『誰かがこの町で』ネタバレ!あらすじ~結末を相関図付きで解説

『誰かがこの町で』は、「安心安全な町」と謳う高級住宅地で過去に発生した2つの事件を通して、忖度と同調圧力による集団心理の恐怖を描いたホラーミステリーです。今回は、ドラマ化も決定した江戸川乱歩賞受賞作家・佐野広美さんによる『誰かがこの町で』のあらすじ~結末をネタバレ有りでご紹介いたします。
『誰かがこの町で』あらすじ
横浜で法律事務所を営む弁護士・岩田喜久子の元に、大学時代の友人の娘で望月麻希と名乗る女性が訪ねてくる。
実は十九年前に望月一家は、郊外の新興住宅地に引っ越すも失踪し、今現在も行方不明のままだった。
麻希の依頼を受け、一家失踪事件の調査を行うことになったのは岩田の元で働いている真崎雄一。
彼もまた、かつて娘を自殺で亡くすという悲しい過去を背負っていた。
真崎は早速、望月一家が住んでいた鳩羽地区に向かうが、「安心安全な街」をうたうこの場所は、住民相互監視が徹底されよそ者を異常に警戒する異様な町だった。
住民の妨害に遭いながらも調査を続けた真崎と麻希は、小学一年生の一人息子を誘拐殺人事件で亡くした木本千春と出会う。
木本は望月家の隣に住み、かつて交流もあったようだが、麻希の顔を見て驚き、口を閉ざすばかりだった。
「この街に犯罪を犯すような住民はいない」という町で起こった、誘拐殺人事件と一家失踪事件。
二つの事件の繋がりと驚きに真相とはーー。
『誰かがこの町で』登場人物&相関図
◆登場人物
◆真崎雄一・・・かつて大手自動車会社で働いていたがリコール隠しに加担し、苦悩していた最中に娘・絵里を自殺で亡くす。現在は一人で暮らしながら法律事務所の調査員として働いている。
◆岩田喜久子・・・真崎が働く法律事務所の代表。麻希の母とは大学時代の友人だった。父は参議院議員。
◆望月麻希(松原宏子)・・・十九年前に失踪した家族を捜す女性。児童養護施設で育つ。
【鳩羽地区】
◆木本千春・・・小学一年生の一人息子・貴之を誘拐殺人事件で亡くす。
◆木本俊樹・・・千春の夫。息子が亡くなったあと防犯係となり、役員に引き上げられる。
◆望月良子・・・麻希の母で喜久子の友人。夫と二人の子どもと共に鳩羽に引っ越してくるが、突然十九年前に一家で行方不明になる。
◆菅井昭二郎・・・初代の鳩羽地区長。鳩羽地区ができる前は町議員をしていた。人望があり人格者。誘拐事件後に妻は自殺し、息子の輝夫は交通事故で亡くなった。
◆延川善治・・・不動産屋。菅井の代理地区長。妻は美千代。
◆松尾和夫・・・土建屋。鳩羽の防犯係。
【その他】
◆近藤・・・農園を営みながら民宿を経営。与久那町の歴史を良く知る人物で、鳩羽地区も元は近藤家が代々所有していた土地だった。
◆大川・・・鳩羽地区にある診療所の医師。
◆グエン・タン・ミン・・・日本に働きにきていたベトナム人。貴之の誘拐事件の犯人だと鳩羽地区の住人から疑われ自首を迫られる。
◆小久保由紀・・・岩田喜久子法律事務所の事務員。岩田の親戚筋。
◆朝比奈文彦・・・大宮で法律事務所を構える弁護士。喜久子に頼まれ真崎と麻紀を助ける。
◆相関図
※無断転載ご遠慮ください。
『誰かがこの町で』結末と犯人をネタバレ
※以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
児童養護施設の玄関に置き去りにされた望月麻希は、「家族を探したい」と真崎雄一と共に、失踪するまで望月家が住んでいた鳩羽地区を訪れました。
真崎たちは、民泊を営む近藤という男に、町の成り立ちを聞いたり、周辺の聞き込みを行ううちに、鳩羽地区の子どもが被害者となった誘拐殺人事件と一家失踪に関連があることを突き止めます。
◆誘拐事件
鳩羽地区に夫の俊樹と一人息子の貴之と暮らしていた本木千春は、ある日 息子が学校から帰って遊びに行ったきり帰宅していないことに気づきました。
すぐに公園や友人宅に向かうも、どこにも貴之はおらず、心配になった千春は警察に通報しました。
俊樹が帰宅するなり千春は貴之がいなくなったことを話しますが、俊樹は鳩羽地区の防犯係に報告するのが先だとなじりました。
連絡を受けた防犯係の役員・松尾和夫は、地区住民たちを集め捜索しますが、残念ながら貴之は、耕作地で両耳を切り取られた状態で遺体で発見されました。
その夜、地区長代理の延川善治は役員たちを集め、自分たちで犯人を捕まえようと話し合いました。
一か月ほどして、犯人らしき怪しい人物が浮かびあがり、噂を聞いた住民は、その男に自首を促すため抗議に出かけることになります。
男は地区外の古い団地に住むベトナム人・グエン・タン・ミンで、噂の段階にもかかわらず住民は彼に石を投げつけました。
警察が駆けつけ、住民たちの暴動は止められ、グエンは身柄保護で警察に連れていかれますが、その日のうちに帰らされていました。
貴之の爪には犯人の皮膚が残されていましたが、警察はそれ以上調べることなく、この誘拐殺人事件は未だ未解決のままになりました。
◆望月一家
誘拐事件の記憶が人々の間から消えかけた頃、 大木千春の隣に「望月一家」が引っ越してきました。
夫と5歳の息子、生後間もない娘(麻希)と共に鳩羽地区にやってきた 望月良子は、国立大で法律を学んだ才女で、この町のルールに疑問を抱くようになります。
千春は息子を亡くしたことから、望月の子どもの幸太郎と麻紀を可愛がり、良子とも仲良くなっていきます。
あるとき、千春は過去に息子の貴之が誘拐され無残にも命を奪われたこと、その際にベトナム人の男が住民により容疑者に仕立て上げれたことを打ち明けました。
しかし、その日を境に鳩羽地区の住民は良子を警戒するようになり、望月家のゴミだけ回収しなかったり、回覧板を回さなかったり、幸太郎を幼稚園から追い出すなど嫌がらせを行うようになりました。
千春は、良子と仲良くしていると、自分たち夫婦もこの町から追い出されると感じ、望月家と距離を取るようになりました。
そんななか、変装した良子が千春に接触をし、貴之の誘拐事件の真犯人が分かったと打ち明けてきました。
実は良子は、大木から誘拐事件の詳細を聞いてから、自ら真相を探っていたのです。
千春はそんなことを告発しても、地区長代理などにもみ消されてしまうと警告しましたが、良子はアメリカにいる信頼できる友人弁護士(岩田喜久子)に事件の証拠資料を送ったから大丈夫だと話したのでした。
◆偽りの安心・安全な町
貴之の誘拐事件の犯人は、鳩羽地区長・菅井昭二郎の引きこもりの息子・ 輝夫でした。
輝夫は誘拐事件を起こしたあと、県外に引っ越し、そこでも幼児の両耳を切り取る事件を起こしていました。(その後、交通事故で亡くなっている)
事件当日に菅井から息子が事件を起こしたと連絡を受けた、延川善治は、この町に犯罪者がいると鳩羽地区の評判が落ちることを避けるため、菅井に協力して犯人を隠蔽することに決めました。
不動産業を営む延川と、防犯係の土建屋の松尾は、鳩羽地区の開発に関わっており、土地の価値が落ちることを防ごうと、自分たちの利益を優先したのです。
それから、さも地区外の団地に住むベトナム人が犯人であるように住民を誘導し、菅井の息のかかった警察にも圧力をかけて、輝夫が犯人であることを隠し通したのでした。
一方、アメリカにいる岩田喜久子は、良子から誘拐事件の真相が書かれた資料を受け取り、協力しようとしますが、父に阻まれてしまいます。
岩田の父は参議院議員で、かつて町議をしていた菅井昭二郎と深い関係にあったため、事件を深堀りしないように忠告してきたのです。
自分の弁護士人生が絶たれると危惧した喜久子は、仕方なく良子から託された資料を無視することになってしまったのです。
◆望月一家失踪の真相
良子が昔の誘拐事件を調べ、真犯人の目星をつけたことを知った延川や松尾は、ついに望月一家を襲うこと決めます。
クリスマスまであと5日に迫った日、大木千春は夫と共に、延川、松尾、菅井昭二郎たちに連れられ望月家を訪れます。
そして、望月良子と夫、そして5歳の幸太郎の首に紐を巻き、命を奪いましたが、大木夫妻と菅井は、まだ何も知らない赤ん坊の麻希だけは助けたいと懇願。
渋々許された千春は、麻希を抱きかかえて町を出て、児童養護施設の玄関に置きました。
一方、延川たち男性陣は3人の遺体を裏山に埋め、その後 その場所に鎮魂のための祠を建てたのでした。(大木春子は、この祠によく花を供えていた。)
◆結末
真崎や麻希が十九年前の望月一家失踪の真相に迫っていることを嗅ぎつけた延川たちは、年老いた大木春子を殺害して口封じをはかりました。
そして、真崎たちが宿泊している近藤の家に押しかけ、麻希を千春殺しの犯人だと言い張り、身柄を渡せと迫ってきました。
真崎たちはすぐに警察に通報し、駆けつけた警察官たちは裏山の祠を掘り起こし、望月家の3人の遺体を発見しました。
その後、貴之ちゃん誘拐事件に残された皮膚の欠片と事故死した輝夫のDNAが一致し、菅井昭二郎、延川夫妻ら事件に関わった住民は逮捕されました。
他の住民たちは、自分たちは事件に関わっていないと主張し、ネットでは鳩羽地区のバッシングが過熱していました。
岩田喜久子は罪滅ぼしのため、麻希に自分の養子になるように申し出ましたが断られ、代わりに法律事務所の社員として雇うことになりました。ーおわりー
『誰かがこの町で』感想
「悪いことをする人などこの街にはおりません」
夫は有名企業に勤め、妻は専業主婦、子どもは二人いる家庭しか入居することが出来ない鳩羽地区。
条件を満たして住むことができても、頻繁にある防犯訓練への強制参加、午後十時以降の不要不急の外出は禁止、子どもは公立ではなく私立の一貫校に進学するなど異常なルールを守らなければなりません。
規則を守らないものは、村八分のようにのけ者にされ、退去させられていきました。
マジョリティであり続けられたら安全は約束され、マイノリティになれば排除されていく。
いなくなった世帯は、表向きはローンが払えず引っ越ししたと言われていましたが、実際のところは鳩羽地区に馴染めずに出ていかざる負えなかったのです。
最初は疑問を持っていた まともな住民も、やがて洗脳され自分の頭で考えることを放棄して、権力を握る地区長代理夫婦の言いなりになっていきます。
物語では、鳩羽地区のエピソードだけではなく、主人公の真崎のリコール隠し、いじめの主犯格にされ自殺した娘、保身のため友人の頼みを無視した弁護士の岩田喜久子などの負の部分も描かれ、誰しもが関わる可能性のある「長いものに巻かれる心理」の恐怖が描かれています。
日本でも因習が残る限界集落やカルト教団でも同じようなことが起こっており、最近でも、コロナ禍にマスク警察や反ワクチン運動家などが現れ、共感できる部分もたくさんありました。
攻撃対象にならないために間違っていてもNOとは言えない心理。これは村社会で生きることを選択した人間の本能ともいえるかもしれません。
そんな群集の恐ろしさを描いた本作ですが、良心を残し赤ん坊の命を救った大木千春と、家族の過去を受け止め生きていこうとする麻希の存在が救いでした。
『誰かがこの町で』は、誘拐事件と失踪事件の真相を探るミステリー、そして人間の恐ろしさを描いたホラーとしても堪能できる作品となっていますので、ドラマ化を機にぜひ読んでみて下さいね。
なお『誰かがこの町で』のドラマは、WOWOWで配信されます。
登録方法は以下のリンクに詳しく記載していますので、ご覧ください。

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