『地面師たち』ネタバレ!あらすじ~結末を相関図つきで解説

他人の土地を自分の土地のように装い、大金をだまし取る詐欺師集団の巧妙な手口と裏の顔を暴いた小説『地面師たち』。今回は実際にあった事件を、驚愕のエンタメ作品に仕上げた『地面師たち』のあらすじ~結末をご紹介いたします。
『地面師たち』登場人物
◆登場人物
◆辻本拓海・・・父が起こした火事で妻子を失った経験から若くして白髪となる。風俗店のドライバー時代にハリソン山中と出会い、地面師の仕事を手伝うように。
◆ハリソン山中・・・大物地面師にして、詐欺グループの首謀者。元暴力団員で東大中退。高い知能と不動産取引や法律の豊富な知識を持つ。
◆後藤・・・以前はまじめな司法書士だったが、いまは地面師グループの一人となる。関西出身でしゃべりが達者。
◆竹下・・・地面師グループの図面師。土地の所有者などの情報を集め山中に提供する。詐欺の稼業の他に、宗教法人を経営。薬物中毒。
◆麗子・・・元デートクラブマネージャーの人脈を生かし、手配師として土地の所有者である「なりすまし役」を用意する。
◆辰・・・定年が迫る刑事。長年、ハリソン山中逮捕への執念を燃やしている。
◆青柳・・・大手ハウスメーカー役員。社長になるという野望を持つ。プロジェクト頓挫の危機のため早急に開発用地が必要となる。
◆川井菜摘・・・尼僧。泉岳寺に市場評価額一〇〇億円の広大な土地を所有する。夫が女と駆け落ちしてから、劇団主催者と不倫中。
◆辻本正海・・・拓海の父。自宅に放火し同居する妻と息子の妻子を殺害した罪で千葉刑務所で服役中。
◆相関図
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『地面師たち』あらすじ
かつてある事件で妻と子どもを亡くした辻本拓海は、風俗店のドライバーをしていた頃に大物地面師・ハリソン山中と出会い、彼のもとで不動産詐欺の片棒を担ぐようになる。
ハリソン一味の地面師詐欺グループは、元司法書士の後藤、土地の所有者などの情報を集める竹下、土地所有者の「なりすまし役」を手配する麗子の五人で構成されている。
彼らは、都心の一等地にある物件の持ち主・島崎になりすまし、マイクホームから7億円をだまし取った。
しばらくして再集結したハリソン一味が、次に狙いをつけたのが泉岳寺駅至近にある駐車場付きで、かつて元更生保護施設だった広大な土地。
この土地は尼僧が所有する市場価格100億円という前代未聞の案件だった。
一方、定年間近の捜査二課の刑事・辰は、かつて逮捕に至ったものの不起訴に終わったハリソン山中を独自に追っていた。
地道な捜査を続ける辰は、辻本拓海の存在を突き止め、彼の父が自宅に放火し同居する妻と息子の妻子を殺害した罪で千葉刑務所で服役中であることを知る。
そして辰は、地面師の世界に足を踏み入れた拓海に、父が起こした事件のついての衝撃の事実を知らせる。
それぞれの思惑が交錯した時、待ちうけていた結末とは――。
『地面師たち』ネタバレ
◆拓海の父が起こした事故
拓海の父・辻本正海はかつて医療機器を扱う会社を経営していましたが、医師に扮したブローカ―に騙され会社を倒産させてしまいました。
多額の借金を抱え、会社を潰した責任を感じた正海は、家族を楽にしてやろうと同居する妻と息子の妻子がいる家に放火し殺害。
現在 父は千葉刑務所で服役中ですが、拓海は面会はおろか手紙の返事を出したことがありません。
事件後、拓海は現実におしつぶされそうになりながらも、なんとかデリヘルのドライバーの仕事をしていました。
そんなか、客として利用して店を利用していたハリソン山中と出会い、彼に認められ地面師となった拓海。
しかし、父が起こした事件にはまだ驚愕の真実が隠されていました。
◆前代未聞の不動産詐欺
尼僧が所有する市場価格100億円という前代未聞の土地をエサに、用意周到に準備を進めるハリソン一味。
それに、大手不動産会社「石洋ハウス」の責任者で常務の青柳が食いつきました。
青柳は、時期社長の座を狙っていましたが、プロジェクトのための土地が用意できなくなり社内での立場が危うくなっていました。
なんとしてでも土地を手に入れたい青柳は、本来であれば怪しむような行為も見逃してしまいます。
地面師グループは、本物の土地所有者である川井菜摘を愛人と一緒に沖縄に行くように仕向け、スキンヘッドにさせた偽者の女性を用意しました。
しかし、女性が急に「なりすまし」が出来ないと言い出し、仕方なく手配師の麗子が尼僧に化けて取引きを行うことに。
そして地面師グループと石洋ハウスの時がやってきます。
地面師たちは、所有者の川井は今の土地を売って劇場を建設したいと嘘を言い、完成イメージのラフスケッチまで用意していました。
青柳は、川井に扮した麗子を少し疑うそぶりを見せましたが、ライバルがいると決定を急がされ、結局は100億円を振り込んでしまいました。
後日、地面師詐欺に引っかかったと知った青柳は、上層部から責められ社長になることはおろか、会社にいることさえ難しくなりました。
◆もう一つの真実
辻本拓海は、石洋ハウスとの交渉の合間に墓参りをしました。
すると そこに刑事の辰が現れ、拓海の父親をかつてダマしたのはハリソン山中とその仲間であることを明かしました。
さらに、図面師の遺品のなかにハリソンと竹中、そしてかつて自分と父を嵌めた男性が写った写真を見つけます。
何も知らず、自分の家族を地獄に落とした張本人と一緒に仕事をしていた拓海は、その事実に苦しみます。
石洋ハウスの取引成功後、拓海はハリソンを呼び出し、ナイフで刺そうとしますが彼は防刃チヨッキを着用していたため無事でした。
そしてハリソンは、携帯電話型の拳銃で拓海を撃ち逃走。
刑事の辰が追いかけますが、彼は海外で逃走してしまいました。
◆結末
拓海は腹を撃たれたもの、一命はとりとめ、辰がみる限り、彼は前よりも穏やかな表情に変わっていました。
場面はかわって、ハリソンは現在シンガポールに潜伏していました。
シンガポールは贈与税や相続税がかからないうえ、10年以上住めば海外の資産とされ資産への課税が免れます。
そんな法の穴を利用して、ここには裕福な日本人が集まっています。
ハリソンはそのなかで資産家の男性に目をつけます。
そして、警戒心をとくように邪気のない笑みで近づくのでした。-END-
『地面師たち』感想
『地面師たち』は、2017年に積水ハウスが地面師グループに55億5千万円を騙し取られた事件を基に描かれています。
当時、私も報道でこの事件は知っていましたが、大手不動産専業の積水ハウスがこんな古典的な詐欺に引っかかるなんて…と不思議に思っていました。
しかし、この本を読んで条件が揃えば、騙されることも有り得るかもしれないと感じました。
リーダー、図面師、司法書士、売主代理人、手配師、なりすまし役…詐欺師集団のメンバーは明確に役割分担され、まるで会社のようです。
仮に事件化されても、底辺の使い捨てが逮捕されるだけで、顔と名前が割れていない主犯格はうまく身を潜め次の獲物を探します。
この犯罪の形式は、今でいう振り込め詐欺にも似ていて、黒川博行さんによる小説『勁草』でも詳しく描かれています。
地面師グループのなかでもリーダーのハリソン山中という人物は、物腰も柔らかく上品なジェントルマン。
東大中退経験ということもあり、とても詐欺を行うようには見えません。
しかし彼に裏の顔はとてもサディスティックで、自分に必要がなくなれば無慈悲に命を奪います。
その方法も実に狡猾で、自分では決して手を汚さず もがき苦しむ人間をみてあざ笑う悪魔のような男。
キャラクターで言うと、レクター博士に少し似ているかもしれません。
そんなマゾヒズムの塊のようなハリソンを追うのが、刑事の辰です。
辰は以前ハリソンを逮捕しますが、不起訴のため彼をまた世に放ってしまった苦い経験を持っています。
辰は地道な捜査のなか、ハリソンの手伝いをする地面師・辻本拓海と出会います。
彼のキャラクターも魅力的で、父に母と妻子を殺害されるという悲しい過去を持っています。
拓海は若くして白髪となり無気力な生活を送っていましたが、ハリソンと出会ったことで、「生きる」実感を少しづつ持てるようになっていくのですが…。
彼を待ち受けるのは、過去から自由になるのではなく、結局はハリソンに二重に騙され、過去に縛られたままだったという残酷な真実。
詐欺師たちの鮮やかな手口もさることながら、登場人物たちの人間ドラマも見どころで、スリリングな展開に釘付けの作品でした。
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