『グリーンブック』実話モデルドクターシャーリーたちのその後は?
映画『グリーンブック』は、インテリ黒人ピアニストが粗野イタリア人を運転手に雇い、アメリカ南部への音楽のツアーに出かけ友情を育むロードムービーで、登場するピアニストのドクターシャーリーと用心棒のトニー・ヴァレロンガの実話を基に描かれた作品です。今回は、『グリーンブック』をもっと深く知るため当時の時代背景やドクターシャーリー、トニー・ヴァレロンガの実在モデルをご紹介いたします。
『グリーンブック』実話モデルドクターシャーリーたちのその後
◆『グリーンブック』相関図とあらすじ
時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。
◆『グリーンブック』の時代
『グリーンブック』の舞台は1960年代のアメリカ。 ジム・クロウ法(人種差別的内容を含むアメリカ合衆国南部の州法)が存在した時代です。
北部は「奴隷制廃止」を掲げていましたが、伝統的な南部では反対に「奴隷制維持」を掲げていたため、南部の州ではジム・クロウ法が次々と制定されていきました。
南部の州法の例
黒人隔離を表す言葉としても使われる。ジム・クロウ法の1部を紹介すると
<アラバマ州>
・白人女性の看護師がいる病院に、黒人男性は患者は入れない。
・バス、電車では、待合室、発券所も別で、バスの座る場所も区別されている。電車の場合は車両が分けられている場合も。
・白人と有色人種が同じ部屋で食事ができるようなレストランは違法。
<フロリダ州>
・白人と黒人の結婚は禁止。4世代前までに黒人の血が一人でも入れば(16分の1)黒人。
・白人学校と黒人学校は完全に分ける。
<ほとんどの南洲部>
・過剰な投票税を課す(黒人が投票するのを防止)
南部でジム・クロウ法が制定されたのは、黒人労働力による農業により生活している白人農園主が多くいたため「黒人が白人と平等になっては困る」と考えたからです。
現在の私たちから見ると、胸クソ悪い法律ですが、当時はこれを疑問に思わない白人も多くいたということですね。
南部では黒人専用の水飲み場もあったようで、劇中のトニーが、黒人の飲んだグラスを捨てるシーンがありますが、トニーもジム・クロウ法の影響を受けていたのでしょうか。
しかし、ジム・クロウ法が無くなったいまでも、アメリカは人種差別問題によるデモや暴動に悩まされています。2015年のナショナルジオグラフィックのデータでは、アメリカの24州のうち19州で、黒人の運転手は白人の運転手よりも警察に止められる可能性が高く、場所によっては3倍も差があると報告しました。さらに、黒人旅行者は、罵倒や不当な捜索などの形で虐待されることも報告されています。
グリーンブックとは
当時のアメリカでは、北部にいる黒人は南部に行くことを避けていました。州の法律によっては、白人専用の施設に間違って入っただけで逮捕されたり、リンチされたりすることがあったからです。
そのため黒人が安全に旅行できるようにと作られたのが「グリーンブック」です。グリーンブックは、1936年から1967年にかけて出版された、黒人旅行者を対象とした最も人気のある旅行本で、宿泊施設だけでなく、美容院、療養所、ドラッグストア、ハーバーダッシャー、酒屋、ナイトクラブ、ガソリンスタンドが細かく書かれていました。
劇中では、古くて汚い宿が紹介されていましたが、実際はもっと高級なホテルが記載されていたそうです。ちなみに、シャーリーが白人男性と一緒にいて逮捕されたYMCA(キリスト教青年会)の施設は、同性愛者の間の出会いの場として利用されていました。
◆映画と実在のドクターシャーリーとの違いは
家族の描写にも違いが
映画でシャーリーは、結婚をしてすぐに離婚し、疎遠になっている兄が一人いると話していますが、実際のシャーリーには3人の兄弟がおり、映画に描かれたツアーの間、定期的に(1か月に話さなかった月はないほど)連絡をとっており疎遠ではなかったといいます。シャーリーは兄弟で医師でもあるエドウィン・シャーリーの患者でもありました。
さらに、高等教育と恵まれた環境で育ったシャーリーは、黒人コミュニティとは関わりがなく、彼らの音楽も知らないと描かれていますが、家族はシャーリーが黒人コミュニティーと密接に関わっていたと話しています。シャーリーは、黒人が人種差別の解消を求めて行った公民運動にも参加していたし、黒人である演奏家や指導者の友人もたくさんいたそうです。
映画公開後、シャーリーの兄弟は、シャーリーとトニーは友人関係ではなく単に、裕福な黒人演奏家とお抱え運転手という関係だったとも語っています。
ケネディに電話をしたのは本当
劇中でシャーリーがロバート・ケネディに電話をして、刑務所を出るというシーンがありますが、ケネディに電話をしたのは本当ですが、逮捕されることはありませんでした。
シャーリーの話では、トニーはスピード違反をしてしまいパトカーに止められました。しかも黒人を乗せて運転していることに腹を立てた警官は、トニーを留置所に入れたのです。これは、確かに人種差別ですね。
トニーを保釈するには、お金が必要でしたが、あいにく手持ちの現金がなく、困ったシャーリーはアシスタントを通してケネディに電話をしてもらい、助けてもらったそうです。
キャリアは本物
シャーリーのキャリアは、3歳のときにコンサート・ステージに立ち、18歳のときボストン・ポップス管弦楽団と共演し、その傍らで心理学、音楽、典礼芸術の博士号を取得したインテリです。ホワイトハウスに招かれ演奏したこともありました。
その後、クラシック音楽に影響を受けたジャズを確立し、シングル曲『ウォーター・ボーイ』ビルボード Hot 100で40位にランクインし、そのまま14週チャートインし続けました。
1960年代には、数多くのコンサートツアーに出かけ、そこには南部も含まれていました。シャーリーは黒人の自分が南部にいき勇気を持って演奏ことで、観客の心が少しでも動けば…と考えていました。そして、この南部のツアーを描いたのが『グリーンブック』です。
その後も作曲や作曲家としても活動し、2013年に心臓病で亡くなるまで、カーネギーホールの上にある高級アパートに住んでいました。
生前、彼の演奏を聞いたストラヴィンスキーは“彼の技巧は神の領域にある”と語ったそうです。
◆トニー・リップの実在モデル
戦後のドイツでマイナーリーグの野球選手兼兵士だったトニーは、その後アメリカに渡り、NYのマンハッタンのコパカバーナクラブのマネージャーになりました。
そこで、フランシスフォードコッポラと出会い『ゴッドファーザー(1972)』でギャングのカーマイン・ルペルタッツィを演じ、映画デビューしたことでも知られています。
実際に、人種差別主義者だったトニーが、シャーリーのツアーに同行したのも本当ですが、8週間ではなく、1年にもおよぶ長い期間一緒に行動していました。ツアー終了後、トニーは再びコパカバーナクラブに戻り支配人にまで登り詰めました。
シャーリーと同じく2013年に82歳で亡くなったトニー・リップですが、リップの息子であるニックは、生前 父親のリップからよくツアーの話を聞かされていました。そこで、ニックは監督のファレルと共同で、映画のなかにも登場したヴァレロンガの妻宛ての手紙やシャーリーやリップのインタビューに基づいて映画を制作したのです。
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『グリーンブック』キャスト一覧
トニー・“リップ”・ヴァレロンガ ◆ ヴィゴ・モーテンセン
粗野なイタリア人の用心棒を演じたのは、デンマーク系アメリカ人のヴィゴ・モーテンセン。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのアラゴルンでブレイクし、その後は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』に出演。本作では大食漢の役作りのため、1キロ体重を増やして挑みました。撮影中、シャツのボタンが弾けそうなお腹をキープするため、ずっと食べ続けていたそうです。これぞプロ根性。
ドクター・ドナルド・シャーリー –◆マハーシャラ・アリ
1974年生まれイスラム教徒。ニューヨーク大学を卒業後、TVドラマに出演するようになりました。アカデミー作品賞受賞作『ムーンライト(2016)』では主人公のよき理解者となるドラッグディーラー役で助演男優賞のオスカーを受賞。そして『グリーンブック(2018)』で自身2度目となるアカデミー助演男優賞を獲得しています。本作で、天才ピアニストを演じるため短期間でピアノをマスターした努力家。アリ自身も、有名になった後もロンドンのクラブで支配人から「なぜ、ここにいるんだ?」と質問されたり、レッドカーペットなどでは隅に追いやられることを経験し、自分がブラックであることを忘れることはないと語っています。
ドロレス・ヴァレロンガ ◆リンダ・カーデリーニ
黒人に対する差別意識がない美しいトニーの妻を演じたのは、1975年生まれのアイルランドおよびイタリア系アメリカ人のリンダ・カーデリーニ。アメリカの有名医療ドラマ『ER緊急救命室』のシングルマザーの看護師役で知られていましたが、本作のドロレス役を好演後、さらに知名度を上げました。
オレグ ◆ディメター・マリノフ
ドクの後ろでチェロを弾き、トニーが石を盗んだことをドクに告げ口をしたオレグを演じたのは、1964年生まれのブルガリア系アメリカ人の俳優。18歳のときにブルガリア軍に徴兵され、1990年代に政治難民としてアメリカに亡命してきました。クラシック音楽の準学士号を持っていたこともあり、コーヒーバリスタとして働きながらバイオリンを弾き、レストランで歌うことで生活を繋いできました。俳優の他、経営者、ミュージカル監督など多彩に活躍しています。
ジョージ ◆マイク・ハットン
ドクの後ろでベースを弾いているのが、1978年生まれのアメリカ人俳優のマイク・ハットン。本作の他に『デッドヒート(2020)』『ザ・ヴィジランテ(2016)』などに出演。
『グリーンブック』の動画を無料視聴するには?
シャーリーの遺族からは、事実とは違うという意見はありましたが、1度ならずも何度もツアーに行き、雇い主と運転手の関係であったとしても1年以上も寝食を共にしたならば、シャーリーとトニーの間に、何かしらの信頼関係や友情はあったのではと考えたいですね!
そんな、人種問題やシャーリー遺族からの意見により、アメリカで賛否両論を巻き起こした映画『グリーンブック』は、以下の動画配信サイトで無料視聴が可能です。
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