異邦人(いりびと)ネタバレ!原田マハ原作あらすじ~結末
冷たい瞳を持ち声を失った若き女性画家の才能をめぐって繰り広げられる人間の罪深さを描いた原田マハさんによる『異邦人(いりびと)』。本作は、高畑充希さん主演でWOWOWによりドラマ化も決定している衝撃作。そこで今回はアートミステリー『異邦人(いりびと)』のあらすじから結末ネタバレを相関図などを交え解説していきます。
『異邦人(いりびと)』登場人物と相関図
◆登場人物
◆篁菜穂(たかむら なほ)・・・希代の美術蒐集家の孫娘にして有吉美術館の副館長。恐ろしいほどの美術への審美眼を持つ。妊娠中。
◆篁一輝(たかむらかずき)・・・菜穂の夫で銀座の老舗たかむら画廊の3代目。菜穂を愛しながらも、その審美眼に恐れをなす。
◆篁智昭(たかむらあきら)・・・一輝の父でたかむら画廊の社長。画廊の経営に頭を悩ます。
◆有吉克子(ありよしかつこ)・・・菜穂の母。義理母の立場ながら一輝に妖しい目を向ける。
◆志村照山・・・京都画壇で大きな影響力を持つ日本画家。かつてライバルだった画家の娘・樹を養女にする。
◆白根樹(しらね たつる)・・・素晴らしい才能を持つ画家。照山に囲われ自由を奪われているが、菜穂により才能を見出される。
◆美濃山俊吾・・・格式高い京都の画廊を営む店主。志村照山の絵を扱う。
◆鷹野せん・・・書家。菜穂の祖父と生前縁があり、身重の菜穂を招き入れる。
◆『異邦人』相関図
ドラマ『異邦人』のキャスト相関図と見どころは⇒こちら
『異邦人(いりびと)』あらすじ
◆京都
銀座老舗「たかむら画廊」の3代目の 篁一輝と結婚した有吉美術館の副館長・ 篁菜穂は妊娠中。
東日本大震災で原発事故が起こり、胎児への放射能の影響を避けるために、現在京都に長期滞在している。
少し長い優雅な旅行になると、母・ 有吉克子や夫に説得され京都にやってきた菜穂だったが、仕事ができないストレスと妊娠の影響から鬱々とした日々を送っていた。
ある日、一輝が菜穂の様子を見ようを京都にやってきた。二人は気分転換にと美術館を訪れ、パウル・クレーの展覧会を見た。
菜穂は、美術への確かな審美眼を持つ祖父・ 有吉喜三郎の才能を受け継ぎ、美術品を見る確かな目を持っていたが、一度 作品に魅せられてしまうと、どんな犠牲を払っても手に入れたいという衝動を抑えられなかった。
以前ほど「たかむら画廊」や菜穂の実家の不動産会社は勢いがなく、一輝は菜穂をこれから養っていくことに不安を感じていた。
絵を鑑賞するなか一輝は、白シャツにジーンズとカジュアルな服装ながら、後ろ姿がアート作品のように整った女性に目を奪われた。
彼女は、氷のような冷たい目をして一輝を一瞥して去っていった。
◆運命の絵との出会い
一輝が東京に戻って数日後、何か面白い作品はないかと散策していた菜穂は、以前 志村照山という日本画家の絵を購入した美濃山画廊を見つけた。
そして、顔なじみだった美濃山画廊の店主・ 美濃山俊吾に、応接間に案内された菜穂は、そこに掛かっている一枚の絵に惹きつけられた。
それはクレーの絵の一番良いところだけを集約したような、抽象的な 青葉が連なった作品だった。
幼少期から美術品に接してきた菜穂は、優れた美術品に出会うと心に「刺さる」という感覚になる。
その「青葉の絵」は、まさしく菜穂の体を貫き、得体の知れない感情を巻き起こした。
「青葉の絵」は 無名の新人画家にとって描かれたものだったが、自分の感覚を信じる菜穂にとって肩書きなど関係ない。
すぐに東京から一輝を呼びつけると、母親の克子も付いてきた。
克子は、菜穂が一輝と結婚する前からの「たかむら画廊」の上顧客で、以前より一輝に対して妖しい視線を送っていた。
一輝は、克子がお得意様であり、菜穂の義理母であることから、一線を越えない程度に付き合ってきた。
そんな一輝と克子は、「青葉の絵」を見たがその価値には半信半疑で、菜穂がその絵を購入し、夢中になる姿に呆れていた。
そして、克子は菜穂に子どものことを最優先するためもう少し京都に滞在しろと、書道家・ 鷹野せんの家に預ける手配をしていた。
最初は乗り気ではなかった菜穂だったが、せんの奥ゆかしい性格や落ち着いた屋敷を気に入り世話になることを承諾した。
◆経営危機
ある日 一樹は、父で「たかむら画廊」の社長・篁智昭から、大きな取引の仲介をお願いしていた人物に五億円もの大金を持ち逃げされたと明かした。
さらに、智昭はこのままの状況では、「たかむら画廊」は1か月も持たずに倒産することになると明かした。
そこで、智昭は一輝に、菜穂の実家が経営する有吉美術館が保有するクロード・モネの「睡蓮」を五十億で売却し、仲介したたかむら画廊が十%の五億を手に入れることを提案する。
『睡蓮』は、有吉家の祖父の代から何よりも大切にしていた作品で、菜穂が売却することを承諾するわけがなかった。
そこで、一輝は克子を呼び出し、菜穂に内緒で肉体関係を持つことで、「睡蓮」を売却してもらった。
そのおかげで、「たかむら画廊」は倒産の危機を免れたが、一輝は菜穂を裏切ってしまった自責の念にかられていた。
母の克子から「睡蓮」を手放したことを事後報告された菜穂は、古い友人を亡くしてしまったように悲しんだ。
◆白根樹(しらね たつる)
菜穂は、鷹野せんの人脈を通じて志村照山のパーティーに招かれ、あの「青葉の絵」を描いた 白根樹(しらね たつる)という女性に出会った。
樹は、一輝が美術館で見かけたあの美しい女性でもあった。
菜穂はすぐに彼女の神秘的な雰囲気に魅せられ、彼女を自分の手で世に出してやりたいという欲望を抱いた。
菜穂は樹に、自分が「青葉の絵」を購入したことや、絵のすばらしさを熱弁するが、樹は頷くばかり。
彼女は言葉を発せない障害を持っているようだった。
しかも、樹は師匠である志村照山の養女であり、樹の才能を知られることを面白く思っていないようで、菜穂が樹を独り占めすることは一筋縄ではいかないことも分かった。
その後 菜穂は、一輝や克子そっちのけで樹にのめり込んでいく。
いつしかメールでやりとりするようになった二人は、親密な関係を築いていった。
そのなかで菜穂は、樹が不慮の死を遂げた天才画家・ 多川鳳声の子供であり、そのあとに、多川のライバルだった照山が幼い樹を引き取ったことを知る。
照山がライバルの娘の樹を飼い殺ししている理由が分かった菜穂は、ますます樹を連れ出したいと思うようになっていく。
◆美術館の閉館と克子の企み
菜穂の実家の不動産会社の経営は右肩下がりで、有吉美術館を維持していくことが難しくなっていた。
そこで、克子は有吉美術館にある作品を売却することを菜穂に内緒で決定。さらに売却の一切を「たかむら画廊」に任せた。
この申し出に智昭は喜んだが、一輝はまたしても菜穂に黙って作品を処分すれば、菜穂はますます自分から離れていってしまうことを恐れた。
『異邦人(いりびと)』結末ネタバレはここから
◆もっと描きたい自由に
そんななか菜穂は、樹から いつも照山に見張られており勝手に外出すると首を締められるなど暴力を受けていると聞かされる。
そして樹は菜穂を、冷たい瞳でみつめながら「もっと描きたい自由に」と伝えた。
菜穂は、樹の個展を開催しようと美濃山画廊の店主・ 美濃山俊吾に提案するが、美濃山は京都画壇の大家である照山といざこざを起こしたくないと渋った。
しかし菜穂は、有吉美術館の目録を取り出し、セザンヌ、ゴッホ、ピカソ…など菜穂名義になっている作品を見せた。
そして、至宝とも呼べる100憶あまりの作品の売却権利を美濃山に渡すと言った。
これは、祖父の喜三郎が菜穂に残した秘密の遺産でもあった。
またとない申し入れに、美濃山は了承し、樹の個展が決定する。
一方で、克子たちは価値のある作品のほとんどが菜穂名義であることを知り、京都に説得に訪れるが菜穂は聞く耳を持たない。
さらに、菜穂は克子から一輝と関係を持ったと聞かされ、京都でこれからも生活することを決めた。
◆菜穂の出生の秘密
菜穂がこれほどまでに祖父・喜三郎に愛されたことには理由があった。
菜穂は、克子とその夫の子どもではなく、 喜三郎と祇園の芸妓との間に生まれた子供だった。
喜三郎は、実の娘だった菜穂の審美眼に期待し美術品を任せるため、克子夫婦に会社の経営権を譲る代わりに菜穂を育てさせた。
菜穂を失いそうになった一輝は、照山に有吉美術館で個展を開かないかと提案し、照山は快諾する。
師匠である自分と同じ時期に、樹が個展を開催することを知れば、照山は怒り狂い個展を中止にさせると考えたのだった。
そうなれば、菜穂も東京に戻ってくると一輝は期待した。
◆結末
菜穂は無事に女の子を出産し、自分の名前と樹の名前をとって「菜樹(なつき)」と名付けた。
その後、一輝たちが照山に展覧会の話を持ち掛けた浅ましい顛末を聞き、菜穂は克子や一輝と、ついに決別することを決意した。
一方、照山は、イタリアに滞在中に、日ごろの不摂生がたたったのか呆気なく亡くなった。
自由になった樹は、樹の父親である鳳声を殺害したのは照山であり、それを目撃した自分は照山に脅され、話すことを禁じられていたと菜穂に明かした。
さらに樹の母親は、菜穂と同じ芸者だったことが判明。
樹の母は、亡くなるときに「あんたには、お父さんが違う有吉菜穂というお姉さんがいる。大きくなって困ったことがあったら、きっと助けてくれる。」と話したという。
つまり、菜穂を樹は異父姉妹だったのだ。
一輝も、この事実を知り、照山の葬儀で微笑を浮かべる樹と顔を合わせたとき、樹が長年に渡って酒に毒を盛って照山を殺害したのでは?と疑惑を持ったが、今となっては確かめる気力もなかった。
菜穂と娘を失った一輝は、虚しい気持ちを抱きながら京都に別れを告げた。-END-
『異邦人(いりびと)』感想
「異邦人」は、京都の清らさ、美術品の美しさの描写が優れている分、人間の「欲」や「業」が際立つ作品で、どこか川端康成作品を彷彿とさせます。
震災後に被災者が少なからず感じただろう不安や、閉鎖的な京都で自分が異邦人に感じる描写はリアルで冒頭から惹き込まれます。
さらに、夫婦、母娘、義理母と義理息子、師弟、そこに菜穂と白根樹の関係が絡んでいくので、かなりドロドロしており、ドラマ化したくなるのも納得です。
最初は、菜穂の恵まれた環境で育ったことを当然かのように享受した傲慢な態度にイライラしましたが、樹との出会いから支配欲に突き動かされ逞しくなる姿がが頼もしい。
前半の優雅さはどこへやら、菜穂の数奇な生い立ちや樹の虐待など後半はスリリングかつ怒涛の展開で、不気味さを残す終わり方も余韻があって良い。ホラー要素は全くないのにゾクッとしました。
芸術に愛された菜穂と樹が強く依存しあっている理由も最後に明かされ、二人で娘を眺めるシーンは温かい気持ちになれます。
それにしても夫の一輝は、身重の妻を京都に置いて放ったらかしすぎ…挙句に義理母と関係持つなんて、見限られて当たり前。
最初は、画廊で億単位の絵画の売り買いや京都に長期滞在するなんて現実感がないなと感じていましたが、そんな非日常に入り込めるのも、読書の醍醐味だとあらためて実感した作品でした。
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