初代菊水月の駒を見つけるが、桂介はこれは大切な人にもらったものだと触らせなかった。
しかし重慶は「駒は指してこそ生きる」と言い、東北で行われる最強の真剣師を決定する世紀の一戦いに初代菊水月の駒を使いたいと言ってきた。
戸惑う桂介だったが、名宝を使用した重慶のヒリヒリするような勝負を見たいという気持ちが勝り、承諾した。
「鉈割り元治」兼埼元治と「鬼殺しのジュウケイ」こと東明重慶の戦い。
掛金は一局 100万円、7番勝負の結果は、6勝1敗。
その後 重慶は、トイレに休憩にいくと言ったまま姿を消した…。
実は、重慶はは最初の1戦で負けたあと、初代菊水月を担保に400万円を借り、勝ちの報酬500万と合わせて900万を持ち逃げしたのだった。
何も知らなかった桂介は、担保の駒の持ち主となった岩手の老舗旅館経営の角館銀次郎に「自分が買い戻す金が用意できるまで人に売らないでほしい」と懇願した。
◆重慶との再会
桂介は、東大卒業後に外資系企業に就職した後、ソフトウェア開発会社を企業して大成功を治めたが、それに反するかのように心の闇が深くなっていった。
虚しさの澱のようなものが心に貯まり、生きる意味を見出せず、いつ自ら命を絶ってしまうかわからない恐ろしさに怯えていた。
そして誰にも理解されないこの感情を唯一分かってくれるのは、同じように心を病み自殺した母だけだと思うのだった。
ある日、父・上条庸一が桂介の成功を聞きつけ、会社に金をせびりにやって来た。
桂介は財布から30万を抜き取り渡してやるが、ギャンブル狂の庸一であればすぐに金を使い、またせびりにやってくるだろうと予想できた。
そんななか行方不明だった東明重慶がフラリと桂介の前に現われた。(桂介はすでに駒を買い戻し済み)
重慶は会うなり一局10万円の賭け将棋に誘い、将棋の勝負に飢えていた桂介は受けてたつことにした。
病気の重慶は見た目こそは弱々しくなっていたものの、さすがの腕前で勝負は桂介の5連敗で終わってしまう。
しかし、重慶は勝ちの50万円をさしひいても駒の400万円を返すことは不可能だと話し、「 誰か消して欲しい奴はいるか」と聞いてきた。
つまり400万円の代わりに人殺しを引き受けると提案してきたのだった。
◆いかれた血
父・庸一が現われてから一年ほど経ったが、会社では桂介が胡散臭い男と会い、金を渡しているという噂が広まっていた。
このまま自分の信用を失えば、社員が離れて会社も駄目になってしまうと考えた桂介は、庸一に手切れ金3000万円を渡し、「もう会わない」という念書を書かせることにした。
諏訪の実家に到着した桂介は庸一を待ち伏せし、手切れ金3000万円を渡す代わりに二度と目の前に現れるなと迫った。
庸一は大金に目を輝かせ承諾するが、念書を破り捨てて3000万の現金がはいったバッグを奪って逃走。
桂介はどこまでもクズな父を追いかけ、地面に引き倒し全力で首を絞めた。
すると庸一は、苦しそうに「赤の他人を育ててやったのに。お前にはいかれた血が流れてるんだよ」と言った。
実は桂介は、 母・春子と彼女の実兄との間に出来た子どもだったのだ。
美人なのに縁談を断っていたばかりの春子はある日、兄の子を妊娠。
そのことが理由で兄は自殺し、両親はお腹の子の父親が長男だと気づいて堕胎させようとした。
春子は子どもをどうしても産みたいと、当時 味噌蔵の職人として働いていた庸一に頼んで駆け落ちをしたのだった。
その後 春子と庸一は結婚して、桂介が誕生した。
旧家だった春子の笹木家は、昔から自分たちの財産を守るため親族同士で結婚することが多かった。
その結果 優秀だが心を病んだ子孫が多く産まれ、春子も例外なく桂介を産んでから精神に異常をきたし自ら命を絶ったのだった。
また、狂った血を受け継ぐ桂介も衝動的に死を考えることが多かった。
衝撃の事実を知った桂介は呆然としたまま、バッグを持ち去る庸一をただ見送るしかなかった。
◆重慶の最期
それから 桂介と重慶は100を超える対局を行い、桂介は重慶にすでに600万も支払っていた。
そんななか桂介は、かつて重慶から言われた「 誰か消して欲しい奴はいるか」という問いに「上条庸一。かつて、俺が父と呼んでいた男だ」と答えた。
それを聞いた重慶は、自分が仕事を終えるまで諏訪には近づくなと忠告して去っていった。
半年後ー重慶から約束を果たしたと連絡があった。
さらに重慶は、桂介に車で天木山に連れていって将棋を指したいという希望を話した。
天木山から見下ろす町は、重慶がわずか2年だったが、好いた女性と幸せな時間を過ごした思い出の場所だった。
桂介は歩くのもやっとの重慶を連れて天木山に登り、重慶にとっての最後の将棋に挑んだ。
勝負はもつれたが、結果は桂介の勝ち。
重慶は「お前は必ずプロになれもう思い残すことはない」と言い残して、持ってきた匕首を腹に突き立てた。
そして桂介は、命尽きた重慶のために穴を掘り、初代菊水月作を胸に抱かせて埋葬した。
◆結末
菊水月の将棋の駒の持ち主の行方を求めて、佐野直也は、ベテラン刑事・石破剛志と共に、茨城、大阪を訪れた。
そして長野県にいる唐沢光一郎にたどりついた佐野は、そこで唐沢が上条桂介に駒を贈ったことを知る。
場面は変わり、将棋界最高峰のタイトル戦「竜昇戦」。
桂介はプロでは考えらず、初心者がやりがちな反則負けをしてしまった。
翌日の早朝、桂介がひっそりと東京行きの新幹線に乗る様子を佐野と石破は監視していた。
桂介が東京駅に到着すると雪がチラついた。
「上条桂介さんですね。埼玉県警のものですが、天木山山中で見つかった遺体について伺いたいことがあります。大宮北署まで、ご同行願えませんか」
それを聞いた桂介は、バッグをホームに落とし満開の向日葵へ身を投げた。-おわりー
『盤上の向日葵』感想
『孤狼の血』で知られる柚月裕子さんによるヒューマンミステリー『盤上の向日葵』。
お話は佐野刑事の捜査パートと桂介の壮絶な過去パートが平行して展開し、二人が出会ったときに桂介が破滅的な死を迎えるという結末でした。
殺人事件の謎解きよりも、将棋に憑りつかれた男たちの生々しい人間臭さがとても印象に残る作品でした。
運命に翻弄されながらも己の才能を開花させていく主人公の光と影の対比が凄まじく、理不尽な虐待の理由が分かったときは衝撃を受けました。
そして柚月裕子さんが描く石破や重慶といった一癖ある中年オヤジは、やはり人を惹きつける魅力がありますね。
ちなみに東明重慶は、実際にいた真剣師の小池重明がモデルだそうです。
女性が描いたとは思えない男と男の痺れるような真剣勝負。
将棋は桂介にとって、唐沢のような「光」に出会わせてくれ、重慶のような「闇」にもつながる不思議な魔力のようなもの。
一度は心の病から解放されたように見えた桂介でしたが、やはり血に抗うことはできない悲しい宿命に突き進んでいきます。
作中に登場した母の思い出が蘇ったゴッホのひまわりの絵が伏線になっているのも憎い演出です。(ゴッホも幼少期より自殺願望があった)
『盤上の向日葵』は、将棋に詳しくなくても濃厚な人間ドラマとして十分楽しめる作品ですので、映画で気になった方はぜひ原作もぜひ手に取ってみて下さいえ。
『孤狼の血』相関図&キャストあらすじは⇒こちら

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