『鵜頭川村事件』ネタバレ!あらすじ~結末までを相関図付きで考察

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災害によって孤立した村で起こる集団ヒステリーをスリリングに描いた人気作家・櫛木理宇さんによる小説『鵜頭村事件』のあらすじから結末を相関図付きで解説いたします。

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『鵜頭川村事件』あらすじ

昭和54年。亡き妻・節子の墓参りとして岩村明と娘の愛子は、3年ぶりに妻の故郷・鵜頭川村を訪れた。

しかし運悪いことに、到着した日から鵜頭川村地域一帯が豪雨に見舞われ、山間の小さな村は土砂崩れで孤立。

岩村親子も節子の伯父にあたる矢萩元市の自宅に、しばらく足止めを食らうことになった。

そんななか、降谷敬一という若者の死体が発見される。

岩森と村の医者吉見はすぐに敬一の様子を見に駆けつけるが、遺体には無数の刺し傷があり、大雨のため犯人の手がかりは全く見つからない状況だった。

一方、岩村は顔見知りの青年・降谷辰樹が、村で絶対的権力を握る矢萩一族の会社で、奴隷のように働かされていることを知る。

外部との連絡が絶たれた村では、次第に食料や物資は不足していき、村の勢力図は一変。

矢萩一族の言いなりになる大人たちの影で、若者たちは自警団なるものを結成するが、やがて彼らは行き過ぎた制裁を行っていく。

降りしきる雨の中、岩村と幼い娘・愛子は暴動と狂気に満ちた村から脱出できるのか。

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『鵜頭川村事件』相関図

鵜頭川村は人口約900人、世帯数250~300戸ほどの、矢萩姓と降谷姓がほとんどを占める小さな村で、ほとんどが親戚関か顔見知りです。

また、苗字が同じ登場人物が多いので、非常にややこしいです。

先に言っておくと、この人物関係が事件の真相を知るうえで重要になってきますので、相関図で確認しておいてください。

相関図

村の補足

鵜頭川村の住人のうち約1割が矢萩姓、約4割が降谷姓、その他が5割となっています。

「矢萩」姓・・・「矢萩工業」を主体とする村の権力者一族。
「降谷」姓・・・古くから商店や農業を営む一族。矢萩一族には頭が上がらない。

矢萩一族は農地を手離し、それを売却した金で建設会社を立ち上げ、多くの公共事業で業績をあげてきました。

その「矢萩工業」では、多くの村民が働き、矢萩家は直接の雇用主として君臨しています。

また矢萩は、村の道路拡張工事の計画を推し進めているのですが、反対している村民も多くおり、この豪雨災害を機に一気に対立関係が悪化していきます。

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『鵜頭川村事件』結末までをネタバレ

有力な容疑者

まず降谷敬一の殺害事件の容疑者として名前が挙がったのは、「矢萩工業」社長の愛息・ 矢萩大助

普段から粗暴で、これまでにも傷害事件や強姦未遂を起こしてきたトラブルメーカー。

村人のだれもが大助が犯人だと思っていますが、社長の息子という手前、大っぴらにその名前を出すことはできません。

警察も駆けつけられない孤立した村で、殺人犯(大助)がのうのうと生活してる状況に、住民の間では不安が募っていきました。

(同調圧力、村カーストおそるべし。)

「自警団」結成

そんななか立ち上がったのが、若者の憧れでリーダー的な存在の降谷辰樹

辰樹は、自分たちの手で村を守ろうと「自警団」を結成し、幹部に同級生の白鳥和巳西尾健治を指名しました。

実は辰樹は、かつて村一番の優等生で、高校失業後は東京の大学に進学する予定でした。

しかし、不幸にも兄が亡くなり跡取りとして村に残ることとなり、現在は矢萩工業の社員として矢萩家の女衆にもこき使われる鬱屈した日々を送っていました。

かつて爽やかな好青年だった辰樹でしたが、現在はは剣のある表情をし、危うい雰囲気をまとっています。

さらに、親友だったタバコ屋の長男・降谷敦人が自分のかわりに推薦を受けて進学したことも、彼を不安定にさせていました。

敦人の弟である 降谷湊人は、変わってしまった辰樹から距離をとるようになっていきました。

村の勢力図の変化

土砂崩れにより道が閉ざされ、物資が不足してきたことを境に村での力関係に変化が出てきます。

矢萩家は、商店や農家を営む降谷家から食料や日用品を購入しようとしますが、普段の鬱憤から降谷たちは売り渋るようになっていきます。

矢萩がいくら金を持っていても、この非常事態では紙切れ同然で、大助を無罪放免にしたこともあって矢萩家はそっぽを向かれてしまいました。

暴動発生

学生運動の本を読み強い影響を受けた辰樹は、持ち前のカリスマ性で若者たちを煽り、洗脳していきました。

そして事態は、矢萩を狩る=矢萩家を襲撃するところまで進行します。

自警団の若者は、酒を煽り「革命だ!闘争だ!」と叫びながら、矢萩の男たちを襲っていきました。

しかし、若者たちの狂気は次第にエスカレートし、「自分たちの手で村を守る」という大義名分を忘れ、姓の区別なく商店を襲撃し、略奪、自分の親にまで暴力を振るうようになっていきました。

これが後に「鵜頭川村事件」と呼ばれる村の内乱です。

逃げまどう岩村と愛子

村で死人も出るなか、部外者とはいえ矢萩一族の親戚筋にあたる岩村と娘の愛子は、亡妻・節子の親友である矢萩有美の計らいで、治外法権ともいえるピアノ講師・ 田所エツ子の家に匿ってもらえることになりました。

そこには、大人の事情など関係なく親友の 降谷港人矢萩廉太郎も逃げ込んでいました。

しかし、降谷から矢萩に嫁いだ矢萩有美(矢萩と降谷どちらからも嫌がらせを受けている)のことが心配になった岩村と湊人は、彼女を救うため鵜頭川村に引き返すことにした。

有美は、義理父・ 矢萩元市や自警団に襲われそうになったものの、夫・隆也の反撃もあってなんと無事でした。

しかし、そこで矢萩廉太郎を逃がした裏切者として湊人は、自警団に連れ去られてしまいました。

狂喜乱舞する若者たちのなかで、辰樹は冷めた目でかつての親友の弟・港人をひざまずかせました。

この時点で、辰樹の父が溺愛する10歳以上年下の叔父・降谷直樹も殺されてしまいました。

港人が手をかけられるのも時間の問題です。

真犯人

「もう、これまでか…」と港人が覚悟した瞬間、「降谷敬一を殺した犯人を引き渡す!」と岩村が車から降りてきました。

事件の発端である敬一殺しの犯人は、大助ではなく自警団NO.2の西尾健治でした。

なぜ幼なじみで親友であり、敬一が亡くなったときも涙を流した西尾が犯人なのでしょうか?

それは、村の忌まわしい血脈に動機がありました。

実は、西尾と敬一は異母兄弟でした。

女グセの悪い西尾の父は、未亡人だった降谷邦枝に手を出し敬一を産ませていたのです。

何もしらない西尾は、幼い頃から邦枝が営む託児所に預けられ、敬一と兄弟同然に育ったのです。(本当の兄弟だったのが皮肉ですね…)

しかし、西尾が敬一を殺害することになった本当の動機は、敬一が認知されることになったからでした。

もし、敬一が認知されたならば、西尾の母はたいそう悲しむでしょうし、相続にも関わってきます。

さらに、狭い田舎の村。いらぬ噂や中傷もされることでしょう。

西尾は、敬一のことを憎んではいませんでしたが、母のため、父への復讐のため敬一を殺すという苦渋の決断を下したのです。

結末

真犯人があろうことか、自警団の幹部・西尾だったという現実。

若者たちは今は熱狂し、狂ったように暴れていますが、世が明けて警察が到着すれば制圧されるでしょう。

岩村は辰樹に「もう終わりにしよう。」と諭しますが、それでも辰樹は愛子を人質にして逃げようとします。

それを見た岩村は、亡き妻の忘れ形見である愛子を守るため、辰樹に立ち向かい、壮絶な決闘の末に勝利します。

このとき、港人が「愛子ちゃんが見ている。」と叫ばなければ、岩村は辰樹を殺していたかもしれません。

岩村は、自分のなかにも若者たちと同じように狂気を秘めていることに気づくのでした。

辰樹の告白

辰樹がこれほどまでに、村を恨むことには理由がありました。

実は辰樹にも、西尾と同じように異母兄弟がいました。

それは白鳥和巳降谷直樹です。

和巳は辰樹と和巳の母との間に生まれた不義の子。

戸籍上は叔父となっている直樹は、辰樹の父親がよその女に産ませた異母兄だったのです。

そして、西尾の父に女遊びを教えたのも辰樹の父親でした。

うす汚い大人たちの欲望によって生み出された子どもたち…。

こんな悪習が許される村を、出て行くはずだった辰樹でしたが、それも兄の死によって絶たれてしまいます。

親友の敦人は東京に行ってしまい、心の均衡がとれなくなった辰樹は、次第に憎悪を募らせていったのです。

最後に辰樹は、ジーパンから、敦人が東京から送ってくれた「スターウォーズ」のキーホルダーを外しました。

それを港人に渡した辰樹は「手紙の返事を書けなくてすまん。と謝っといてくれ」とほほ笑むのでした。-END-

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『鵜頭川村事件』感想

排他的な村、支配する一族、絶対的な家父長制、奇妙な村の因習、血の忌まわしさ…田舎特有の「負」と思われる部分を暴き出した『鵜頭川村事件』は、横溝正史さんの「金田一耕助」シリーズを彷彿とさせます。

最近、話題になった土着的サスペンス『ガンニバル』『ノイズ』、小野不由美さんの『屍鬼』、連合赤軍、学生運動にインスピレーションを受けた『ビリーバーズ』など湿度高めの作品が好きな方にもオススメ。

トリックや犯人捜しなどミステリー要素もありますが、どちらかといえば集団心理や人間の狂気が主に描かれています。

作品のモデルは存在しないようですが、エイキチに関しては「津山30人殺し」の禍々しさを感じました。

特に女性の目線から言わせてもらうと、男に絶対服従、嫁いびり、家や親のしがらみ、浮気には目をつぶれ…など、嫌悪感だらけでした。

特に義理父から襲われそうになる有美さんを、ここまで放っておいた夫の隆也には反吐が出そうになりました。

有美さんも子どももいないことだし、こんな家早く出ていけばよいのにとは思うのですが、自分の実家のこともあるから、すぐに離婚も出来ないし、家出もできないのでしょう。

まさに生き地獄。

ありきたりな感想になりますが、結局は人間が一番恐いということです。

被害者といえば、節操無しの男たちの犠牲となり、集団ヒステリーを起こしてしまった若者たちが実に哀れで、これを機に村の風通しが良くばれば良いな~と節に思います。

また、壮絶な体験をした愛子の中にエイキチが育っていないことを願うばかりです。

最後に、岩村が重いのにやっとこさ持ってきたショルダーホンに、もっと活躍の場を与えて欲しかったwww。


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