湊かなえ『母性』ネタバレ!あらすじから結末の考察と相関図

映画

タイトルとは裏腹に、湿度の高い気持ち悪さをまとった湊かなえさんによる小説『母性』。今回は、母と娘の一方通行の愛を描いた『母性』のあらすじから結末を相関図を交えながらネタバレしていきたいと思います。

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『母性』登場人物&相関図

『母性』登場人物

ルミ子・・・主人公。母から永遠に愛され、いつまでも擁護される娘の立場でいたいと願う。
清佳・・・ルミ子と哲史の娘。母親のルミ子から愛されたいと願う。
母親・・・ルミ子や孫の清佳を愛し、無条件に愛情を与える存在。
田所哲史・・・ルミ子の夫。実家は片田舎の大地主。長男。絵を描くのが上手い。工場で働く。
憲子・・・哲史の姉。森崎という家に嫁いだが、息子・英紀の子育てに悩み実家に戻る。
律子・・・哲史の妹。大阪の女子大を卒業し実家の田所家に戻ってくる。

小説のなかでルミ子と清佳は、終盤まで名前は伏せられており、最初は「母」「娘」という抽象的表現となっています。

『母性』相関図

※無断転載禁止

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『母性』あらすじ

とある事件

物語は、一つの事件から始まります。

(前略)県営住宅の中庭で、市内の県立学校に通う女子生徒(17)が倒れているのを母親が見つけ、警察に通報した。※※は女子生徒が4階にある自宅から転落したとして、事故と自殺の両方で原因を詳しく調べている。(中略)母親は「愛能(あた)う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません」と言葉を詰まらせた。

ある朝、この三面記事を読んだ とある女性教師は「愛能(あた)う限り、大切に育ててきた娘」母親の言葉にひっかかりを覚えた。

すると、同僚の国語教師の前任校が、今朝の新聞に載っていた女子高生と同じ学校だと判明。

そこで二人は、女性教師の行きつけだという、オタフクソースのおかめさんのような顔の店主が営む 『りっちゃん』という店で、事件のことを話すことにした。

たこ焼きが売りの居酒屋『りっちゃん』には、若いアルバイト店員もいた。

女性教師は現在 妊娠中のため、母性について興味があり、すべての母親が母性を持っているのかと疑問を持っていた。

教師は職業柄、無条件で子どもを愛する母親がいる一方で、子どもを虐待したり、精神的に支配して子供を苦しめたり母親がいることも知っていた。

母性ある母親がみだりに“”という言葉を口にするだろうかー。

「能う限り」という言葉は「出来る限り、可能な限り」という意味があります。つまり母親は、出来る限り愛情を持って育ててきたと言っているのですが、なんとも愛のない言葉に聞こえてきますね。
そして、この冒頭の教師二人のやりとりには 重大な伏線が含まれています。このあと、母と子それぞれの手記が少しづつ明かされます。

母の手記

物語では、終盤まで主人公である「母」と「娘」の名前は伏せられ抽象的表現となっていますが、母の名前は「ルミ子」、娘は「清佳」といいます。

ルミ子は、24歳のときに絵画教室で知り合った田所哲史と結婚。

結婚の決め手は、 世界で一番愛する母が彼の絵を絶賛したから。

ルミ子は物心ついた頃から、母親が大好きで、何よりも母親は喜ぶ顔が見たいと願う娘だった。

成人しても、ルミ子は母の温もりを欲し、べったり甘えて生活していた。

それは結婚しても、「清佳」という娘が産まれても母親への思いは変わらなかった。

ルリ子は自分が妊娠したことを気味悪がっていたのに、母が喜んでくれるからと出産を決意しました。その歪んだ母への愛情は、娘を出産したときのルミ子の気持ちにも表れています。

自分と同じように、「お父さん、お母さん」と呼ばせるのだろうと漠然と考えていたのですが、ふと、それはイヤだ、と思いました。お母さん、などと呼ばれたくない。私にとって 「お母さん」という言葉は、愛する母ただ一人のためにあるのだから。

母に褒められたい、母に喜んでもらいたいその一心で、そんなに好きでもない男性と結婚し、望んでいなかった子を授かる。ルミ子は、母にコントロールされることに依存しているようにも感じます。

残酷な二者択一

ルミ子は田所と、娘の清佳と共に、田所の両親が用意してくれた中古の一戸建てに住んでいた。

ルミ子は何かにつけて母親と一緒に過ごした。

料理のレパートリーを増やしたいとレシピを教わるため

娘の服を作りたいから、裁縫を教わるため

田所が夜勤のときは大変だから泊まりにきてもらう

母は、「夫の実家の手前、娘があまり自分にばっかり会うのはどうか」と、ルミ子をたしなめることがあったが、孫を可愛がり、会えばとても喜んだ。

このまま母と一緒に住めたらいいのに…

そんな幸せな反面、ルミ子は母の布団に入り「おばあちゃんと寝たらあったかくて好き」という清佳に少し嫉妬していた。

自分が子どもの頃に言っていたのと同じ言葉を娘の口から聞くと、うらやましくなりましたが、私はもうさすがに、母の布団に潜り込むことはできません。

その夜も、清佳は祖母が眠る布団にもぐりこんで一緒に寝ていた。

しかし、台風のため激しい雨風が家を襲い、祖母と清佳が寝ている部屋に土砂が流れ込んできた。

ルリ子は、タンスの下敷きになる 娘と母どちらを助けるのかという選択を迫られる。

ルミ子は迷わず、母の両腕を引っ張った。

「やめて。やめなさい。どうしてお母さんの言うことがわからないの。親なら子どもを助けなさい」
「イヤよ、イヤ。私はお母さんを助けたいの。子どもなんてまた産めるじゃない」
「あなたを産んで、お母さんは本当に幸せだった。ありがとう、ね。あなたの愛を今度はあの子に、愛能う限り、大切に育ててあげて」

母は、ルミ子に最期の言葉を残した。

ルミ子は、母に言われた通り、箪笥の下から娘を助け出し、抱きかかえて炎の中を突き進み、外に出た。

自分は母親の分身だと疑わないルミ子。彼女は清佳を愛していないわけではないようですが、迷わず母を救おうとした行動にゾッっとしてしまいます。

田所家での地獄のような生活

母が亡くなったあと、とても住めるような状態ではない家をあとにして、ルミ子たち家族は夫・田所哲史の実家に身を寄せることになった。

田所の実家は片田舎にある大地主で、そこそこ裕福ではあったが、姑をはじめとする家族は底意地の悪い人ばかりだった。

プライドが高く、見栄っ張りで、都合の悪いことは全部ルミ子のせいにした。

田舎の農家のため封建制度も根強く残っており、ルミ子の立場は家の中で最下層

使用人のようにこき使われ、一緒に住む哲史の妹・ 律子はろくに家事も手伝おうとせず、姉の 憲子は、暴れん坊の息子・ 英紀をルミ子に押し付ける始末。

ルリ子が 二人目を妊娠中にも、憲子たちは英紀と散歩にいかせ、そのせいでルミ子は流産。

こんなときでさえ、田所家の人々は謝ることもせず、責任転嫁をした。

そんなルミ子を見て「愛されるためには相手が喜ぶ言葉を選び、行動しなければならない」と教えられて育った娘の清佳は、母親を必死に擁護した。

しかし、ルミ子は「娘が義母に口ごたえするせいで、私が義母に叱られるではないか」と疎ましく思うのだった。

この頃、ルミ子が書いた手記には出てきませんが、清佳はルミ子に殴られ虐待されていました。ルミ子は都合の悪いことは、忘れてしまっている?。「ただ母に優しく触れてもらいたい」「母に嫌われる自分が嫌いだった。」清佳からルミ子への一方通行の愛には胸が締め付けられます。

真実

その日、清佳は父・哲史が、父の同級生でもあり母と同じ絵画教室に通っていた 佐々木仁美不倫していることを知った。

奴隷のようにこき使われる母を庇いもせず、残業と嘘をついて女と会っていた父を、清佳は許せなかった。

「田んぼとおばあちゃんの世話をさせるためでしょう。都合よくただ働きさせて、自分はよその女といちゃいちゃするなんて、人間のクズだ。それなら、離婚して、ママをあの家から解放してあげてよ」

そんな清佳に、不倫相手の仁美は、唐突にこんなことを言った。

「あなたが今ここにいるのは、おばあさんのおかげなのに、どうしてそんな恐ろしいことを言えるの」

実は11年前のあの土砂崩れの日、 祖母はルミ子に清佳を助けさせるために舌を噛んで命を絶ったのだった。

「お母さんは大切な母親が死んでしまったことよりも、母親があなたを守ったことが許せなかったんじゃないかしら。だって、愛する人が最期に選んだのは、自分ではないということを目の前で突き付けられたんだから。あなたもお母さんに好かれるのを諦めたらラクになれるのに。お母さんに自分の存在を認めさせようとするばかりに、お母さんを傷つけることばかり引きおこしてしまうんだから、皮肉なものね。」

真実を知らされた清佳は、とっさに仁美の頭にワインボトルを振り下ろすと、母のいる自宅に戻った。

泣きはらした顔をした清佳を見て、 ルミ子は手を伸ばした。

一瞬、抱きしめられると思った清佳だったが、首に強い圧力を感じた。

母になら殺されてもいいと思う清佳だったが、そうなると母は犯罪者になってしまう。

そう思った清佳は、母を強く突き飛ばした。

そして、首に母の手の跡が残っていることを確認すると、ロープで首を吊った。

ルミ子の手記には、清佳の首を絞めたことも触れられていません。母を犯罪者にしないため、指の跡を隠すため首つりをするなんて。母から娘への呪縛が3世代に渡って続く哀しさ。

結末

もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、冒頭の新聞記事の飛び降り自殺した女子高生は、清佳ではありません。しかし、その記事について話していた 女性教師が清佳なのです。

清佳は生きていた。

さらにお腹には、同級生だった 中谷亨との間に出来た、小さな命がいる。

だから、清佳は新聞記事にあった自殺した生徒の母親とルミ子を重ね「愛能う限り、大切に育ててきた娘が」と言った言葉に、引っかかりを覚えたのだった。

ちなみに、中谷亨は、清佳と高1のときから付き合っている男性。清佳いきつけのたこ焼きが売りの 『りっちゃん』の店主は、哲史の妹・律子。アルバイトとして働いているのは、憲子の息子・英紀です。結末と冒頭がこんなところで結びつきます。

その後、不倫していた哲史はルミ子の元に戻り、あんなにイビッっていた姑は、律子が出ていってから痴ほう症が進行し、ルミ子に頼りっきりだった。

清佳は、子どもができたことをルミ子に伝えると、「おばあちゃんが喜んでくれるわ」と嬉しそうに話した。

そんな母を見て清佳は、 わたしは子どもに、わたしが母に望んでいたことをしてやりたい。と思うのだった。ーENDー

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『母性』感想

『母性』は本当に二度と読み返したくない本の一つです。

残酷な描写や殺人鬼が登場するわけでもないのに、背中を這い上がってくるようにゾワーッとした湿度の高い気持ち悪さがあります。

ルミ子は偏愛ともいえる気持ちを母親に抱いています。いつまで経っても「母」になれず「母親に愛される娘」でありたいと願う。

ルミ子が歪んでいるのはもちろんですが、「無償の愛」を与え続けた母親にも罪があると思います。

大人になった娘に世話を焼きすぎ、子どもの頃と同じように頭を撫でて褒め、「愛能う限り」と愛情を注ぎ続ける。

娘の前で娘の婚約者と、リルケの詩を暗唱し合うのも、違和感ありすぎですね。

この母親からの いびつな愛は、ルミ子→清佳→生まれてくる子どもにまで引き継がれていきます。

幼少期なら愛情深い母に見えたでしょうけど、ある程度成長すれば、母親が娘の自立を促すのも愛ではないのでしょうか。

どこかで娘は娘、自分は自分、と一線を引くことができたら、この不幸な連鎖は断ち切れたのに…。

ルミ子のように母に依存したり、清佳のように母親に愛されたいと思うけどうまくいかない娘って、周囲にけっこういます。

「母と関係が悪かったため、子どもは産まない」という女性もいるほどです。

最近では、“毒母”や“鬼母”という言葉も聞かれ、母と娘の特殊な関係にスポットをあてた特集記事も雑誌などでよく目にするようになりました。

昔は「母が子どもを憎んだり妬んだりするわけがない」「娘の幸せ=母の幸せ」「子どもが生まれたら母性も生まれる」と当たり前のように思われていたことが、必ずしも当てはまらない現実があります。

そんな母と娘のこじれた関係を、湊さんらく、嫌らしく気持ち悪い(褒めてます)視点で描いたのが『母性』。

母との関係に悩む方なら、ズドンと胸に爆弾を落とされたかのように感じるのではないでしょうか。

親子関係は、良くも悪くも、その後の人生に大きな影響を及ぼしてしまう…そんな恐ろしさを感じずにはいられない作品でした。

『母性』映画化決定

湊かなえさん著の『母性』は、『ヴァイブレータ』『ノイズ』で知られる廣木隆一監督によって、戸田恵梨香さん主演で映画化されます。

公開は2022年秋。お楽しみに。

映画『母性』キャスト・相関図は⇒こちら


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