『傲慢と善良』ネタバレ!あらすじから結末を相関図付きで解説
『傲慢と善良』は、「婚約者の失踪」を通して言葉にできない人の感情を的確に表現した婚活ミステリーです。そこで今回は「思いあたること」だらけの辻村深月さんによる小説『傲慢と善良』のあらすじから結末をご紹介いたします。
『傲慢と善良』あらすじ
婚活を通して知り合った恋人・坂庭真実が突然失踪した。
ストーカーに悩まされていた彼女の居場所を探るため、婚約者の西澤 架は家族をはじめ、職場の同僚や地元の同級生、お見合い相手を訪ねた。
架は、真実の「過去」と向き合ううちに自分を含めた人々が無意識に持つ「傲慢と善良」の罪と向き合うことになる。
果たして、真実の失踪の本当の理由は?
『傲慢と善良』登場人物&相関図
◆登場人物
◆西澤 架・・・39歳。真実の婚約者。亡き父の会社の跡を継ぐ地ビール会社の社長。
◆坂庭真実・・・35歳。群馬県出身。架との結婚を控えていたが、突然失踪する。
◆坂庭陽子・・・真美の母。
◆坂庭正治・・・真美の父。市役所勤め。
◆岩間希実・・・真美の姉。
◆三井亜優子・・・架の元彼女。結婚をはぐらかす架に見切りをつけ新しい男性と結婚。
◆大原・・・架の親友。電子機器の卸の会社を経営。
◆美奈子・・・架の女友だち。
◆小野里・・・群馬県で結婚相談所を営む老女。真実に二人の男性を紹介した。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
◆以下ネタバレを含みますのご注意ください。
『傲慢と善良』結末をネタバレ
◆結婚相談所
架は、ストーカー被害を訴える真実のために一緒に暮らすことにしましたが、結婚式を控えたある日、真実が突然姿を消してしまいます。
架は真実の母と共に警察に相談しますが、ストーカーの名前も顔も分からないことや、結婚指輪が箱に入ったまま残されていたことから事件性がないと判断され、捜査が行われることはありませんでした。
そこで架は、真実がお見合いして振った相手がストーカーかもしれないと言っていたことを思い出し、手がかりを求めて群馬で結婚相談所を営んでいる小野里という老女を訪ねることにしました。
人の心を見透かすような厳格な雰囲気を持つ小野里は、真実にストーカーを行っていたのは、こちらで紹介した二人の男性ではないとキッパリと言い切りました。
ストーカーの正体は分からないままでしたが、架は真実も自分と同じように「ピンとくる相手」になかなか出会えず、徒労感を感じていたことが分かりました。
◆ストーカーの正体
それから架は、念のために真実のお見合い相手二人と会うことにしました。
一人目の金居という男は、高学歴のエンジニアですが服装に無頓着で砕けた物言いをする人物でした。
金井は結婚してもうすぐ三人目の子どもが生まれるということで、架は彼が真実のストーカーではないと判断します。
二人目の花垣という男は、歯科医の父親のもとで歯科衛生士をしている人物でした。
無口で会話もかみ合わない花垣は、いまだ独身でしたが、架にも純粋に真実のことが心配している様子が伝わってきました。
そんななか、架は学生時代からの女友だちである美奈子と梓に呼び出されました。
彼女たちは真実のストーカーの話はすべて嘘で、架に「結婚」を意識させるための自作自演だと告げました。
◆失踪の理由
二年も交際しても「結婚」を決断してくれない架に不安を抱いていた真実は、「ストーカー」されていると一世一代の嘘をつきました。
しかし、その嘘は架の悪友ともいえる美奈子と梓にすぐに見抜かれてしまいます。
美奈子たちに嘘を指摘され、架が前の彼女が100点に対して真実には70点という評価を下していたことにショックを受けた真実は、すべてに自信を無くし失踪したのでした。
◆結末
架の前から姿を消した真実は仙台にいました。
真実はここで東日本大震災で汚れてしまった写真の洗浄のボランティアをすることにしました。
全国各地の自治体の手伝いをしているコミュニティデザイナー・谷川ヨシノという女性や、写真館の人々と触れ合ううちに真実は、これまでの自分と向き合います。
そして震災で被害をうけた地域の地図作りにも携わることになり、三波神社の神主夫婦とも交流を持ったことで、架への本当の気持ちに気づかされます。
真実がある日、自分のインスタグラム久しぶりに開くと架から「本当は(ストーカーは)いませんね? どうか、ぼくともう一度話してください」というメッセージが書き込まれていることに気づきました。
地図作りの作業が落ち着いた頃に真実は、宮城県の陸前大塚駅を指定して架と再会しました。
架は、真実に70点を付けたのではなく、自分が結婚に迷っていて、結婚する気持ちが70%だったと正直に話して謝り、結婚指輪を取り出し改めてプロポーズしました。
真実は、嘘を許し、これだけの騒ぎになったのに「結婚しよう」といってくれる架の鈍感さ、優しさを心から好きだと思いました。
真実はプロポーズを受け入れ、二人だけで三波神社で結婚式を挙げたいと答えました。
それからしばらくして、二人は五十年ぶりとなる三波神社での結婚式を執り行いました。
「これから先、大丈夫かなんて、自信がない」
「だけど、それでも。」
「この結婚に、迷って決めたこの決断に意味があるものだと思いたい。」
こうして真実と架は「結婚する」という未来を選択したのでした。
『傲慢と善良』感想
何の予備知識もなく読み始めたので、最初はストーカーが絡むサスペンスかと思っていましたが、徐々に「婚活」部分がクローズアップされ、真実への違和感が気になりはじめました。
そして、中盤で結婚相談所の小野里が登場してからは、自分の無意識のなかの「傲慢さ」をほじくり出されるような言葉のオンパレード。
小野里はパートナーが見つからない人がよく言う「ピンとこない」というのは、自分につけた点数と相手が釣りあわないときに使う言葉と分析。
つまり「ピンとこない」とは「私の価値はこんなに低くない」と言っているのと一緒だというのです。
「ここまで的確に文字にしなくて良いよ」と目を覆いたくなる小野里の言葉は、婚活していなくても刺さりまくります。
また陽キャな女子たちが、真実の嘘を見抜いて辛辣に批評するシーンや、母親からの自覚のない束縛は、しんどさが増します。
一方真実にも「私なんて…」と言いながら見合い相手を 「おはなしにならない」とバッサリ切り捨てるなど、傲慢さが見え隠れします。
これも、小野里が言っていた「みなさん自己評価が低くても自己愛だけはやたら高い」という言葉にあてはまります。
人は常に判断を繰り返す生き物で、自分の色メガネで「相応しくない人だ」「嫌いだと」一方向から見て評価を下してしまうことが多々ありますよね。
でも、なんとなく傲慢を自覚しながら、善良でありたいと行動すれば、物事の見え方は変わってくるかもしれません。
そもそも傲慢=悪、善良=善とハッキリ分けられるものでもなくて、善良のなかに傲慢があったり、傲慢のなかに善良があったりして人間の心というのは割り切れないものだと改めて感じました。
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