『愛に乱暴』ネタバレ！あらすじから結末を相関図つきで

吉田修一さんによる小説『愛に乱暴』は、夫の無関心や姑からのストレスから逃れるように平穏な暮らしに勤しむ妻の孤独と狂気をあぶり出した作品です。簡単に言えば不倫についてのお話ですが、恋愛、ミステリー、どんなジャンルにも当てはめることができない吉田ワールド全開の傑作です。今回は映画化も決定した『愛に乱暴』のあらすじから結末を簡単にご紹介します。

『愛に乱暴』あらすじ

初瀬桃子は結婚して八年目となる夫と暮らし、カルチャーセンターの石鹸講師をしています。

義両親の家の隣の離れに住み、夫の無関心と義理母とのやりとりに日々ストレスは感じつつも、それなりに充実した生活をおくっていました。

そんななか、桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始めます。

近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪…そして気になっていた夫の浮気も明らかに。

さらに監視が厳しかった姑の視線も無視できなくなった桃子は、禁断のモノを手に不可解な行動を起こして…

『愛に乱暴』登場人物＆相関図

◆登場人物

◆初瀬桃子・・・結婚八年目の子供のいない主婦。カルチャーセンターで石鹸造りの講師をしている。義両親が住む家の離れで夫と二人暮らし。子どもはいない。
◆初瀬真守・・・桃子の夫。
◆初瀬照子・・・真守の母。
◆初瀬宗一郎・・・真守の父。
◆三宅奈央・・・真守の浮気相手。
◆浅尾昌也・・・カルチャーセンター企画部に勤める男性。桃子の仕事仲間。
◆鰐淵・・・桃子がかつて勤めていた外資系会社の上司。
◆葉月・・・奈央の友人。奈央の不倫の相談に乗る。
◆李・・・桃子の家の向かいにあるアパートに住む外国人の青年。近所のコンビニでアルバイトをしている。
◆久住すみ江・・・真守の父方の叔母。
◆時枝・・・かつて宗一郎の父の愛人だった女性。真守と桃子が生活している離れに昔住んでいた。

◆相関図

※無断転載ご遠慮ください。

◆以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

『愛に乱暴』結末をネタバレ

◆夫の裏切り

桃子は、最近真守に女性の影を薄々感じていました。

そしてついに、真守は26歳の三宅奈央という女性と関係を持ち、あろうことか彼女が妊娠していることを告げました。

それから三人で話し合いがはじまりましたが、真守は桃子と別れて奈央と生まれてくる子どもを育てていきたいと言います。

子どもが出来なかった桃子にとって、それはどうしても認めることができませんでした。

◆狂気

真守の別れ話と不倫相手に苛立ちが収まらない桃子は、離れの6畳間の床下を探りたいという衝動に駆られます。

そして購入したチェーンソーで床板を切断し、穴を掘りました。

チェーンソーの音や埃っぽい木の匂いに高揚感を感じる桃子。

床下からは壺が出てきて、不審火が起こった記事が載った古新聞が3部見つかりました。

真守と桃子が住んでいるこの離れは、真守の祖父の愛人・時枝のために立てられた家でした。

当時、この近所で不審火が相次ぎ、時枝が疑われていたことがありました。

桃子は時枝が新聞を隠していたことから、彼女が犯人だったのではと推測して興奮するのでした。

◆桃子の過去

時枝と自分の間にシンパシーを感じ、霊的ともとれる幻覚を見て謎の熱を出した桃子。

そして、夫の真守はあれからほとんど奈央の家から帰ってくることがありませんでした。

我慢できない桃子は奈央の家に乗り込み堕胎を迫りますが、真守と奈央の結びつきは強固なものになっていました。

真守から他の女性との間に子どもが出来たと聞かされた姑の照子は、真守の味方をして、これまでの桃子の行いを非難しました。

実は、桃子自身も真守を前の妻から略奪した過去がありました。

桃子そのとき妊娠しましたがすぐに流産。

真守との関係が終わってしまうことを恐れるあまり、桃子は婚約したあとで子どもがダメになったと明かしました。

真守と姑は、このときに桃子から騙されたと感じ、ずっと心のなかに“しこり”を感じていたのでした。

◆結末

姑の照子は、桃子がチェーンソーを持っていることを知り、嫁がおかしくなってしまったと怯えるようになりました。

真守の心はますます離れ、姑の関係も悪化する一方で、桃子は行き場を失っていきました。

再就職をしようと以前勤めていた外資系化粧品会社の上司・鰐淵に相談するもうまくいかず、真守からはついに離婚届けが封書で届きました。

そして桃子は日記帳とチャッカマンを持って、ふらつく足で家を出ました。

日記帳を何枚かやぶり、火をつけようとした瞬間、「おい！待て」と誰かを追いかけるような声が聞こえました。

桃子が振り返ると、さっきいたところとは違う場所から炎があがっていました。

桃子は自分が火をつけたわけではないのに、無我夢中でコンビニに逃げ込みました。

そのコンビニには、桃子の家の向かいに住んでいる外国人の青年・李が働いていました。

怯える桃子に李は「いつもゴミ置き場をそうじしてくれてありがとう」とサンダルを渡し、店の裏から逃がしてくれました。

帰宅した桃子は、離れからは出ていかないと真守に宣言し、姑がいる母屋と離れの間に土嚢を積み上げました。

作業の途中、桃子の携帯電話にカルチャーセンター企画部で一緒に働いていた浅尾から「独立して企業するから、一緒に働いてほしい」と連絡が入りました。

桃子は全身の力が抜け、ダイニングに戻って日記帳を広げました。

そして、浅尾の言葉とさっきコンビニであった青年とのやりとりを思い出し、日記帳に“ありがとう”と書いたのでした。－おわりー

『愛に乱暴』感想

吉田さんは男でありながら、女目線の生々しい表現がとてもうまい。

パートをしている子無し主婦が、突然夫に別れを切り出され、家を出ていく状況に追い込まれていくなんて、正常を保てなくなるのは当たり前。

その不調和を表わすアイテムが、チェーンソーっていうのがエキセントリックでいいですね。

うまく言葉で説明できないけれど、孤独から逃れるようにゴーグルをしてチェーンソーの重量感、振動、音に興奮する桃子の姿にすごく共感できました。

反対に真守には、一切感情移入できず…なぜ魅力的な桃子が略奪してまで、こんな男に惚れたのか謎。

サスペンス的な展開であれば、このまま真守か姑をチェーンソーでバラバラにて床下に埋める？なんて凄惨な想像をしましたが、そんな演出は不要でした。

巧みな※仕掛けと、桃子の心の機微だけで着地点までもっていく展開は新しい！下手なホラーよりもゾワゾワします。

※真守の不倫相手・奈央の日記かと思いきや、途中で不倫されている妻・桃子の日記に変わっていく仕掛けがある。

どんどん壊れていく桃子は痛々しいですが、狂気に抗い、最後は主要人物でもない二人から「必要とされる」言葉をかけられ、踏ん張る姿に希望が持てました。

女性の内面をえぐるような『OUT』『燕は戻ってこない』でお馴染みの桐野夏生さんの作品が好きな方にもおすすめです。