『本心』ネタバレ!あらすじ~結末・感想を相関図付きで簡単に

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小説『本心』は、母を亡くした悲しみを癒すため、母のVF(バーチャルフィギュア)作成を依頼した息子が、生前「もう十分」と自由死を望んだ母の本心を探ろうとする心の旅を描いた作品です。今回は平野啓一郎さんによる『本心』のあらすじ~結末と感想をご紹介します。

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『本心』あらすじ

今から四半世紀後の日本ーー

「自由死」を望みながらも、不慮の事故で亡くなったへの喪失感や悲しみを埋めるため、息子の朔也は母を、AI/VR技術で再生させた。

そして朔也は、生前の母の情報をVF(ヴァーチャル・フィギュア)に学習させるため、母の友人だった女性、かつて交際関係のあった老作家と対面し、意外な母の一面を知ることになる。

バブル崩壊後の就職氷河期ともいえる厳しい時代にシングルマザーとして生きてきた母が、生涯をかけて隠し続けた事実は何だったのか。

「自由死」を願い続けた母の「本心」とはーー。

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『本心』登場人物

登場人物

石川朔也・・・29歳。個人事業主して依頼者に身体を貸す“リアルアバター”という仕事をしている。母を半年前に亡くし、その喪失感から母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)作成を依頼する。
・・・朔也の母。生前“自由死”を望んでいたが、それを実行する前に不慮の事故で亡くなる。
野崎・・・ヴァーチャルフィギィアを製作する株式会社フィディテクスのスタッフ。
岸谷・・・朔也と同じくリアルアバターの職に就く同僚。裏の仕事を請け負うようになり失踪する。
三好彩花・・母の最後の仕事の同僚で友人。アバターを好む。
藤原亮治・・・朔也の母の愛読書『波濤』の作者。現在は老人施設に入っている。76歳。
富田医師・・・母のかかりつけの病院の医で自由死の認定医師。
鈴木流以(イフィー)・・・19歳の富裕者で、車いす生活の青年。<あの時、もし飛べたなら>の中の人。
ティリ・・・日本生まれのミャンマー人。コンビニのバイト中にヘイトに遭い、朔也に助けられる。

相関図

※無断転載ご遠慮ください

◆以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

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『本心』の結末をネタバレ

富裕者イフィーとの出会い

ある日、朔也はリアル・アバターの仕事中に、コンビニのアルバイト店員でミャンマー人のティリを助けましたが、そのときの一部始終を撮影した動画が瞬く間にネットに拡散します。

そしてその動画は、アバター・デザイナーのイフィー(本名:鈴木流以)の目に留まります。

若いながら年収5億円とも噂されるイフィーは、朔也にこれまでの倍の報酬を払うことを条件に専属のリアル・アバターになって欲しいと依頼してきました。

以前からイフィーの大ファンだった三好彩花は、朔也の新しい仕事を応援します。

イフィーとの出会いで人間的に成長する朔也でしたが、ある日イフィーから三好彩花に想いを告白しても良いか聞かれます。

三好は母の友人であり、現在ルームシェアをしていますが、朔也は正直 三好に惹かれていました。

しかし朔也は、最初に同居人として三好に誓いを立てたこと、そして大切な友人・イフィーを失いたくない気持ちから、イフィに告白するように促しました。

朔也の出生の秘密

そんななか朔也は、母が愛読していた小説の作者・藤原亮治と会うことになりました。

三好によると母と藤原は、過去に交際していたようなのです。

「もしかしたら、自分は藤原の息子ではないのか」と思う朔也でしたが、実際は違いました。

母は震災ボランティアで知り合った女性と親しくなり(恋愛感情はない)、二人で子どもを育てたいと考えるようになりました。

そして、第三者の男性から精子提供を受け、母は妊娠しますが、パートナーの女性は怖くなったのか逃げてしまいました。

もう堕胎できない時期にきていた母は、朔也を産み、一人で育ててきたのでした。

母が自由死を選んだわけ

最愛の母がなぜ一人息子を残して「自由死」を選ぼうとしたのかー。

僕は、母が今も生きているのと同様に、いつでもその反論を持ちながら、問い続けるより他はないのだった。わからないからこそ、わかろうとし続けるのであり、その限りに於いて、母は僕の中に存在し続けるだろう。

朔也は三好や藤原に生前の母の話を聞きますが、結局のところ100%母の「本心」を理解することは不可能だと気づきます。

「本心」なんて自分にだって分からない、だから他人になんて分かるはずがない。

それでも母のことを理解しようとする朔也は「最愛の人の他者性=他者であってもそこに愛はあるんだ」という結論にいきつきました。

結末

朔也の後押しもあり、イフィーと三好は交際することになりました。

同居する家から荷物を運び出す三好に寂しさを覚える朔也でしたが、一方で彼らの出会いにより母のVFと会話する事が減っていることに気づきます。

それから、朔也はミャンマー人のティリと会い、日本語が不十分な彼女を良い日本語学校に通えるように手配しします。

そして自らも、社会の格差に困っている人の力になれるような仕事に就きたいと考えるのでした。

『本心』感想

母が「自由死」を選んだ理由を探すため、担当医、友人、母と深い関係にあった男性の話を聞くうちに、自分の知らなかった母の一面を知っていく朔也。

そして、朔也は三好への恋心、同僚岸谷の逮捕、アバターデザイナーのイフィーの出会いにより、これから自分がどう生きていくかを模索していきます。

物語の途中には、森鴎外の高瀬舟の戯曲、ソクラテスの逸話、時間間隔を再認識する「縁起」というアプリが登場し、本書のテーマである「最愛の人の他者性」について補足していきます。

私が一番印象に残ったのは、車いすの富裕者イフィーでした。

四半世紀あとの日本は今よりも格差が広がり、「うまくいっている世界と、いっていない世界」とに分断されています。

そのため、うまくいっていない世界の貧困者や弱者は、仮想現実のなかに居場所を求めるようになっていきます。

イフィーは、お金持ちで「うまくいっている世界」の住人ですが、体が不自由なためヴァーチャルな世界に安らぎを感じています。

福祉が充実してきたといっても、現代はどうしても健常者中心の社会なので、体に障害がある人にとって普通に生活することは容易ではありません。

障害者だけでなく、未来の日本は今よりもっと高齢化が進み、格差は広がり、死ぬまで働かなくてはならない人が増えていくと思います。

そんな厳しく、苦しい社会で、仮想空間に心の拠り所を見つける人々を否定することは決してできないなと感じました。

また「自由死」については、「もう十分」と思える満足感を得られ、最後に一緒にいたい人と穏やかな時間が過ごせるなど、人生の終わりを自分で選択できることは良いなと思いました。

一方で、経済的困難や社会的な孤立を感じている人が「自由死」を選ぶ可能性も考えられ、社会の不平等や経済的な格差が生死の選択に大きく関わってくることは問題です。

「自由」というのは一見 耳障りの良い言葉ですが、「自由経済」によって格差が生まれたように、「自由死」にも格差が見え隠れします。

将来的に「自由死」が合法化されるかもしれませんが、その選択が本当に「自由」によるものなのか?社会構造や経済的な理由に影響されたものなのか?

弱者の「本心」がねじ伏せられ、「本心」伝える機会が奪われないような社会になるためにはどうすれば良いのか考えさせれる作品でした。

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