『かくしごと』原作『嘘』ネタバレ!あらすじ~結末を相関図付きで

北國浩二さんによる『嘘』は、過去の傷を抱える女性が、認知症の父の介護のため故郷を訪れ、記憶を失くした少年と出会い「家族」のカタチを取り戻していく小説です。今回は2024年公開の映画『かくしごと』の原作となる『嘘』のあらすじから結末をご紹介いたします。
『嘘』あらすじ
幼い息子を水難事故で亡くした絵本作家の里谷千紗子は、父・孝蔵との間に確執があり長いあいだ絶縁状態にありました。
しかし、故郷の幼なじみ野々村久江から、孝蔵が認知症になったと知らされ、東京から田舎に戻ってしぶしぶ介護をはじめることになります。
久しぶりに久江と再会し、町で飲んだ帰り道、久江はどこからともなく現れた少年を車で撥ねてしまいます。
久江は飲酒運転の発覚を恐れ、千紗子にひとまず少年を家に連れて帰ることを提案。
幸い少年に大きな怪我はなかったものの、記憶を失っていました。
そして彼の身体に、タバコを押し付けられたような跡やアザを見つけた千紗子は、少年を自分の子供として育てることを決意します。
虐待された少年、息子を失った千紗子、認知症の父との“嘘”から始まった共同生活は、豊かな自然のなかで新しい家族のカタチを育んでいきます。
しかし、そんなささやかな幸せに包まれた生活に、不穏な影が忍び寄りーー
『嘘』登場人物&相関図
◆登場人物
◆里谷千紗子・・・絵本作家。息子が亡くなったことにより精神を病み、夫と離婚。久江からの連絡をうけて父の介護を行うことになる。
◆拓未(本名:犬養洋一)・・・久江が起こした事故で千紗子と出会った記憶喪失の少年。虐待された形跡があり、千紗子と共に暮らすことになる。
◆里谷孝蔵・・・千紗子の父で元教員。64歳。認知症。厳格で大学を中退して結婚した千紗子を認めようとせず、結婚式にも欠席。孫の顔も見ようとしなかった。
◆純・・・千紗子の息子。保育園に通っていた頃に、キャンプで訪れた川で溺れて亡くなる。
◆野々村久江・・・千沙子の幼なじみで福祉課の職員。離婚して女手一つで息子を育てている。飲酒運転で少年を車で轢いてしまう。
◆学・・・久江の息子。小学三年生。
◆亀田・・・集落の医師。孝蔵の幼なじみで何かと孝蔵や千紗子を気にかける。妻を亡くし一人暮らし。
◆犬養安雄・・・洋一(拓未)の血の繋がらない父。旋盤工。拓未にひどい虐待を繰り返していた。
◆犬養真紀・・・洋一(拓未)の母。スーパーでレジのパートをしている。洋一の父である夫と離婚。安雄と再婚して洋一の弟である男児を出産している。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
◆以下ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
『嘘』結末までを簡単にネタバレ
◆少年の正体
千紗子が少年を保護した翌日、警察官や地元のダイバーたちが川を捜索しているというニュースが流れてきました。
少年の名前は「犬養洋一」といい、彼は夕方からバーベキューをしていた家族から離れ、橋の上に行き、両親の制止を振り切ってバンジージャンプをしていたというのです。
確かに千紗子と久江が少年を発見したとき、彼の足にはロープがくくりつけられていましたが、真っ暗な中、わずか9歳の少年が橋の上から飛び降りるわけがありません。
千紗子は少年を守り、虐待の事実をこの目で確かめるため、東京に住む彼の両親に会いにいくことにしました。
千紗子は子どもを失った親の互助会の代表と嘘をついて、少年の両親と対峙しました。
両親は行方不明の子どもを心配するどころか、遺体が見つからないから生命保険の受取りができないと不満を言い、少年の弟であろう子を叩いて虐待していました。
少年は母の連れ子だったので、もっとひどい暴行を受けていたことは容易に想像できました。
そして、見舞い金がすぐにでないことを知った両親により、アパートから叩き出された千紗子は、やはり自分が少年を育てようと決意を固めたのでした。
◆父との確執
千紗子の夢は漫画家になることでしたが、父に反対され都内の大学に進学しました。
そして漫画研究会に入り、一つ上の先輩と出会い20歳のときに妊娠が発覚。
父の孝蔵は、考えが甘いとさんざん叱りましたが、堕胎しろとは言いませんでした。
しかし、孝蔵は結婚式にも出席してくれず、息子の顔も一度も見にくることはありませんでした。
親子の断絶が決定的となったのは千紗子の息子・純が亡くなった頃です。
孝蔵は孫の葬儀に参列せず、「子どもを死なせるのは親の自覚がないから」とあろうことか千紗子を責めました。
実は孝蔵も昔、千紗子の兄にあたる息子を病気で亡くした経験があり、千紗子だけは大切に育てようと思っていました。
しかし、娘が自分の思うようにはならず、その苛立ちから娘を許すことができなかったのです。
◆共同生活
千紗子は少年に亡くなった息子を重ね合わせ、失った時間を取り戻そうとしていました。
そして少年に「あなたは私の息子だったの」と話し、「拓未」という名前を与えました。
拓未は、千紗子に安心した笑顔を向けるようになり、千紗子が作った偽りの幼少期のエピソードを忘れないようにノートに書き写しました。
孝蔵も、拓未に粘土細工を教えたり、釣りをしたり、祭りにいったりするうちに、心が穏やかになっていきました。
そんななか千紗子は、孝蔵の日記を見つけました。
そこには千紗子が最初にこの家を訪ねてきたとき「どなたかな?」と、娘を忘れてしまったように振る舞ってしまったことが書かれていました。
孝蔵は、今まで無視してきた娘の訪問を、素直に喜ぶ勇気がありませんでした。
それから孝蔵の認知症は少しづつ進行し、今では夜中に徘徊したり、トイレも失敗するようになっていきました。
◆事件
孝蔵の認知症は良くなってはいませんが、千紗子は拓未と父との暮らしが心地よく、このまま続いて欲しいと感じていました。
そんなある日 拓未を虐待していた父・犬養安雄が千紗子を訪ねてきました。
犬養は、絵本作家の千紗子の顔写真が載ったチラシを偶然みかけ、色々と調べ上げてここにたどり着いたのです。
犬養は、息子を渡すかわりに一億円を渡せと脅し、千紗子が断ると彼女の首を絞め始めました。
千紗子を守ろうと孝蔵は彫刻に使っていた刃物を持ち出しますが、それを拓未が奪いとり、犬養の背中に突きたてました。
千紗子は拓未に罪を負わせないように、今度は自分が刃物を持ち何度の犬養に振り下ろし、命を奪いました。
そして千紗子は自ら警察に通報し、逮捕されました。
◆結末
拓未は少しでも千紗子の罪が軽くなるように裁判で証言しましたが、犬養の妻で拓未の本当の母・真紀は涙を誘う演技で千紗子を責めました。
さらに拓未は記憶を失っているため両親の虐待も証言できず、孝蔵も認知症のため証人としての能力がないとみなされました。
それでも拓未は最後まで「ぼくのお母さんは、ぼくとおじいちゃんを守ろうとしただけなんです。 ぼくのお母さんはあのひとだけです。」と訴え続けました。
迎えた判決の日。千紗子には懲役10年の刑が科されました。
裁判が終わると、孝蔵は老人ホームに入所して、友人の亀田や久江の訪問を受けながらも一年もたたない間に他界しました。
真紀は拓未に以前のように罰ゲームと称して虐待を加えようとしましたが、拓未は以前のように従いませんでした。
真紀はやがて意のままにならない拓未を敬遠するようになり、新しい男と暮らし始めたため、彼を祖父母宅へ預けました。
祖父母は、自分を「洋一」ではなく「拓未」だという孫を可愛がるはずもなく、邪険に扱いました。
それから児童相談所に預けられた拓未は、久江に連絡を取りました。
久江は千紗子が出所するまで自分の子として育てる覚悟を決めたなか、亀田が拓未を養子にしたいと申し出ました。
亀田の養子となった拓未は、診療所での仕事に興味を持ち、やがて医師になりたいという夢を持ちました。
そして出所の日ーー。
千紗子は、凛々しく逞しく成長した拓未と再会し、涙を流すのでした。
◆少年がついた嘘
少年は車にはねられた日、千紗子と名乗る女性に拾われました。
少年は自分を大切に扱ってくれて、優しくしてくれる千紗子のことがすぐに好きになりました。
そして彼女は自分に名前を尋ねてきました。
少年は言いました。
「忘れた…」
ーこれが、ぼくがはじめて母さんについた嘘だった。
『嘘』感想
血が繋がっていても受け入れられず虐待する親がいる。血が繋がっていなくても全てを投げうって守ろうとする人もいる。
『嘘』は、水難事故で息子を失った苦しみを克服できずにいる女性と、両親からの虐待により心を殺された少年の魂が、親子として惹かれ合っていくお話です。
女性が血の繋がらない子を、自分の子どもとして育てるという設定は、なんとなく『八日目の蝉』に似ています。
一方、本当の親子である千紗子と孝蔵が、じわじわ進行していく父の認知症を通して、許し合い、親子関係を修復していく様子は読んでいて心地良かったです。
本作は、様々な親子のカタチを通して「血縁」っていったい何だろう?思わせてくれた作品でした。
そしてタイトルにもなっっている千紗子、孝蔵、そして少年がついたそれぞれの“嘘”は、相手を大切に思うがゆえについた“嘘”。
相手を守るためについた“嘘”でした。
無断で他人の子を自分の子として育てるというのは、いつか破綻するだろうと予想していましたが、ラストのたった一行で救われるとは思いませんでした。
二度読み必須というキャッチコピーにも納得です。
終盤には、千紗子と拓未がようやく築いた幸せが一瞬で打ち砕かれることになりましたが、十年の歳月を経ても、千紗子と拓未の絆は壊れませんでした。
もちろん久江や亀田の尽力もありましたが、この事実こそが、彼らが本当の親子になった証。
また、千紗子が逮捕されてから再び虐待され、いじめられた拓未が意思を持って立ち向かうシーンがありましたが、愛され、誰から必要とされた人間はここまで強くなれるんだと感じました。
この記事へのコメントはありません。