呉勝浩『爆弾』ネタバレ!手に汗握る結末までのあらすじを登場人物&相関図付きで解説

人質は1400万人。頭脳戦に負けたら東京中爆破の危機。小説『爆弾』は、風采のあがらない男が仕掛ける東京をターゲットにしたミステリーです。今回は「このミステリーがすごい!2023年版」1位、「ミステリが読みたい!2023年版」1位の2冠に輝いた呉勝浩さんの『爆弾』のあらすじをネタバレ有りでご紹介します。
『爆弾』あらすじ
酔っぱらって酒屋の自動販売機を蹴りつけ、駆けつけた店員を殴ったとして、うだつが上がらない男が野方署に連行されてきた。
“スズキタゴサク“とふざけた名前を名乗るその男は、刑事の等々力功からの取り調べの最中に「自分には霊感がある。十時ぴったりに秋葉原で爆発がある」と予言し、その言葉通り秋葉原の空きビルで爆発が起きる。
さらにスズキは笑みを浮かべながら「ここから三度、次は一時間後に爆発します」と告げた。
等々力はなんとか第二の爆発が起こるまで、スズキの爆弾の在りかを聞き出そうとするが、のらりくらりとかわされてしまう。
そして時間通り、東京ドームそばで2回目の爆発が発生。
そこで等々力に代わり、重大事件として本庁の特殊班係・清宮輝次、類家が取り調べを行うことになったが、スズキは勝手な持論やクイズを展開して彼らを翻弄していく。
果たして炎上する東京を目の前にして、警察は次に仕掛けられた爆発を防ぐことができるのかーー。
『爆弾』登場人物&相関図
◆登場人物
◆スズキタゴサク・・・49歳。風采のあがらない男。爆弾事件の場所を”言葉遊び”を交えて次々と言い当てる。捉えどころがなく良心が欠落している。
◆等々力功・・・野方署勤務。最初にスズキタゴサクの取り調べを行う。
◆清宮輝次・・・警視庁捜査一課特殊班。
◆類家・・・爆発した天然パーマに円い眼鏡をかけた浮世離れした刑事。変人だかキレ者。
◆鶴久忠尚・・・等々力の上司。短気で嫌味。世渡りだけが取り柄。通称”75点の男”。
◆倖田沙良・・・交番勤務。酒屋でスズキタゴサクを逮捕して署に引き渡した。出世の野心はない。矢吹には親しみを込めて”サラダ”と呼ばれる。
◆矢吹泰斗・・・・沙良の先輩警察官。沙良の先輩で兄妹のように仲が良い。
◆伊勢勇気・・・矢吹の同期。交番を卒業して現在は刑事。スズキタゴサクの取り調べのタイピングを担当。
◆猿橋・・・野方署の刑事。30歳過ぎの屈強な刑事。沙良とコンビを組む。沙良から密かに”ラガーさん”と呼ばれる。
◆井筒・・・野方署の刑事。等々力の後輩。
◆長谷部有孔・・・優秀な刑事だったがあと数年で退職を迎えようとした頃、ある不祥事を起こし警察を去った。
◆石川明日香・・・長谷部の妻。夫の不祥事後に離婚して二人の子どもを引き取った。
◆石川美海・・・長谷部の娘。スタイリスト。
◆石川辰馬・・・長谷部の息子。化粧品メーカーを退職後に二年半ほど前からシェアハウスに住んでいる。
◆梶・・・辰馬が住んでいるシェアハウスの住人。オランダ人とのハーフ。
◆山脇・・・辰馬が住んでいるシェアハウスの住人。巨漢。
◆細野ゆかり・・・女子大生。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
『爆弾』結末までをネタバレ
◆半獣半人スズキタゴサク
百戦錬磨の清宮輝次は取り調べ室でスズキと対峙し、この得体の知れない男のパズルを問こうとするが、徐々に彼のペースにはまっていく。
スズキは清宮に交互に質問をし、その答えか、「心の形を当てる」というゲームを提案。
スズキは禅問答のような会話のなかに爆弾についての地名や想定される被害者などの情報を忍ばせてくるため、清宮は神経を研ぎ澄ませて彼の一言一言に耳を傾ける。
しかしスズキの徹底した自己卑下は、清宮の苛立ちを増幅させ、心理的に追い詰めていく。
そんななかスズキは、ある質問のなかで「ハセベユウコウ」という辞職した警察官の名を口にする。
長谷部有孔は、四年前に捜査のあとに事件現場で自慰行為をする醜聞を週刊誌に報じられ、その後 阿佐ヶ谷のホームで自殺した警部補で、野方署で知らぬ者はいない人物だった。
清宮は、スズキが長谷部の名を出したことで、わざと野方署の管轄内で事件を起こして捕まったと推測するが、その理由まではつかめないままでいた。
一方、スズキの”言葉遊び”のなかから九段下の新聞配達店が二度目の爆発だと気づいた清宮たちは すぐに現場に伝え、交番勤務の倖田沙良の機転により被害者を出さずに済んだ。
そしてスズキは次の爆発を予言しながら、清宮や類家がいない隙に取り調べの記録係・ 伊勢勇気に取り入り、重要な情報を与える。
◆長谷部の家族
等々力と鶴久は、不祥事を起こして警察を辞めた長谷部有孔の妻・石川明日香に会いに行った。
スズキが長谷部の名前を出したので何かヒントがあるかと思ったが、明日香はいつもと変わった様子はないと答えた。
長谷部は、警察を辞めたあと報道されたことは事実で、明日香に離婚を切り出したあと電車に身を投げた。
鉄道会社からの賠償請求が多額だったため、明日香は長谷部が所有していた財産ごと放棄しなければならず生活は困窮し、一家は離散した。
父が命を絶った後、息子の辰馬は人が変わったようにふさぎ込み、仕事も辞めて引きこもった。
そんな兄を妹の美海は責め、家族仲も冷え切ってしまったという。
等々力は、スズキに関する情報を何も得ることがないまま、明日香のアパートを後にした。
実は長谷部が不祥事を起こすまえ、等々力は捜査中に彼が現場で自慰行為をするところを見てしまい、精神クリニックを紹介していた。
しかし、そのクリニックの医師は守秘意識は低く、長谷部の行為を周囲にバラシてしまい週刊誌が目を付けたという経緯があった。
等々力は、自分が紹介した病院がきっかけになったことから、長谷部と彼の家族に対して少なからず罪悪感を抱いていたのだった。
◆心の形
三度目の代々木のヒントで清宮は、子どもたちが危ないと近隣の幼稚園や小学校から子どもたちを非難させ、爆発物も発見した。
しかし、類家はスズキが言ったヒントの答えとしては十分ではないと感じていた。
そんななか代々木公園の南口で大きな爆発が起き、炊き出しに並んでいたホームレスを含む60名が犠牲となった。
スズキは言葉遊びのなかで命の平等、段ボールハウスなど、爆弾のもう一つの場所を匂わせていたにも関わらず、清宮は無意識のうちにそれらを無視して、子どもたちの方のヒントを優先してしまっていた。
清宮がやってしまった「命の選択」を、醜く笑うスズキ。
思わず清宮は、スズキが立てた指を力いっぱい曲げようとしたが、類家に制止されてしまう。
スズキの罠にはまり「心の形」をさらけ出されてしまった清宮は腰砕けとなり、次のゲームの参加は難しくなった。
スズキがあと三度と言っていたのは、
①東京ドームシティ
②九段下
③代々木
これまでが一度。つまり一回戦が終わっただけということ。
まだまだ仕掛けられた爆発物は残っており、二回戦からは類家が担当することになった。
◆住所判明
スズキから忘れた携帯電話の場所をこっそり教えられた伊勢勇気は、署から交番勤務の同期・矢吹泰斗に連絡を取った。
矢吹は後輩・倖田沙良と共に喫茶店に向かい、店主からスズキの携帯電話を預かったが、スマホカバーの裏に住所が記されたシールを見つけた。
住所にあったシェアハウスにたどり着いた矢吹と沙良が中に入ると誰もおらず、一室にはなんと長谷部有孔の姿がスクリーンに映し出されていた。
さらに奥に進むと、椅子にテープでぐるぐる巻きにされた長谷部の息子であろう辰馬の姿があった。
散らばったものの状況から、恐らくここで辰馬は爆弾を製造していたと思われ、スズキがわざと携帯を忘れて警察をおびき寄せたのだった。
そして矢吹が辰馬に「大丈夫か」と駆け寄った瞬間大きな爆発が起こり、沙良をかばった矢吹は片足が吹っ飛ばされてしまう。
沙良は大切な人の刑事生命、命までを奪おうとしたスズキを許すことができず、野方署の取調室に乗り込み、拳銃を抜いた。
類家に羽交い絞めにされる沙良を見ながら、スズキは腹を抱えて笑い、その後 少し痙攣して性の果てを迎えた。
◆類家VSスズキタゴサク
清宮の代わりスズキの相手をすることになった類家は、スズキに取り込まれることなく少しづづ事件の輪郭を掴んでいくが、肝心の真相まではたどり着けずにいた。
野方署の前には、ズキが流した動画を見た人々が集まり「犯人を出せ」「非難させろ」叫ぶなどして混乱していた。
そんななかスズキは「次の爆発は、東京の、丸ごと駅ぜんぶです」と告げた。
一方、辰馬の遺体が爆破されたシェアハウスには、辰馬、梶、山脇、そして50歳位のホームレスが住んでいたことが判明する。
辰馬は腹を刺された後 爆死させられ、爆弾計画のメンバーだった梶、山脇も2階で遺体となって発見された。
類家は長谷部が自殺した阿佐ヶ谷駅の爆発を予測して、人々を非難させるが爆発物はどこからも見つからない。
そうこうしているうちに、山手線の駅が次々と爆発し始めた。
丸ごとというのは山手線の円内のことで、先に爆発があった東京ドームも九段も円のなか、秋葉原と代々木も山手線内だった。
しかし爆弾の推定数10個のうちまだ9個しか爆発しておらず、あと1個残っている。
類家は、この爆弾計画を1つの「作品」に見立てているスズキが最後を飾る爆発はどのように仕立てるか考えた。
そして類家はある仮説を立て、スズキに「辰馬たちは、あんたを利用しただけで仲間とは思っていなかった。使い走りだったんだ」と挑発してみた。
すると、スズキは石川啄木の詩の一篇を唐突に暗唱し始めた。
類家は「石川」という苗字にピンときた。
スズキは最後の爆弾を長谷部の妻・石川明日香に仕込んでいたのだった。
◆最後の爆弾
その頃 沙良は、警察署の医務室でケガ人の救護にあたっていたが、そのなかに長谷部の妻・石川明日香を見つける。
以前、沙良は警察署内の豚汁の炊き出しで一緒になったことがあり、顔見知りだったのだ。
スズキのことが赦せずここにやって来たという明日香は、プリペイド携帯の番号にコールするとリュックが爆発すると明かした。
実は明日香は、夫が亡くなったあとホームレスとなり、スズキと知り合いになった。
シェアハウスに住んでいた50代のホームレスというのは、スズキではなく明日香だったのだ。
そして辰馬が連続爆弾計画を立てており、仲間にも手をかけたと知った明日香は、スズキに相談した。
つまりスズキは辰馬と面識はなく、彼が亡くなったあとにホームレス時代の仲間の明日香から、この爆弾の計画を知らされたのだった。
スズキは真犯人という栄光を掴むため、辰馬の罪をすべて引き受けるかわりに、爆弾計画を乗っ取ることを明日香に提案。
それからスズキは、辰馬たちが計画したものを自分好みに書き変え、数日で段取りとシナリオを考えたのだった。
場面は戻り、取り調べ室の前まで明日香を案内した沙良。
「やっぱりあなたに人殺しはさせたくない」沙良は明日香を抱きしめるが、もうすでにプリペイド携帯はコールされていた。
しかし…何も起こらなかった…。
◆結末
その頃 取調室のなかでは類家は、スズキが明日香に送った爆弾がフェイクであることを見抜いていた。
スズキは最後の爆弾を爆発させないことで、事件を風化させないようにした。
つまり最後の爆弾の存在がないと証明されるまで、警察の恐怖は続いていくということだ。
一方で事件のからくりを暴いた類家は、スズキに取り込まれることなく、彼の「作品」の完全な完成を阻んだ唯一の人物だった。
スズキは移送の際に等々力を見つけ「今回は引き分けです。と類家さんに伝えてもらえまますか」と話した。
爆発を防げず甚大な被害を出してしまった清宮、類家、そしてスズキに拳銃を向け、明日香を取調室まで連れて来た沙良は上からの処分を静かに待つほかなかった。
一か月後ー
石川明日香は息子の殺害容疑を認めず、すべては辰馬を洗脳したスズキタゴサクの仕業だと主張。
未だに本籍の確認が取れないスズキタゴサクは、一貫して霊感、記憶喪失、催眠を主張したが、多くの状況証拠、精神鑑定もパスしたことから極刑は免れないとみられている。
そして世間は、スズキのこと、最後の爆弾の存在を忘れ、日常に戻っていった。-おわりー
『爆弾』感想
異常なまでに自分を卑下しながらも、そこそこな知能を持ち、相手の神経を逆なでするスズキタゴサク。
手に汗握る警察小説ではあるのですが、とにかくこの無職、肥満、10円ハゲの冴えない中年男が強すぎて、すべてを持っていかれた印象です。
スズキは社会的に何も失うものがない人。要するにヒロユキが生み出したスラング”無敵の人”なのです。
冴えない中年男に、百戦錬磨の警察官が挑んでも挑んでも次々と「食われて」いく恐怖、そして禅問答のような言葉遊びに、読者である私たちも飲み込まれていきます。
そして爆弾が爆発したときの生々しさもさることながら、スズキのゲームによって自分自身の醜い「心の形」が暴かれて、爆発と同時にモラルが破壊される臨場感が堪りません。
「お恥ずかしい不祥事」によって警察を去り、自殺してしまった刑事・長谷部。
彼の理解しがたいけれど、犯罪ではない行為に対する等々力や鶴久の解釈も興味深いですし、爆弾を捜査する交番勤務の幸田沙良のキャラも魅力的。
そして忘れてならないのが類家。
もじゃもじゃ頭にちょこんと丸メガネをかけ、白いスニーカーを履いた変わり者の刑事は、ただ一人 スズキのペースにハマることなく対話していきます。
「こんな世界滅んじまえ」と思うスズキと類家は、似たもの同士。
類家が次のスズキになるという結末もあるかなと予想していましたが、終盤で「この世の中そんなに悪いもんじゃない」と踏みとどまる姿には希望が持てました。
取調室という密室の心理戦とは対照的に東京全部が標的になるという壮大さ。
『爆弾』は「命は平等か?」と読者一人一人に倫理観や正義観を突き付け、集団のありようを描いた社会派エンターテイメント小説でした。
映画化の際には、だれがスズキタゴサクを怪演するのか。そちらの情報も楽しみに待ちたいと思います。
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