『だから殺せなかった』あらすじ~結末ネタバレを相関図と共に解説
「あっ」と驚く大どんでん返しの結末が待ち受ける前代未聞の劇場型犯罪を描いた小説『だから殺せなかった』。事件のトリックだけでなく凶悪犯の真の目的や親子の絆を描いた本作は臨場感たっぷりで、思わず一気読みしてしまいました。今回は一本木透著の『だから殺せなかった』の登場人物、相関図、あらすじから結末をネタバレしていきたいと思います。
『だから殺せなかった』登場人物相関図
◆登場人物
◆一本木透・・・主人公。太陽新聞記者。
◆江原陽一郎・・・大学生。
◆江原茂・・・陽一郎の父。
◆石橋光男・・・三角山の山小屋の管理人。茂とは旧知の仲。
◆吉村隆一・・・太陽新聞社の編集担当取締役。
◆白石琴美・・・一本木の元婚約者。元保母。
◆白石健次郎・・・琴美の父で群馬県出納長。
◆毛賀沢達也・・・名峰大教授。生物学者。
◆人物相関図
『だから殺せなかった』あらすじ
◆あらすじ
「おれは首都圏連続殺人事件の真犯人だ」大手新聞社の社会部記者に宛てて届いた一通の手紙。そこには、首都圏全域を震撼させる無差別連続殺人に関して、犯人しか知り得ないであろう犯行の様子が詳述されていた。送り主は「ワクチン」と名乗ったうえで、記者に対して紙上での公開討論を要求する。「おれの殺人を言葉で止めてみろ」。連続殺人犯と記者の対話は、始まるや否や苛烈な報道の波に呑み込まれていく。果たして、絶対の自信を持つ犯人の目的は―。
◆連続殺人鬼から新聞記者への挑戦状
首都圏で3件立て続けに殺人事件が発生し、その犯人と思わしき人物から太陽新聞記者の一本木透(作者と同じ名前です。)に手紙が届く。
おれは人間をウイルスと定義する。それを退治するワクチンがおれだ(中略)一本木記者の「シリーズ犯罪報道・記者の慟哭」を読んだ。(中略)お前ならば、この連続殺人の謎を解明できるかもしれないぞ。
自らをワクチンと名乗る犯人は、一本木に新聞紙上での公開討論を持ちかける。
劇場型と聞くと「犯人に告ぐ」が思い出されますが、犯人の相手は警察ではなく新聞社の一記者。ここから紙面上でスリリングな駆け引きが行われていきます。
◆犯行動機はなし?
ワクチンは「 犠牲者は誰でも良かった。殺す相手はその場で決める。」と主張しているが、被害者はいずれも、
●成人男性
●既婚者で子どもがいる
●家族仲が悪い
ということに、一本木は気づく。
しかし、この被害者の共通点にあてはまる人間は首都圏だけでも数え切れないほどいる。
ワクチンは、大勢の人間からどのようにターゲットを絞ったのか?
◆キーマンとなる青年
この物語には、一本木透とは別に、大学生の 江原陽一郎という、もう一人の主人公が登場します。一見、連続殺人事件と関係ないように彼の話は進んでいますが、後半で一本木と出会い、びっくりするような展開になっていきます。
江原陽一郎は、母親を病気で亡くし、血の繋がらない父・江原茂と2人暮らしをしている。
なかなか子どもを授からなかった江原夫妻は、三角山の山小屋に捨てられていた陽一郎を大切に育ててきた。
一時の陽一郎は、自分が本当の息子ではないという事実にショックを受けたが、母を亡くしてからは、さらに父との絆を深めてきた。
そんななか、ワクチンは次の犠牲者に予告状を送ると宣言し、その予告状が 江原茂の元に届けられた。
警察にイタズラだと取り合ってもらえなかった陽一郎は一本木を訪ね、相談した。
そのとき一本木は、
ふと頭のなかで何かが重なった気がした。(陽一郎の) あの笑顔。誰かに似ている。
と感じた。
◆婚約者か社会正義か?一本木の過去
ワクチンが一本木を対話相手に選んだキッカケとなる彼自身の過去を記事にした「シリーズ犯罪報道・記者の慟哭」。その内容も事件の重要なカギとなります。
20年前。
一本木は、群馬県政の汚職事件で県のNO.3である出納長の逮捕のスクープを掴む。
しかし、出納長の 白石健二郎という男性は婚約者の父親だった。
「どうしても載せるの? 私の父なのに?」
琴美は、問いかけた。
一本木は、愛する女性のため特大スクープを諦めるか、ジャーナリストとして真実を報道するか悩んだ。
そして一本木は、社会正義を貫くため後者を選択。
婚約者の父は逮捕された。
捜査の結果、白石出納長は賄賂として50万円相当の反物を受け取っていたことが判明する。
それは、 結婚を控えた娘に晴れ着を仕立てるためのものだった。
その後、白石出納長は琴美に、
「お父さんはお前が望む理想の家庭にしてやれなかった。どうか彼と幸せな家庭を築いてくれ。娘に生まれてきてくれてありがとう。」
という 遺書を残して自殺。
さらに、警察が調べていくと、汚職の発覚を恐れた知事が身代わりのために下の役職である白石出納長を巻き込んだことが発覚。
白石出納長は、一度は現金200万円の賄賂を断っていたが、「反物なら…」と仕方なく受け取っていたのだ。
それから間もなく、琴美は一本木の前から姿を消し、山中で自殺した。
一本木はそれらの事実を知り、
スクープの代償は、未来の家族。
という十字架を背負って、生きていくことになった。
『だから殺せなかった』犯人ネタバレ!結末
◆犯人が名乗り出る
一本木と犯人の紙面上の対話も終盤となり、ワクチンはついに正体を自ら明かした。
その名も 毛賀沢達也。
毛賀沢は大学教授であり、最近ではバラエティ番組にも出演するタレントととして認識されている人物。
彼は女性スキャンダルが絶えず、10人も隠し子がいると噂されていた。
ワクチンだと名乗る毛賀沢の殺人の動機は、自分の女に、被害者たちが手を出したということ。
つまり、女性を奪い合った末の犯行というものだった。
この告白により警察は、
●いずれの犯行の日も毛賀沢にはアリバイがないこと。
●犯行現場に捨てられていたタバコの唾液のDNAが唾液のDNAと一致したこと。
という証拠を集めた。
これによりマスコミも「毛賀沢教授、逮捕へ」と報じ始めていた。
しかし 一本木は、
「いや、待って下さい。どうしても 合わないピースがあるんです。」
と、太陽新聞が速報をかけることに「待った」をかけた。
いよいよここから一気にネタバレしていきます。
◆真犯人
ワクチンの正体は毛賀沢ではなく、 江原茂だった。
陽一郎の父である江原は、ワクチンから「予告状」を送られたように見せかけていた。
つまり自作自演だったのだ。
犯行動機については以下の通り。
被害者たちの子供には 児童養護施設「くぬぎ園」に預けられていたという共通点があった。
実は江原は、幼い頃に父親から激しい暴力を受け、被害者の子どもと同じように「くぬぎ園」で過ごした過去があり、暴力を嫌悪していた。
血の繋がらない陽一郎を愛した妻が亡くなり、我が子を虐待している親がのうのうと生きていることが許せなかった。
そのため「くぬぎ園」の名簿を探り、虐待をしている父親を次々にターゲットにしていった。
つまり、事件の被害者はたちは、子どもを虐待している加害者でもあった。
江原は、被害者たちに自分の父親を重ね復讐を果たしていたのだ。
◆毛賀沢が本当の父親
では、江原茂が毛賀沢を狙い、犯人に仕立てた理由は一体何だったのか?
確かに毛賀沢が、女性関係にだらしなく不倫を続けていたが、子どもを虐待している父親ではない。
一本木は江原に「 彼が陽一郎君の実の父親だったからではないですか?」と問うた。
江原は、陽一郎は毛賀沢と銀座のママの間にできた子どもで、山小屋に捨てられているのを知人の石橋光男が発見し、自分たち夫婦に連絡してくれたと話した。
次第に、陽一郎を捨てた毛賀沢に恨みをつのらせた江原は、彼に殺人犯の汚名を着せ、亡きものにしたのだった。
警察に捕らえられようとしていた江原は最後に「陽一郎の父親が毛賀沢であることを報道しないでほしい」と一本木に頼んだ。
陽一郎を傷つけたくなかったのだ。
一本木はかつて婚約者よりも正義を選んだ苦い経験がある。
「私もかつて、たった一人の信頼を守れなかった十字架を背負ってきました。報道やスクープの陰に、少なからず犠牲者がいること。私も忘れないようにします」
一本木に陽は、陽一郎の父親が毛賀沢ということを伏せておくことを約束した。
さて、これで真犯人も分かり、物語は終わりに向かうと思いきや….タイトルにもなっている 『だから殺せなかった』2人の理由により大どんでん返しが待っています。
◆一本木の元婚約者が『だから殺せなかった』理由
少し前に、一本木の婚約者の琴美は自殺したと触れましたが、実は琴美は亡くなる前に、一本木の子を出産していました。 その捨てられた赤ん坊こそ陽一郎だったのです!
陽一郎は一本木と琴美の子どもでした。
20年前の汚職事件スクープのとき、一本木は琴美が妊娠していることを知っていた。
そして一本木は、琴美の父親が逮捕されることになったことで、婚約を破棄し、子どもを中絶するように告げた。
しかし琴美は泣きながら、
私とあなたが、あの村の保育所で出会ってから、ずっと一緒に過ごしてきた時間の証が、この子なのだから
と言って中絶することを拒否して姿を消し、出産した陽一郎を山小屋に託し、自殺した。
この事実は、「シリーズ犯罪報道・記者の慟哭」のなかでも、一本木がどうしても書けなかった事実だった。
◆江原茂が『だから殺せなかった』理由
一本木は、江原から預かった手紙を陽一郎に渡した。
手紙には、
「最後に本当のことを話そう。この手紙をお前に届けにいった一本木記者についてだ。陽一郎、驚かないでほしい。
彼が、お前の本当の父親だ。
だが、 一本木記者には、お前が実の息子だとは伝えていない。彼は、毛賀沢教授が陽一郎の父親だと思っている。」
と書かれてあった。
江原が本当に標的としていたのは、陽一郎を捨てた一本木だった。
だから、一本木に新聞紙面で公開討論を持ちかけ、打ち負かしてやろうとした。
「彼を苦しめ、恥をかかせ、最後はその尊厳をズタズタに引き裂いて殺そうと思った」
江原は最後に一本木の後をつけ命を奪おうとしたが、振り返った一本木の顔を見て殺せなくなった。
「暗闇の中、街灯の下に浮かんだ彼の顔が、陽一郎にそっくりだったからだ」
江原が 最も憎んだ相手は、愛する息子と瓜二つだった。
ドラマ『だから殺せなかった』キャスト相関図は⇒こちら
『だから殺せなかった』ネタバレまとめ
『だから殺せなかった』のネタバレを簡単にまとめると、
●ワクチン=陽一郎の育ての親・江原茂
●陽一郎は一本木の子ども
●江原茂は陽一郎を捨てた一本木がターゲットだった
ということが分かりました。
『だから殺せなかった』は、斜陽産業の行く末、紙上の壮絶な論争、親子の絆、負の連鎖いくつもの要素が何重にも重なった重厚な作品となっています。
主人公が、記者としての正義と愛する人どちらを選択するのか?という葛藤は、息苦しいほどにリアルで、スクープの影に見える犠牲者にも思いを馳せてしまいました。
犯罪小説なのに、警察の出番がほとんどないのも斬新。
また、殺人は絶対にいけないことですが、根底にある父親の愛を知り、その犯罪をどこか否定できない自分にも気づかされました。
終盤には「だから殺せなかった」タイトルの2つの意味が明かされ、ラストまで油断ならない構成も見事!
玉木宏さん主演で映像化されるので、そちらのWOWOWドラマも楽しみです。
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