松本清張『天城越え』あらすじ~結末・犯人をネタバレ

●記事内にPRを含む

松本清張の短編小説「黒い画集」に収録されている『天城越え』は、少年と娼婦が天城峠を旅しているときに起きた殺人事件と、それを追い続けた刑事の姿を描いた旅情溢れる推理サスペンスです。今回は『天城越え』のあらすじから結末をネタバレしていきます。

-Sponsored Link-

『天城越え』あらすじ

伊豆半島 下田にある鍛冶屋の三男坊である16歳の少年は、母親の小言と稼業に飽き飽きして、兄を頼って静岡に行くことにした。

一人 下田を出て天城トンネルを抜けた少年は、はじめて見る風景に「他国」を感じて恐怖を覚えた。

少年は途中に出会った呉服屋と共に湯ヶ島まで来たときに、一目で流れ者と分かる土工とすれ違った。

呉服屋から あのような男は悪いことをするから気をつけろと忠告された少年は、金も底をついてきたことから益々不安になり、下田に引き返す決心をした。

そんななか修善寺の方角から、派手な着物を着て裸足で歩くひとりの女が見えた。

心細かった少年は、女の後ろをついて歩いていたが、「下田までいっしょに行きましょうね」と話しかけられ、顔が赤くなり嬉しくなった。

しばらく歩くと あの流しの土工がおり、少年は女を守りながら追い抜こうとするが、女は「あのひとにぜひ話があるんでね、悪いけれど、あんた、先に行って頂戴」と言った。

少年はうなずいたものの内心はがっかりした。

しかし、後から女があとから追いつくと言った言葉を信じて、なるべくゆっくり歩いたが、ついに女が来ることがなかった

それから三十年後ー

あのときの少年は、静岡県西部の中都市で印刷業を営んでいた。

ある日、静岡県警察本部のある課から「刑事捜査参考資料」という本の印刷を頼まれたところ、天城越えのときに遭遇した土工と、、そして自分のことが書かれた「天城山の土工殺し事件」の文章を見つける。

-Sponsored Link-

『天城越え』登場人物

登場人物

少年・・・鍛冶屋の倅。16歳。
大塚ハナ・・・伊豆の修善寺から足抜き逃走した酌婦。
土工風の男・・・身元不明の流しの男。天城山で何者かに命と50銭の銀貨2枚を奪われる。
山田・・・警部補。天城山の土工殺しの捜査を行う。
田島・・・刑事。天城山の土工殺しの捜査を行う。

-Sponsored Link-

『天城越え』結末までをネタバレ

【事件概要】被害者の土工は頭部や顔などに鋭利な刃物による複数の創傷があり、裸のまま川で発見された。
目撃者の情報から、飲食店で女中奉公していた大塚ハナが逮捕され、取り調べたところ男と行為を行い50銭銀貨2枚を奪ったことを認めた。
普段から粗暴な行為が目立っていたハナを警察はさらに厳しく追及し、とうとう彼女は大工殺害を自供した。
しかし 裁判でハナは自供をひるがえして犯行を否定し、決め手になる決定的証拠もなかったため無罪となった。

五日後ー

資料の印刷を注文した警察本部嘱託の田島という老人がやって来た。

田島は、新米刑事のときに「天城山の土工殺し事件」の捜査に関わったが、頭から大塚ハナという女が犯人だと決めつけ、凶器をすぐに捜索しなかったことを悔やんでいた。

犯人が凶行のあとに一晩過ごした 近くの氷や雪を貯蔵する氷倉に残されていた足跡が女性のサイズだったが、それはハナではなく少年のものではないかと推測していた。

ハナは酷い冷え性で、とても氷倉で一晩を越すことは出来なかったのだ。

一方 少年は、あの日 天城峠でハナと別れたあと峠を下ったと証言したが帰宅したのは翌日の午後だったことから、氷倉で一晩過ごしたと田島は後から気づいた。

警察は、16歳の少年に一応は事情を聞いたにも関わらず、子供だから事件には無関係だと思いこんでしまったのだ。

その話を聞いた当時 少年だった男は、唇が白くなりながらも、現在の少年の様子を尋ねた。

田島は、少年は30年も前に下田を離れていると答え、見つかってもとっくに時効を迎えているからどうすることもできないと話して帰っていった。

男は、二階の部屋の椅子に座ってあの事件の日を思い出した。

あの日、少年はきれいな女が土工に話しかけたことが不安になり、道を引き返して女に再び会いにいった。

しかし藪のなかで女は土工と交わり、そのあと銀貨2枚をポケットから奪いとって去っていった。

少年はのろのろ歩き出した土工を追いかけ、持っていた”切出し”で斬りつけ、土工は林の斜面を転がっていった。

その後、少年はまだどこかに金があるのではと思って、彼が脱い服をめちゃくちゃに切り裂いたが何も出てこなかった。

少年は証拠隠滅のため、再び土工の背中を突き刺して凶器の”切出し”と共に川に投げ捨てた。

動機は「 自分の女が土工に奪われたような気になったから」だった。

田島刑事は、自分があのときの少年であることを知っている。

男は、犯行の時効は成立しているが、いま受けた衝撃は時効がないまま続くだろうと思うのだった。

-Sponsored Link-

『天城越え』感想

松本清張の『天城越え』は、30年前の少年の短い思い出が一生続く忘れることのない出来事に変わる、少し変わった叙情ミステリーです。

短編ながらも、当時の貧しい人々の生活や思春期の淡い恋心、旅愁などが描かれ、ミステリーとしてはもちろん人間ドラマとしても良く出来た作品となっています。

大切な人が汚されることを許せず、衝動を抑えることができない…。

あどけない少年が、淡い恋心を抱いた女と汚れた男の関係を見てしまったことで男をむき出しにして犯行におよぶ回想には圧倒されました。

母性と色気を兼ね備えたハナという女性も魅力的です。

また証拠もないのに犯人を決めつけ、強引な手法で自供させる警察には昭和を感じますね。

ちなみに1998年にドラマ化された作品では、原作にはない少年と女の再会が追加されています。

刑事から女が死刑を免れ生きていると知った男(少年)は、冬の能登半島で海産物を売って生計をたてる老婆(女)に会いにいきます。

二人は金の受け渡しで手が触れ合うが、老婆はあのときの少年だと分かったどうかは不明のまま。

バスに揺られ帰る男は、トンネルを出たところで艶やかな着物をきて手を降る女の幻影を見て、涙するというシーンで終わります。

少年は若かりし二宮和也さんが演じ、女は田中美佐子さん、男は長塚京三さんが演じています。

昭和に生きる人々を情感たっぷりに描いた『天城越え』は、2025年にもNHKで生田絵梨花さん主演でドラマ化が決定しており、そちらのストーリーにも注目したいですね。

松本清張『ガラスの城』あらすじ~結末は⇒こちら

松本清張ドラマ『砂の器』あらすじ~結末・相関図は⇒こちら


-Sponsored Link-

  1. この記事へのコメントはありません。