『国宝』ネタバレ!あらすじ~結末を相関図付きで簡単に

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吉田修一さんによる『国宝』は、任侠の血を引く男が歌舞伎の世界に身を投じ、その頂点を掴むべく芸事に身も心も捧げた生涯を描いた作品です。今回は吉田亮さん、横浜流星さんにより映画化も決定した小説『国宝』のあらすじから結末をご紹介いたします。

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『国宝』登場人物&相関図

登場人物

喜久雄・・・長崎立花組の親分・権五郎と先妻の千代子のとの息子。非業の死を遂げた父の仇討ちをするが失敗したことで長崎を追われ、歌舞伎の世界にへ飛び込み芸品のある女形へとなっていく。
立花権五郎・・・長崎立花組の親分。長崎抗争で戦前からの名門宮地組を解散に追い込み力をつけるが…。
マツ・・・権五郎の後妻。喜久雄の育ての母。千代子の頼みを受け喜久雄をヤクザの道に行かせないように尽力する。
早川徳次・・・華僑と芸者の子で父は中国に渡り、母を5歳のときに亡くし、立花家の部屋住みとなる。喜久雄の2歳年上で兄弟のように育つ。貿易会社設立を夢見て大胆な行動に出る。
春江・・・幼少期より喜久雄と親しい。喜久雄を追って大阪に来て、スナックで働く。
辻村将生・・・愛甲会。半二郎を
宮地恒三・・・長崎での名門宮地組の大親分。
花井半二郎・・・大阪の歌舞伎役者で映画スターでもある。名門丹波屋の二代目半二郎。人情に厚く、喜久雄の才能を見出す。
幸子・・・半次郎の後妻。舞踊相良流の家元。
俊介(花井半弥)・・・丹波屋一門、花井半二郎の一人息子。厳しい稽古もするがよく遊び、喜久雄と青春時代を過ごす。しかし父が喜久雄を三代目半次郞に指名すると、突然春江と出奔、行方不明になる。
多野源吉・・・半二郎のところの番頭。
小野川万菊・・・遠州屋の当代一の女形。
市駒・・・京都祇園の舞妓。後に喜久雄の子である綾乃を身ごもり、育てる。
弁天・・・天王寺村の芸人夫婦の子。春江が大阪に来たときに声をかけたのが縁で、徳次の友人となる。
梅木・・・興行会社「三友」の社長。
竹野・・・「三友」の新入社員。歌舞伎担当。
姉川鶴若・・・小野川万菊と人気を二分する立女形。駿河屋の血筋。梅木に頼まれ三代目花井半二郞の喜久雄を預かるが冷たく接する。
吾妻千五郎・・・富士見屋、江戸歌舞伎の大看板。次女と喜久雄の結婚に猛反対する。
彰子・・・千五郎の次女。喜久雄が役者としての後ろ盾欲しさに結婚した女性。
伊藤京之介・・・千五郎と並ぶ江戸歌舞伎の役者。喜久雄より7つ年上。人気二枚目の立役役者。
曽根松子・・・新派の大看板、賭博師の血を引く女傑。後ろ盾のない喜久雄を助ける。彰子とは親戚関係。

相関図

※無断転載ご遠慮ください。

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『国宝』あらすじ~結末までをネタバレ

長崎の任侠一家で育つ

昭和三十九年の正月、戦後の混乱する長崎を勝ち抜いてきた立花組の大親分権五郎は盛大な新年会を開いていました。

会場となった老舗料亭には、大阪の人気歌舞伎役者花井半次郎も招かれ、権五郎の一人息子・立花喜久雄は歌舞伎舞踊の名作である「積恋雪開扉」の黒染を見事に演じ会場を沸かせました。

そんななか、権五郎は宮地組の急襲を受けて、命を落としてしまいます。

立花組は勢いを失い、天涯孤独となった喜久雄は、非業の死を遂げた父の仇討ちを決意し、宮地組組長に刃を向けるが失敗に終わってしまいます。

長崎にいることが難しくなった喜久雄は、中学卒業を前に大阪で暮らすことになりました。

大阪で修行

喜久雄は立花組の新年会に招かれていた歌舞伎役者・花井半次郎の家に、部屋住み組員で兄弟のように育った徳次と世話になることになりました。

義母のマツは喜久雄の実母の遺言通り、ヤクザの世界に喜久雄を巻き込まないように身を粉にして仕送りを続けました。

名門丹波屋には、同じ年ごろの半二郎の息子・俊介もおり、喜久雄は俊介と共に、半次郎に厳しい稽古をつけてもらいました。

やがて、同郷の恋人の春江も大阪に出てきて、ミナミのスナックで働くことになります。

出会ったころは反発し合った喜久雄と俊介でしたが、やがて「喜久ちゃん」「俊ぼう」と呼び合う仲になっていきました。

侠客の血と名門役者の血、才能も異なる二人はライバルとして互いに高め合っていきますが、ある出来事からその関係はよじれていきます。

スタア誕生

高校に入学した喜久雄でしたが、背中の彫り物が学校で問題視され、稽古の量が増えるならと自ら退学しました。

そんななか、喜久雄(花井東一郎)と俊介(花井半弥)が地方巡業で演じた「道明寺」を早稲田教授で劇作家の藤川が褒めたことがきっかけで、興業会社「三友」の社長の梅木が、新入社員の竹野を連れて楽屋を訪ねてきます。

梅木は、この「道明寺」を京都の南座でやってみようと企画し、劇作家の藤川は「スタア誕生の瞬間を観たければ南座へ」と呼びかけます。

するとグループサウンズのメンバーのような端正な顔立をしたの芝居を観ようと、老若男女多くの人がやってきました。

京都南座の「道明寺」が大成功に終わり、梅木は今度は大阪中座での公演を企画。

一方、弁天と一緒に一山当てようと北海道に行っていた徳次が、劣悪な環境に耐えかねて大阪に戻ってきました。

そして徳次は、北海道での出来事を労働福祉センターに陳情し、その興奮した様子が、たまたまドキュメンタリー映画監督の目にとまります。

ひょんなことかからドキュメンタリー映画「青春の墓場」に出演した徳次は注目を集めました。

代役

ある日、漫才師に弟子入りした弁天の勧めで、TV収録をみにいっていた喜久雄のもとに、花井半二郎が交通事故にあったという連絡が入ります。

命に別状はありませんが、両足骨折をした半二郎は、自分が演じる予定だった「曾根崎心中」主役のお初の代役を、息子の俊介ではなく喜久雄に命じました。

半次郎の妻・幸子は半次郎に抗議しますが、あの半二郎が「実の息子より部屋子の方が上手い」と判断したなら仕方ないと、俊介は喜久雄が代役全うできるように助けると話しました。

それから、喜久雄は半二郎の病室に通い詰めて厳しい稽古をつけてもらい、なんとか千秋楽を迎えたのでした。

俊介の出奔

「曾根崎心中」の舞台が終わった翌日、俊介は「父上様 探さないで下さい」と置手紙を残し、春江失踪しました。

それから3年後、喜久雄は数本の映画にも出演したものの、人気は低迷していました。

一方、喜久雄が大阪に来たばかりのころ祇園で知り合った舞子・市駒は、喜久雄の子「綾乃」を出産。

半二郎は、息子の失踪と、緑内障を患ったことから、自分が白虎を継ぎ喜久雄に三代目 半二郎を継がせることを決めました。

妻の幸子も一門を守るため腹を決め、襲名披露の準備を手伝いますが、喜久雄の挨拶が終り、半次郎が白虎の口上を述べる最中に吐血して倒れてしまったのでした。

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俊介発見

梅木の口利きで姉川鶴若に預けられた喜久雄でしたが、鶴若の喜久雄に対する扱いは冷たく、小さな役しから与えられず、しまいには地方巡業を言い渡されます。

そんな喜久雄に追い討ちをけるように白虎が「俊ぼん、俊ぼん・・・・」と最後の言葉を残してこの世を去りました。

一方、梅木の部下で興業会社「三友」の社員・竹野が、温泉街の芝居小屋で妖艶な芝居を見せる俊介を発見します。

すぐに俊介は復帰公演で大役を与えられ、不遇の喜久雄は俊介と再会できて喜ぶも複雑な心境です。

さらにワイドショーでは、三代目半二郎を名乗っている喜久雄が悪者にされ、イメージダウン。

ますます歌舞伎の舞台が遠のいていきました。

鷺娘

喜久雄は起死回生を図るため、江戸歌舞伎の大看板・吾妻千五郎の後ろ盾を狙って、次女の彰子に近づき婚約します。

千五郎は喜久雄の思惑を感じ、結婚に猛反対。

喜久雄の策略に乗せられた彰子でしたが、真実の告白を聞いて「最後まで騙してよ」と、そうまでして役者を続けようとする喜久雄を許しました。

喜久雄と家を出た彰子は、遠縁で賭博師の血を引く新派の大看板・曽根松子に頼み、喜久雄に舞台を踏ませます。

試しに演じた「遊女夕霧」が評判となり、喜久雄のファンも再び戻ってきました。

それから間もなく、俊介は「鷺娘」芸術選奨受け、やり手の竹野は喜久雄にも「鷺娘」を演じさせることにしました。

喜久雄はオペラとの競演で「鷺娘」を、東京とパリで演じて大成功。

そんななか、辻村から喜久雄に愛甲会の就任二十年を記念したパーティーで「鷺娘」を踊って欲しいとの依頼が入ります。

徳次はまたイメージダウンにつながるとして、反対しますが、喜久雄は快諾。

しかし、パーティーに警察のガサ入れがあり、辻村は逮捕され、喜久雄も背中の彫り物と共に批判されてしまいます。

スポンサーからの拒否もあり、新派の舞台にも出られなくなった喜久雄に、千五郎から「戻って来い」と許しの連絡が入ります。

暴力団との絶縁を宣言する記者会見を行った喜久雄は、無事に舞台復帰を許されたのでした。

栄光と没落

興行会社「三友」は、喜久雄と俊介が交代で配役を変える「源氏物語」の舞台を企画します。

二人が「源氏物語」は高い評価を受けるなか、テレビのお笑い番組に喜久雄を冷遇していた鶴若が出演し、笑いものにされていました。

喜久雄は鶴若を恨みつつも同情し、喜久雄らの公演で端役が与えられるように口利きをしました。

一方、鶴若のライバルだった小野川万菊は、山谷のドヤ街でひっそりと亡くなりました。

逮捕後は喜久雄と全く連絡をとっていなかった辻村は、亡くなる直前に喜久雄に会いたいと連絡。

病室に駆けつけた喜久雄に、父の権五郎を殺したのは自分だと告白しました。

喜久雄は父の仇討ちの相手が辻村だと知っても怒りは湧かず、それどころかこ半次郎に口利きして預け先を手配し、歌舞伎役者になってからも巡業支援を行ってくれたことに感謝しました。

これぞまさに一度恩を受けた人間を忘れないという喜久雄の背中に彫られたミミズクそのもの。

病魔

ある日、俊介は「女蜘」の好演中に舞台から転落し、病院を受診すると足が壊死する病気を患っていることが発覚します。

右足を切断することを余儀なくされた俊介でしたが、必死のリハビリの末に「与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)」で復帰します。

しかし、病院の検査で、左足も壊死のため切断することになり、俊介は絶望の淵に立たされます。

それでも喜久雄は両足義足となった俊介を励まし、「隅田川」で一緒に舞台に立ち、俊介は「日本芸術院賞」を受賞します。

春江や喜久雄と共に喜ぶ俊介でしたが、次第に病状が悪化し、ついに帰らぬ人となりました。

結末

俊介から花井半弥を継いだ息子・一豊を託された喜久雄は、一豊を立派な歌舞伎役者にしようと尽力します。

しかし、一豊がひき逃げ事件を起こし、親代わりだった喜久雄は真摯に謝罪会見を行い、世間に好感を与えました。

歌舞伎のイメージアップを図る喜久雄は、その頃から舞台以外の仕事を一切受け付けなくなり、神格化されていきます。

そんな喜久雄を見た竹野は「三代目は窮屈そうだ」と心配します。

喜久雄は長年考え続けていた「阿古屋」を演じようと決めます。

胡弓の師匠が「よし」というまで舞台に立たせないと喜久雄に申し渡した演目「阿古屋」。

一方、竹野のもとに喜久雄の「重要無形文化財」認定の通知が届き、中国で大成功した徳次は、知らせを聞いてすぐに帰国します。

人間国宝となり「阿古屋」を演じきる高みにまで上り詰めた喜久雄は、舞台の幕引きを認められないほど、狂っていきます。

スタッフは気圧されてされて劇場の扉を開け、喜久雄は花魁姿のまま外に飛び出します。

眩い照明と鳴りやまない拍手を感じ幸福感に包まれた三代目花井半二郎は、こうして日本一の女形になったのでした。-おわり-

『国宝』感想

講談のように軽快に語られていく、一人の男が芝居に憑りつかれ、日本一の女形になるまでを描いた『国宝』は、まるで大河ドラマを観たような満足感。

リアリティがあるのにドラマティック!

歌舞伎のことが詳しくなくても、粋な文章から表情、体の動きの躍動、時代の空気が感じられ、生き馬の目を抜くような芸能界の世界を舞台にしているのに、上品さが感じられるのも凄いですね。

随所に見られる長崎弁や関西弁のユーモアあふれるキャッチボールのような会話も軽やかで、人間臭い登場人物たちですが「無粋な奴」は一人もいないのも心地よい。

出てくる女性の懐の大きさ、強さに裏打ちされたおおらかさも魅力的。

下巻では、病魔に襲われながらもがく「俊ぼん」と芝居に憑りつかれ狂気的になる喜久雄の迫力に圧倒され、芸の道のためなら家族を犠牲にし精進を続ける喜久雄や俊介は、人間というより「役者」という別の生き物に感じられます。

それゆえに業の深さも底知れず、あと一歩のところでスキャンダルに見舞われたり、病気になったり、命を落としたり…と、毎回高みに登り詰める直前で不幸に見舞われます。

それでも白虎が遺した言葉

「どんなことがあっても、おまえは芸で勝負するんや。…どんなに悔しい思いしても芸で勝負や。ほんまもんの芸は刀や鉄砲よりも強いねん。おまえはおまえの芸で、いつか仇とったるんや」

この言葉の通り、役者を続ける喜久雄。

数奇な運命をたどった彼がラストに劇場から飛び出していくシーンは、芸を極めた人だけがたどり着ける想像を超えた世界。

ちなみに、登場人物は特定の役者さんをモチーフにしているわけではないようですが、私は稀代の女形・坂東玉三郎さんを想像して読みました。

吉田修一さんは、中村鴈治郎さんの舞台に黒衣の衣装をまとって付いて回ったということで、歌舞伎の裏のことも事細かく描かれています。

また演目も物語のなかで自然に説明されているので、歌舞伎鑑賞の格好の手引きとしてもおすすめです。

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