『死刑にいたる病』原作のあらすじから結末ネタバレ!サイコパスの凄み

大学生が、連続殺人鬼からたった一件の冤罪証明を依頼されることから始まる小説『死刑にいたる病』。本作を読めばサイコパスが分かると同時に、後味が悪い(イヤミス)ぶりに心が揺さぶられること間違いなしです。そこで今回は、櫛木理宇さん著『死刑にいたる病』のあらすじから結末ネタバレをご紹介いたします。
『死刑にいたる病』登場人物と相関図
◆登場人物
◆榛村大和(はいむら やまと)・・・連続殺人鬼。24件の殺人容疑で逮捕され9件で立件・起訴・死刑判決を受ける。かつてパン屋を営んでいた。
◆筧井雅也・・・三流大学法学部に通う大学生。榛村から9件のうち1件の冤罪を調査して欲しいと依頼される。
◆根津かおる・・・榛村が冤罪を主張する事件の被害者(当時23歳)
◆新井実葉子・・・榛村の実母。軽い知的障碍者で身持ちが悪く、雅也の父親も不明。
◆榛村織子・・・榛村の養母。
◆金山一輝・・・かつての榛村の被害者。
◆筧井衿子・・・雅也の母。
◆嘉納灯里・・・雅也の小学校からの同級生で、同じ大学に通う。
◆相関図
『死刑にいたる病』あらすじ
◆奇妙な依頼
筧井雅也は、中学生まで神童と呼ばれ成績優秀で友人も多かったが、現在 三流大学の法学部に通い、鬱々とした生活を送っていた。
そんなある日、地元でパン屋を営んでいた 榛村大和(はいむら やまと)から手紙が届く。
なんと榛村は、連続猟奇殺人犯で警察の拘置所に抑留されおり、
24件の殺人のうち、最後の一件だけは冤罪だ。君がそれを証明してくれないか?
と依頼してきた。
子どもの頃に懐いていた榛村の頼みに、事件や過去を調査し始めた雅也。
しかし、彼の人生の不運な連鎖を知っていくうちに、雅也のルーツも明らかとなり、いつしか榛村に魅せられていくー。
◆事件の補足
榛村は、街で美味しいと評判のパン屋の店主だった。
物腰が柔らかく上品で、俳優並みに美男子な彼は 誰からも好かれる人物だった。
周囲の人々はみな彼に好意的だったのだが、榛村はその善良な仮面を利用して、立件されただけで24件の殺人を犯していた。
榛村が獲物にしたのは、ハイティーンと呼ばれる十代後半の少年少女ばかりで、監禁し、むごたらしい拷問を加えて命を奪うというのが手口だった。
目をおおいたくなるような犯行は、世界のシリアルキラーにも引けをとないほど残忍だった。
たとえ、最後の事件が冤罪であっても極刑は免れないのは明らかだが、榛村は自分のやっていない罪までかぶせられることに我慢ならないと雅也に訴えた。
◆最後の事件への違和感
雅也が事件を調べていくと、確かに被害者は二十三歳の 根津かおるという女性で、年齢的に榛村のターゲット層とは異なっていた。
さらに、榛村の自宅ではなく山林で発見されたこと、監禁や拷問は加えず24時間以内に命を奪ったことなど、それまでの手口とは違っており、公判記録を見ても犯行を裏づける証拠は見つかっていなかった。
つまり、被害者像、遺棄上京、犯行の手口、どれをとっても一連の事件のなかで“浮いて”いた。
◆雅也が調査依頼を受けたワケ
雅也は、子どもの頃にちょっと懐いていた近所のパン屋の店主というだけで、怪物と呼ばれる榛村の調査を引き受けたのか?
それは雅也の過去の栄光に隠されていた。
雅也は、世間体を気にする父、父と祖母に言いなりの大人しい母の元に生まれ、中学の頃までは成績もトップクラスで明るい生徒だった。
しかし、その慢心から高校での成績はガタ落ちで、大学受験に失敗して三流私立大学に通っていた。
プライドの高い雅也は、そんな底辺大学でも人を見下した態度をとっていたため、恋人はおろか友人さえいない“ぼっち”だった。
しかし榛村は、雅也が“神童”と呼ばれていた頃しか知らず、その頃のままの自分を信頼して頼ってきてくれた。
たとえ犯罪者からであっても、昔のように他人から認められ求められることが雅也にとっては嬉しかったのだ。
『死刑にいたる病』結末をネタバレ!
◆榛村の生い立ち
榛村の母・ 新井実葉子は、知的にも精神的にもボーダーラインの人物で、常にろくでもない男をとっかえひっかえ家に連れ込んでいた。
榛村は 読書好きでIQも高かったが、母と暮らす男たちに殴られたり、性的虐待を受けていたため、思ったように勉強することができなかった。
幼少期の榛村をたまに預かっていた実葉子の従姉妹は、大人しいくせに動物を虐待し、ニヤニヤと笑う彼を気味悪がっていた。
榛村は地頭がよく顔立ちも綺麗だっため養子縁組の話もあったようだが、実葉子に邪魔をされ、劣悪な環境から抜け出すことが出来なかった。
そんななか、実葉子が薬物の過剰摂取により亡くなった。葬儀の際、榛村は母親の遺骨をたべていたという。
その後、榛村は14歳のとき小学生の女児に暴行し、大怪我を負わせ少年院に入った。
出所後半年もしないうちに、今度は小学生の男児を監禁し、指を折り、爪を剥がすなど拷問を加え自首をした。
そんな榛村を引き取り、養母になってくれたのはが、 村村織子という女性だった。
織子は、非行にはしったり、虐待されたことのある少年・少女を支援するボランティアを行う、立派な人物だった。
◆雅也の本当の父
榛村の過去を追うなか、雅也は織子のボランティア施設で撮られた集合写真のなかに、若かりし 母親・衿子が映っていることを発見する。
榛村と雅也の母親は、昔から知り合いだった。
やがて雅也は、母・衿子の過去の秘密を知ることになる。
実は衿子は虐待児で、両親から捨てられた彼女は榛村織子に引き取られのだった。
つまり、榛村と衿子は同じ養母に引き取られた 養子同士という関係だった。
雅也が衿子に、榛村の名前を出して過去を聞いてみると、衿子はその頃 頼れるのは榛村だけだったと話した。
さらに「織子さんは異性間の交渉には…すごく厳しい人だった。 堕ろすこともできなくて仕方なかった。織子さんにばれてすぐに、わたしは追いだされた。」と続けた。
ーーそうか、おれは彼の息子だった。
母・衿子のこの告白で、榛村がなぜ自分に手紙を書き、なぜあんな不自然な依頼をしてきたのか、ようやく分かった。
◆雅也の変化
榛村が父親だと知った雅也は、自分のなかで何かが変わったように感じた。
大学でも女生徒と余裕を持って話せるようになり、就職面接でも堂々と受け答えができるようになった。
一方で雅也は、幼くかわいい女の子がいると目で追うようになり、暴力を振るう想像をして興奮するようになる。
それは…まるで榛村が雅也に乗り移ったようだった。
◆真犯人?
最後の事件の捜査を続けていた雅也は、 金山一輝という男性にいきつく。
金山はかつて榛村に洗脳され、 弟と傷つけ合わされた被害者であり、最後の事件の裁判に出廷し「榛村を見た」と証言した人物だった。
さらに、金山は最後の事件の被害者・ 根津かおると仕事上で顔見知りであり、かおるが亡くなったあとは墓参りにも行っていた。
雅也は、これらのことから金山が復讐のため、榛村の犯行と見せかけてかおるの命を奪ったのでは?と推測した。
◆抑えられない衝動
女の子を物色するようになった雅也は、もう犯罪に手を染める一歩手前の精神状態になっていた。
榛村はそんな雅也に、自分が父親であることを認め、アクリル板の向こうから「本当は、言わないつもりだった。でも、きみに知って欲しくなった…… いま、きみの手を握れたらいいんだけどな。」と慈しむような目を向けた。
それを聞いた雅也は、彼のようになりたいではなく、 彼そのものになってしまいたいと思った。
ある夜、雅也は酔っ払いの男性を介抱するふりをして、人気のない場所につれていった。
そして石で殴ろうか?カッターナイフで傷をつけようか?と考えていたとき、突然 男が目を覚ました。
雅也は怖くなり、何もせずにその場から走り去った。
◆ドンデン返し
雅也は、自分は怪物になるか?ならないのか?ギリギリの選択をせまられていた。
そして最後の決断を下すために、衿子に電話をかけ「榛村大和が、おれの本当の父親なんだろう。」と単刀直入に聞いてみた。
すると衿子は「 あなたは大和さんの子どもではないわ」とキッパリと答えた。
じゃあの頃 衿子が妊娠した子どもは?父親は誰なのか?
「わたしが、あの時妊娠したのは大和さんの子じゃない。体の関係なんて一度もなかった。あの子は産まれてすぐ、死んだわ。だって私が首を締めたんだもの…」
榛村が父というのは雅也の勘違いだった。
衿子は、当時のボランティア仲間の男性から半ば乱暴するかたちで襲われ妊娠。
男性は既婚者で、そのまま行方が分からなくなり、お腹の赤ちゃんは五カ月を過ぎており堕胎することもできなかった。
困った衿子は仲良くしていた大和に相談し、産んだ子どもの亡骸の始末してもらったというのが衿子の抱えた秘密だった。
だとしたらなぜ榛村は、誤解させるようなことを雅也に伝えたのか。
実は、衿子の妊娠を養母の榛村織子に密告し、追い出したのも榛村の仕業だった。
雅也は、もう何が正しいのかわからず混乱していた。
一方で、もう心の中を蝕んでいた凶暴性は、雅也のなかから消え去っていた。
◆結末
数日後、雅也は金山一輝に会い、最後の事件で知ってることを教えて欲しいと頼んだ。
金山は、雅也が榛村の洗脳が解けたことを知り、正直に話し始めた。
5年前 根津かおるが殺された当日、金山は榛村に呼び出され25年ぶりに対面した。
榛村はあの頃と同じように「僕に痛いことされるの、好き?」と甘く囁いたが、金山はトラウマから、声すら出せずに体をこわばらせた。
榛村は「じゃあきみは見逃してあげる。そのかわりきみが、身代わりの生贄を選んでくれないか。」と言った。
子どものときに榛村から擦り込まれた記憶。
相手を生贄に差し出さなければ、自分が痛い目に遭うという支配。
金山は思考力が停止し、早くここから逃げなければ…と「 じゃあ、あの人」と見知らぬ女性を指差した。
その女性こそが 根津かおるだった。
金山は後日、自分が選んでしまった女性が、榛村の犠牲になったことを知り、罪悪感にさいなまれた。
金山は根津かおるの墓参りに行き、涙を流していたのもその一件があったからだった。
榛村の本当の目的は、元獲物である子どもたちを、罪悪感で縛りつけることことで支配することだった。
そして、その毒牙は雅也にも向けられていた…。
◆結末
「24件の殺人のうち、最後の一件だけは冤罪だ。君がそれを証明してくれないか?」
榛村は雅也だけではなく、金山や金山の弟を含め何十人もの元獲物に手紙を出していた。
元獲物とは、彼が過去に目をつけていたけれど、手出ししなかった子、あるいは とどめを刺さなかった子どもを意味する。
榛村は塀のなかからでも元獲物に執着し、支配を続けようとしていた本物のサイコパスだった。
「冤罪」というエサに食いついてくれば誰でも良かった。そして雅也は、まんまと捕まってしまった。
榛村は死刑台にのぼるまで今までのコレクションたちを眺め、まだ支配できているか確認し、楽しんでいる。 それは今も…。
◆エピローグ
その後雅也は、榛村に別れを告げ拘置所を出たところで、加納灯里と合流した。
榛村の支配から解き放たれた雅也には、彼女もでき、これからやっと本来の自分のように生きていけると感じていた。
◆
場面は変わり、拘置所にいる榛村のもとに、分厚いファイルを持った面会者がやってきた。
その人物は、榛村の担当弁護士の佐村だった。
彼は榛村から一任されたリストから雅也の名を二重線を引いて消した。
そのリストには、雅也の小学校からの同級生・加納灯里も入っていた。
榛村は「ありがとうございます。先生。こんなぼくに、ほんとうによくしてくださって」と佐村に頭を下げ、「 いま、あなたの手を握れたらいいのにな」と優しく微笑んだ。
ーEND-
『死刑にいたる病』感想
やっと雅也が普通の生活を手に入れハッピーエンドかと思いきや、雅也の彼女となった灯里、そして佐村弁護士まで榛村の支配下にあると明かされたときは背筋がゾッとしましたね。
幼少期に雅也が、他人を見下す選民意識や優生思想にどっぷりと浸っていたのも、榛村がその頃からジワジワと洗脳していたせいだったとは…。
俳優のような美男子で、相手の弱みにつけこみ、優しく語りかける。
一方で、死刑囚になってからも獲物への執着を続け、精神的に操り、揺さぶりをかけてくる榛村大和という人間は、生まれながらのサイコパス。怪物です。
榛村は大切な物が欠落している一方で、人の心を掴み信用させる能力には秀でています。
どんなに善人であっても、置かれた環境がひどければ歪んでしまことも分かりますが、不幸な生い立ちだった人が、みんな殺人を犯すわけではないことも事実。
榛村をみていると、一家を虐待しながらマインドコントロールしていた北九州殺人事件のあの犯人を思い出さずにはいられませんでした。
そういえばこの死刑囚も、凶悪犯とは思えないような笑顔で面会し「よく来てくれました。わざわざ遠くから大変だったですね」と声をかけるそうです。
シリアルキラーには魅力的な人が多いと聞きますが、こんな自然に近寄られて優しくされたら、取り込まれてしまうかもしれません。
読み終わったあとの後味の悪さ…。
読者は、自分も榛村に手のひらで転がされていた気分を味合うことでしょう。
人生において、こんな怪物と自分が接点がないことを祈るばかり…“君子危うしに近寄らず”ですね。
なお『死刑にたる病』は、2022年に阿部サダヲさん、岡田健史さんにより映画化されます。お楽しみに!
映画『死刑にいたる病』キャスト・相関図は⇒こちら
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