『坂の上の赤い屋根』ネタバレ!あらすじ~結末を相関図付きで解説
小説『坂の上の赤い屋根』は、女子高生両親殺害事件から18年後ーー事件を元にしたルポをきっかけに、嫉妬、劣等感、孤独、過去など人間の湧き上がる“黒い感情”を描いたイヤミスです。今回はドラマ化も決定した『坂の上の赤い屋根』のあらすじ~結末をご紹介いたします。
『坂の上の赤い屋根』あらすじ
医師夫婦である青田夫妻が娘・彩也子(18)と交際相手・大渕秀行(21)に惨殺されコンクリート詰の遺体で発見される。
裁判では、両親に手を下したのはどちらなのかが争点となったが、判決は大渕に死刑、沙也子には無期懲役が下された。
18年後ーー。
新人作家・小椋沙奈は、「文京区両親強盗殺人事件」をモチーフにした小説を執筆し、轟書房に持ち込んだ。
原稿を読んだ編集者・橋本 涼は、沙奈の小説を「週刊トドロキ」に連載するため、轟書房の役員・笠原智子に掛け合う。
橋本から新人アルバイト“イイダチヨ”という偽名を使った方が良いと言われた沙奈は、緊張しながらも笠原と対面。
最初は小説にダメ出しをされるが、
●事件当事者にもっと迫る
●大渕と彩也子どちらが主犯なのか明確な視点を持つ
ということを踏まえて原稿を書き直すと、「週刊トドロキ」に沙奈の連載が許された。
しかし、大渕と獄中結婚した法廷画家・鈴木礼子、大渕のパトロンだった市川聖子の証言を聞きに行った沙奈は、徐々に体調を崩していく…。
そんななか、笠原は聖子から「イイダチヨ(沙奈)が青田彩也子」だと聞かされて…。
果たして事件の黒幕は誰なのか?その裏に隠された恐ろしい計画とはーー。
『坂の上の赤い屋根』登場人物&相関図
◆登場人物
◆小椋沙奈・・・新人作家。轟書房主催の賞で新人賞を獲るがその後は鳴かず飛ばず。「女子高生両親殺害事件」をモチーフにした小説を執筆し橋本に持ち込む。橋本に指示され「イイダチヨ」と名乗る。
◆橋本 涼・・・轟書房の編集者。沙奈の小説を「週刊トドロキ」に連載するため笠原に取り入る。大渕が執筆した「早すぎた自叙伝」も担当。
◆笠原智子・・・轟書房の元カリスマ編集者で現在は役員。「女帝」とも呼ばれる。
◆市川聖子・・・元エリート編集者で現在はフリーライター。18年前に大渕のパトロンとなり、会社の経費を横領し解雇されてから転落の人生をおくっている。笠原の先輩でもある。
◆鈴木礼子・・・法廷画家。大渕と獄中結婚する。
◆大渕秀行・・・「女子高生両親殺害事件」の主犯格とされる死刑囚。
◆青田彩也子・・・当時18歳のときに「女子高生両親殺害事件」で凶行に及び無期懲役となる、被害者の実の娘でもある。
◆田所弓枝・・・礼子の小学校からの同級生。法律事務所で働いている。礼子に法廷画家のアルバイトを紹介する。
◆エイコ・・・礼子と弓枝の小学校の同級生。窃盗グセがある。
◆松川凛子・・・大渕の新しい弁護士。
◆相関図
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『坂の上の赤い屋根』結末と犯人をネタバレ
◆大渕の“元カノ”聖子
沙奈と橋本は、笠原の勧めで大渕のパトロンだった市川聖子に会いにいきます。
実は、聖子はかつて轟書房の優秀なエリート編集員で、笠原の先輩でもありました。
当時の聖子は女性役員であり年収は1千万以上で、経費も思いのままに使っていました。
金と名誉を手に入れた聖子は、やがてホストクラブに足繫く通うようになり、そこでホストの大渕秀行に出会いました。
すぐに大渕の虜になった聖子は、轟書房の後ろ盾を武器にイベント会社を立ち上げた大渕を援助します。
そんななか、イベント会社のアルバイトとして青田彩也子がやってきて、大渕の態度が変わっていきます。
これまでは仔猫のように懐いていた大渕が、聖子に意見するようになったのです。
ゲイだと言う大渕に、聖子はプラトニックな関係を続けていましたが、どうやら彼が女性の体を愛せないというのは嘘で、大渕は彩也子と肉体関係を持っていたのです。
それからいうもの聖子は、大渕と彩也子のベッドシーンをのぞき見することに興奮するようになっていきました。
しかし、大渕はだんだん彩也子の肉体に飽きているように見えました。
そこで彩也子は、自宅から持ち出したと思われる薬か何かを大渕に飲ませ、必死で引き止めていたのです。
聖子は、この薬で大渕が破壊されてしまったと証言しました。
◆出所していた彩也子
ある日、笠原は聖子に「 “イイダチヨ”ってどことなく青田彩也子に似ていない?」と問いかけられました。
聖子が言うには、彩也子は刑務所内で事故に遭い記憶喪失になったため、二年前に出所してシャバに出てきていると言います。
証拠にイイダチヨの左腕には、彩也子と同じリストカットの跡がありました。
聖子は、記憶を失い自分自身の犯罪を小説にしていく彩也子と、それをネタにカリスマ編集長にのし上がろうとする橋本の姿を追い、本にしたいと笠原に売り込みました。
口止め料も請求してくる聖子の“ちゃっかり”具合に嫌気が差しながらも、笠原は「おもしろくなりそう」と思うのでした。
◆獄中結婚した礼子
法廷画家の礼子は、「女子高生両親殺害事件」で大渕の様子を絵に収めるため裁判を傍聴しますが、彼はとても端正な顔立ちをしており、凶悪犯には見えませんでした。
一方、女子高生だった彩也子は髪を金髪に染め、手にはタトゥーを施し、タチの悪い不良そのもの。
その後、大渕に好意を抱いた礼子は彼に手紙を書き、やりとりを行ううちに獄中結婚。
彼の潔白を証明するために再審請求の協力をすることになったのです。
そんななか、礼子は大渕から元カノである市川聖子に会ってきて来て欲しいとお願いされます。
礼子は、大渕と一緒に暮らしていた聖子に嫉妬心はありましたが、惚れている大渕の頼みを断れるはずもありません。
そして聖子は、「週刊トドロキ」で連載している「坂の上の赤い屋根」を執筆している女性(沙奈)が彩也子であることを匂わせてきました。
聖子は大渕に、彩也子は出所して“イイダチヨ”という偽名を名乗って生活していることを知らせると話しました。
家族からも疎まれ、居場所のない礼子にとって、大渕だけが心の拠り所となっていました。
そんな大渕が彩也子の出所を知れば、彼の心は彩也子の元に行ってしまうかもしれない…。
さらに礼子は、家族から手切れ金1千万円を受け取ったにもかかわらず、その金を同級生のエイコにだまし取られてしまいました。
◆赤い屋根の家で再びの惨劇
弁護士・松川凛子へ250万の費用を工面できず追い詰められた礼子は、 橋本から取材の依頼を受け、その報酬で弁護費用を賄うこうとにしました。
待ち合わせ場所の赤い屋根の家に向かうと、橋本は急用ができたとして、その場にはイイダチヨ(沙奈)しかいませんでした。
事件があった赤い屋根の家は登録有形文化財となっており、取り壊し不可能となって事件後はそのまま放置されていました。
イイダチヨこと小椋沙奈は被害者の青田家の遠縁にあたるため、この家を相続することになり、現在リフォーム中だと説明しました。
事故で両親を亡くした沙奈にとって、里親から独立する意味もあって、この家に住むことになったのは都合が良かったと言います。
「あの人は、青田彩也子に間違いない。刑務所で記憶喪失となり、どこぞのボランティアに引き取られた。そして、嘘の記憶を刷り込まれて、自分が青田彩也子であることも知らずに、この家を相続。さらには、この家で起きた事件をネタにした本で、ヒットを狙っている。」出展元:「坂の上の赤い屋根」より
礼子は、大渕が彩也子のことをただの金づるとしか思っておらず、両親殺害に巻き込まれただけと証言しました。
しかし、沙奈は大渕はいまだに彩也子に未練があり、死刑になるまえに愛する彩也子にもう一度会いたいと考えていると反論しました。
そして沙奈は礼子に「いいかげん目を覚まして下さい。あなたは大渕に手先として利用されているだけ。青田彩也子だけが大渕の愛する女なんです。」と忠告しました。
沙奈=彩也子だと信じて疑わない礼子は、「私が大渕の妻!この私が化けの皮を剥がしてやる!」と沙奈をめった刺しにして、命を奪いました。
◆結末
弁護士の松川凛子は大渕と面会し、二年前に彩也子が刑務所内で事故にあい記憶喪失となった噂は本当だと答えました。
愛する彩也子が生きていることに安堵する大渕。
結婚した礼子のことなどみじんも想っていらず、家族ができたら塀のなかでは便利だからと利用していただけでした。
しかし凛子は、その話は一部間違っていて、彩也子は医療刑務所で一時的に記憶を取り戻し、それが原因で自殺をはかって亡くなったと告げました。
聖子から、彩也子が小倉沙奈という作家になっていると聞かされていた大渕は混乱し、それから間もなく房内で自殺しました。
すべてを裏で操っていた黒幕は橋本 涼でした。
かつて大渕に「早すぎた自叙伝」を書かせた橋本は、原稿を読んだとき小学生だった姉・ミチルをイジメ、ケガをさせた奴が大渕だったと気づきました。
あの頃、大渕はミチルのお見舞いに訪れますが、からかい半分に彼女の口にティッシュを3枚ほど詰め込みました。
翌日、担任はミチルが亡くなったことを告げました。
しかし真相は大渕が犯人ではなく、弟の橋本がミチルの命を奪っていたのです。
両親はミチルがケガをしたとき、つきっきりでで看病しました。
その間 出来の悪い弟の橋本はほったらかしにされ、売れ残りの蒸しパンだけしか与えられませんでした。
ある日、姉の病室を訪れた橋本は、姉の口のなかに腐った蒸しパンを放り込み窒息させてしまったのです。
編集者となった橋本は、何の因縁か大渕と知り合い、彼を利用して出世する計画をたてたのでした。
そして、橋本は自分から手を下さすことなく、大渕にしっかりと絶望感を与えてから自殺に追い込み、復讐を果たしたのでした。
『坂の上の赤い屋根』感想
真梨幸子さんの作品には珍しく、男性が黒幕だった『坂の上の赤い屋根』。
だからななのか、これまでの作品ほグロさが抑えられ、叙述トリックが効いたミステリー色が強めだったような気がします。
でも、ザラッとした不快指数高めのエピソードは健在で、ミチルをいじめていたX=大渕秀行が分かり、冒頭の「早すぎた自叙伝」に続く構成は面白い。
“腐った蒸しパン”“出戻りのドロボー女”など、わけのわからないチョイスもくせになります。
橋本は自ら手を汚すことなく、周囲の人間を裏で洗脳し、計画を遂行した真のサイコパス。
結局 橋本は、姉の復讐ではなく自分の利益のために動いていたと分かったときはゾッとしました。
また、“わたし”や“私”がだれ視点なのかがポイント。
主犯が誰なのか?「視点を定めよ」というヒントも話のなかに出てきていたのに、青田彩也子=沙奈というミスリードにすっかり騙されました。
イヤミスのなかにほのかに爽快感も漂う、不思議で面白い作品ですので、WOWOWでのドラマ化も楽しみです。
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