『夜の道標』ネタバレ!慟哭ミステリーのあらすじから衝撃の結末

芦沢央さんによる『夜の道標』は、指名手配犯を匿う女、刑事、虐待を受ける少年の運命が絡み合う慟哭のミステリーです。今回はドラマ化も決定した『夜の道標』のあらすじから結末までをネタバレありでご紹介します。
『夜の道標』あらすじ
横浜市で学習塾経営者・戸川勝弘が殺害された。
目撃情報や残された指紋から容疑者は早々と特定され、警察は建設現場作業員・阿久津弦の足取りを追った。
しかし、阿久津の行方は不明のまま2年近く経ち捜査は縮小され、現在では窓際刑事・平良正太郎と部下の大矢啓吾だけが事件の捜査を続けていた。
実は阿久津は、中学時代の同級生・長尾豊子に匿われて、彼女の実家の半地下室で暮らしていた。
そんななか父親に虐待された少年・橋本波留は、空腹を我慢しきれずに半地下に潜伏する男からお惣菜をもらっていたが、その様子をクラスメイトに見られてしまい…。
『夜の道標』登場人物&相関図
◆登場人物
◆平良正太郎・・・強行犯係の窓際刑事。主任。塾講師殺害事件を追う。
◆長尾豊子・・・弁当店の遅番パート。容疑者である阿久津の同級生。
◆橋本波留・・・両親が離婚し、父と二人で暮らす。父はバスケットの実業団の元選手。
◆仲村桜介・・・波留の小学校の同級生で同じバスケッとボールのクラブに所属してる。
◆井筒勲・・・課長。平良の上司。平良を目の仇にしている。
◆大矢啓吾・・・若手刑事。平良とコンビを組む。
◆戸川勝弘・・・横浜の学習塾経営者。障害がある子供に合わせて指導を行うなど生徒や保護者からの評判は良かった。
◆阿久津弦・・・戸川の教え子で教え子で軽度の精神障害を持つ。かつて5年間ほど戸川の塾生だった。戸川殺害の容疑者として追われるが2年経っても行方が分からない。
『夜の道標』結末までのあらすじ
この物語は、容疑者を追う刑事、容疑者の中学の同級生の女性と虐待されている少年、そして少年のクラスメイト、4人の視点から描かれています。
◆犯人を匿う女
弁当屋でパートとして働く長尾豊子は、廃棄分のお惣菜を持ち帰り、自宅の半地下で匿っている指名手配犯阿久津弦の生活を見ていました。
豊子はバツイチで流産した経験があり、実家で孤独に一人暮らしていたところに、事件後にフラフラ歩いていた阿久津とバッタリ出くわし、とりあえず家で話をすることにしました。
豊子は中学生のときにいじめを行っている同級生をボコボコにした阿久津に密かに憧れを抱いていため、阿久津が人の命を奪った人間と知っても恐怖心はありませんでした。
阿久津は外に出たくても出られない。
豊子は自分だけのものになった阿久津と暮らす生活が、いつか壊れてしまうのではと警戒していました。
そんな不安は的中し、ある日 阿久津が少年と接触していることを知るのでした。
◆虐待される少年
小学生とは思えないバスケットボールの技術を持つ少年・橋本波留は、友人仲村桜介の憧れでした。
バスケチームは関東大会進出を目標にしていましたが、それに繋がる試合前に波留が交通事故で腕を骨折してしまったのです。
さらに波留は、6年生のメインイベントでもある林間学校にも家庭の事情で参加しないというのです。
実は波留には、人には言えない秘密がありました。
波留の父は実業団のバスケットボール選手でしたが、実業団が解散して営業職に就きますが長続きせず、波留の母は出ていきました。
それからというもの父はまともに働かず、生活は困窮していきました。
そんなある日波留が交通事故に遭い、加害者は波留がミニバスの選手で全国大会に出場できくなったと知ると100万を渡してきたのでした。
これに喜んだのは父でこの一件以来、波留は当り屋をさせられ、お金を持っていそうな女性の車に飛び出し、慰謝料をもらうという生活を繰り返していました。
バスケを練習していたのも、試合で活躍し将来有望な選手だと相手に思わせるためだったのです。
父親が波留に食事を与えることは稀で、わずかな小銭を置いて出かけていきますが、小銭だけで育ちざかりの少年のお腹は満たされません。
夏休みに入ると給食も無くなったため、いよいよ空腹に耐えかねた波留は、以前 民家で猫に与えられている総菜パックに入った焼き魚を見つけたことを思いだしました。
波留がその民家に向かうと同じ場所に大学芋のお惣菜パックがあり、手を伸ばすと半地下の天窓から男が腕を伸ばしました。
驚いた波留が話しかけると、男はここはトヨコという一緒に住んでいる女性の家で自分は出られないと答えました。
◆潜伏生活の終わり
そんななか波留の友人・仲村桜介は、波留が知らない民家の庭で男から総菜をもらっているところを目撃します。
桜介はその男が指名手配犯だと気づき、波留を助けたい一心で必死に説得しますが、波留は通報するなら友達を辞めると言いました。
その後、桜介はその足で阿久津がいる家まで引き返すと、豊子とばったり遭遇します。
家に戻った豊子は阿久津から「公園に行きたい」と聞き、着替えと車のキーを渡し、翌日 阿久津は、波留が住む団地に向かいました。
しかし 家を出たところで波留の父親に見つかり、阿久津は父親を車で轢きました。
父は波留のように上手く受け身をとることができず足を抑えたうずくまり、阿久津は林間学校に行きたいという波留のため車を走らせました。
◆阿久津の過去
指名手配犯阿久津弦は、障害のせいで人の気持ちを読むのが苦手で、相手の言葉をそのまま受け取ってしまうことが幼少期からありました。
阿久津は美和という女性と結婚していましたが子どもに恵まれず、それに負い目を感じた美和から別れを告げられていました。
そして刑事の平良正太郎は、阿久津の母親から衝撃的な事実を知ることになります。
阿久津は現在では禁止されている優生手術を中学生のときに受けて、子どもを作れない身体にされていました。
当時、母親は障害のある阿久津が性加害を起こすのではないかと不安になり、塾講師戸川勝弘の後押しのあって手術を決断しました。
その事実を母親から告げられた阿久津は、その後 戸川の塾を訪れ、気づいたら花瓶で殴打して命を奪ってしまったのでした。
◆最初で最後の逃避行
阿久津は美和とピクニックをしたことがある公園に波留と一緒に訪れ、それから林間学校の行き先である日光に向かうことになりました。
その頃、刑事の平良は、阿久津が少年を誘拐しているという緊急連絡を受け、彼が乗った車を追っていました。
阿久津たちは波留のクラスメイトが昼食を取っているサービスエリアに到着しましたが、警察も同じく駆けつけました。
桜介はパトカーに囲まれた車に乗っている波留と指名手配犯を発見して、窓を開けて名前を叫びました。
阿久津は警察に、波留をこれから林間学校に参加させて欲しいと伝え、波留の頭を撫でておとなしく捕まりました。
波留は警察に父親に当たり屋をさせられていたことや、阿久津が自分を助けてくれたと訴えました。
波留は理解ある担任のおかげで、そのまま林間学校に参加したのでした。
『夜の道標』感想
この事件の真相を説く鍵は1998年という時代設定にあります。
旧優生保護法が廃止された1996年に起きた事件から2年後を舞台にし、障害者の存在を否定するような旧優生保護法による強制的な不妊手術を扱った本作。
物語は4人の視点で進行していきますが、肝心の阿久津という男の内面は最後まで語られることはありません。
しかし、彼らの証言から阿久津は「社会的に孤立していたこと」「子どもを欲しがっていたこと」そして、精神的に未熟な部分はあるけれど決して相手の感情が分からないことがない人間ではなないということが浮き彫りになっていきます。
子どもに当たり屋を強要して金を得る親がいる一方で、子どもを欲しても親になれなかった阿久津や豊子のような人間もいる。
子どもは親を選べないというけれど、この物語は悲しい宿命というものをひしひしと感じさせてくれました。
そしてタイトルにもなっている道標。
阿久津は、塾の講師である戸川を信頼して彼が指し示す方向を歩いていけば間違いないと思ってきたのに、その恩師はが不妊手術の後押しをしていたという衝撃の事実を知り、絶望します。
周囲からの圧力や障碍者を育てる親の責任、手術を選んだ母親の苦悩も分かりますが、阿久津は子どもが欲しかった。
それなのに自分の意思は無視され、国の政策のせいで子どもが出来ずに妻とも離婚してしまい、孤独な人生を送ることに…。
阿久津が行った行為は許されることではありませんが、「いろんなものを見て、しまっておけよ」という言葉と共に、阿久津が波留にとっての道標になれたラストには希望が持てました。
そして、波留や犯人を匿った豊子、未解決事件を解決した平良など、登場人物のその後も気になりますね。
物語で描き切れなかったところは、ぜひドラマでじっくり見てみたいです。
なお本作は、WOWOWで吉岡秀隆さん主演で配信されることが決定しています。
WOWOWの登録方法は以下のリンクに詳しく記載していますので、ご覧ください。

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