松本清張『顔』ネタバレ!原作のあらすじ~結末を相関図付きで
松本清張による『顔』は、戦後の混沌とした時代を舞台に、栄光を掴みかけた人間の儚さとか悲しみを描いたミステリーです。今回は、これまで幾度となく実写化された『顔』のあらすじ~結末を相関図付きでご紹介いたします。
松本清張『顔』あらすじ
松本清張の『顔』は、1956年にに発表された初めての推理小説で、サスペンスの帝王の原点ともいえる作品です。
これまで映画やドラマで何度も映像化された人気作であり、原作では劇団員の男性主人公ですが、女性のファッションモデルにしたり、時代を変えたものもあります。
今回は原作のあらすじと結末をまとめてみました。
◆『顔』あらすじ
売れない劇団員・井野良吉は、ある映画に端役で出演したところニヒルな風貌と個性的な演技が認められ、同じ劇団にいる看板女優・葉山瞳が主演する映画の相手役に抜擢される。
ようやくスターへの階段を登り始めた井野だったが、映画がヒットすることで自分の「顔」が売れることに恐れがあった。
9年前ー。
井野は恋人だった山田ミヤ子を殺害した過去があった。
そして、殺害現場へ向かう列車のなかでミヤ子と一緒にいるところを、彼女の知り合いの石岡貞三郎に目撃されていた。
ようやく掴んだスターへの切符を逃したくない井野の心のなかに、いつしか恐ろしいシナリオが芽生えていく。
松本清張『顔』登場人物&相関図
◆登場人物
◆井野良吉・・・東京の劇団で活動する役者。
◆山田ミヤ子・・・9年前 良吉の恋人だったが、彼に妊娠を告げたことをきっかけに殺害される。
◆石岡貞三郎・・・ミヤ子の知り合い。ミヤ子が殺害される前に良吉の顔を目撃する。島根県在住。
◆葉山 瞳・・・良吉と同じ劇団の看板女優。
◆田村・・・ミヤ子の事件を追う刑事。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
松本清張『顔』結末ネタバレ
◆9年前の事件
9年前ー。井野良吉は山田ミヤ子を殺害するため共に列車に乗車していましたが、そこに彼女の知り合いである石岡貞三郎が声をかけてきました。
ミヤ子は恋人と一緒に温泉に行くことを楽しそうに話しましたが、井野はタバコの煙をくゆらせて知らんぷりを決めこみました。
そして、島根県の温泉街近くの森のなかに井野とミヤ子。
井野は「子どもをおろしてほしい」と頼みますが、ミヤ子が拒否したため首を絞めて命を奪いました。
そのとき井野のなかに、戦地で負傷した戦友に頼まれて、彼に手をかけた記憶がトラウマのように蘇ったのでした。
◆恐ろしい計画
映画に出演してから街でサインを求められ、古くからの友人から連絡があったりと、井野は顔が売れることの影響力を感じていました。
そんなスターへの道を駆け上がろうとする井野の前に立ちはだかるのは、9年前の事件の日に出会ったミヤ子の知り合いの男。
いつ事件がバレるか分からない恐怖のなか、井野は興信所を使って1年がかりで石岡貞三郎の居場所を突き止めました。
そして、石岡に手紙を出し京都に呼び出して、彼を殺害することを計画します。
一方 手紙を読んだ石岡は不信感を抱き、汽車の中でミヤ子に会った男が、自分にコンタクトをとってきたのではないかと、田村刑事に相談し同行してもらうことにしました。
約束の日ー。京都に到着した石岡と刑事たちは、待ち合わせまで時間があったので食事をすることにしました。
井野はその店に偶然居合わせ、石岡の存在を確認しますが、彼が自分の顔を全く覚えていないことを知りました。
安堵した井野は、田村刑事にマッチを借りるなど大胆に行動し、結局 石岡殺害の計画を取りやめました。
◆映画公開と蘇る記憶
心配の種がなくなった井野は、堂々と映画の撮影に臨みました。
あるシーンでは、井野が「タバコを吸っていいですか?」と監督に提案し、それが認められました。
映画が公開されると、石岡も近くの映画館へ。
そして、井野がタバコを吸う姿がスクリーンに映し出されたとき、石岡のなかであの日ミヤ子と一緒にいた男のタバコを吸う仕草が重なりました。
◆結末
俳優として認められた井野はついに映画の主演が決定し、記者会見をすることになりました。
しかし、会見の席に石岡から連絡を受けた田村刑事が乗り込み、井野は逮捕されてしまいました。
取り調べで、井野はミヤ子があのとき妊娠していなかったことを知らされて驚きました。
そして井野は、ミヤ子と過ごした、貧しくとも幸せだった日々を思い出します。
戦後まもなく天涯孤独となった井野は買い出し列車で、ミヤ子と運命的に出会いました。
しかし、ある夜井野は、米兵に肩を抱かれ談笑し夜の街に消えていくミヤ子を目撃します。
次の日、食卓に並んだ高級食材を見た井野は、急激にミヤ子への愛情が薄れていくのを感じていました。
それから間もなく、井野は上京すると別れ話を切り出しますが、ミヤ子は妊娠しているから一緒に行きたいと告げました。
そんな彼女がどうにも邪魔になった井野は、あのような犯行に至ったのでした。
「子どもが出来た」と嘘をついてまで自分の心を繋ぎ止めたかったミヤ子…。
彼女の切実な想いを知った井野は、取調室で慟哭するのでした。ーEND-
松本清張『顔』感想
松本清張の初期のミステリー作品で、つらい時代を耐え、過ちをひた隠しにして、成功しようとする男の醜さ、儚さを描いた『顔』。
恋人を犠牲にしてまで自分の夢を叶えようとする主人公に同情する気はありませんが、悲惨な戦争のトラウマがあり、結局は自分自身で破滅していく姿には哀しさを感じました。
また本作は、松本清張作品の特徴でもある権力に対するルサンチマン(恨み、憎しみ)は少し薄いですが、時代の混乱にまみれて貧者がし上がろうとする設定は「砂の器」と似ていてとても好きな作品です。
それにしても、昭和臭プンプンの『顔』が令和になった今でも映像化されるというのは、物語の根底に人間の普遍的な欲望や問題がリアリティを持って描かれているからでしょうね。
善と悪だけでは決められない深みのある人間の愛憎劇がよく表現された作品だと思いますので、ドラマで気になった方は、松本清張の原点ともいえる小説も楽しんでみて下さいね。
松本清張『ガラスの城』あらすじ~結末は⇒こちら
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